47 ゼルバニア火山

 クルゼオン伯爵領・領都クルゼオンから街道を北へ向かうと、一日ほどでポドル草原の近くに出る。


 ここまではもうお馴染みの道筋だな。


 そこで街道を、ポドル草原には出ずに北西に進むと、西側に森を、北側に火山を望む一帯へとたどり着く。


 西の森はヴォルゲイの森と呼ばれるフィールドだ。

 Bランク冒険者がたまに出入りすると聞いている。

 「たまに」であるのは、そんなに美味しくないフィールドだからだな。


 美味しい、美味しくないというのは、冒険者にとって旨味が大きいかどうかという意味だ。

 出現モンスターが倒しやすく、かつよいドロップアイテムを落とし、積める「経験」の質も高いのであれば、「美味しい」。

 出現モンスターが倒しづらく、ドロップアイテムが微妙で、「経験」の蓄積もしづらいのであれば、「美味しくない」。

 実際には、すべての条件が揃ってることは滅多になく、三つの要素のうち一つでも◎があれば十分良いフィールドと言える。


 ヴォルゲイの森は、癖のないモンスターが出るという意味では◯、ドロップアイテムが微妙という意味では△、積める「経験」の質が低いという意味では△、といった評価らしい。

 特定のアイテムが必要な時に立ち寄ることはあっても、積極的に探索する冒険者はあまりいない。


 じゃあ「下限突破」の俺なら逆張りするようにこのフィールドで稼げるのか? というと、普通にそんなこともなさそうだ。

 

 俺の場合、一般的な冒険者から見たモンスターの倒しやすさは、今ひとつ判断材料になりにくい。

 レベルの高くないモンスターなら「爆裂石」で片付くからな。

 

 となると、残りの二項目――ドロップアイテムと「経験」のほうが重要ってことになる。

 だが、ヴォルゲイの森は◯、△、△のフィールドだ。

 最初の◯に意味がないとなったら、残る二つの△だけで評価することになる。

 

 そうすると、俺にとってのヴォルゲイの森は、一般的な冒険者にとってのヴォルゲイの森以上に微妙なフィールドということにならざるをえない。


 では、北にある火山――ゼルバニア火山と呼ばれるフィールドはどうか?


 ヴォルゲイの森と同じく三項目で評価するなら、ゼルバニア火山の評価は✕、◎、◯ってとこだな。


 モンスターは倒しづらいが、ドロップアイテムには恵まれていて、積める「経験」の質もそれなりに良い。


 さっき、◎が一個でもあれば十分良いフィールドだと言ったよな。

 これはゼルバニア火山にも当てはまるんだが、モンスターの倒しやすさが✕なのは一般の冒険者にとっては大きなネックだ。

 死んでしまっては元も子もないっていうのは、冒険者稼業の原則中の原則だからな。

 結果として、特定のドロップアイテム狙いの冒険者を除けば、ゼルバニア火山は圧倒的な不人気フィールドとなっている。


 だが、だからこそ、俺にとっては狙い目だ。


 出現モンスターのレベル帯は8~10と格上ではあるが、俺の攻撃手段ならどうとでもなる。

 むしろ、「経験」の質を上げるためには格上だったほうがいいくらいだ。


 HPとPHYの高いロックゴーレム、PHYとMNDが高い上に火属性に耐性のあるラヴァスライム、火属性攻撃を吸収するフレイムリザードといった普通なら厄介なモンスターも、俺との相性は悪くない。


 ゼルバニア火山もヴォルゲイの森も、さらに北側に抜けることができる点では同じだ。

 

 俺の現在の最終目的地は、ゼルバニア火山でもヴォルゲイの森でもなく、そのさらに北にある土地だ。


 最終目的地を目指すだけならどっちでもよかったんだが、どうせなら道中での旨味もほしいと思い、あえて面倒とされるゼルバニア火山経由を選んだのだ。


 ……え? 結局逆張りしてるじゃないかって?


 まあ、それについては言い訳のしようがないな。


 街道沿いにフィールドを迂回するルートもあるんだが、かなりの遠回りを強いられる。


 それに、街道沿いは人目も多い。


 実家を追放されたとはいえ、別に指名手配されてるわけではないんだが、今は人目を避けたい理由がある。

 人目を避けたいっていうより、人目のない場所で時間を取りたい、が正確か。


 その理由はもちろん、


「ステータスオープン」



Status――――――――――

ゼオン

LV 6/10 (1up!)

HP 35/35 (5up!)

MP 34/34 (5up!)

STR 19+8 (2up!)

PHY 17+13 (3up!)

INT 27 (3up!)

MND 17+1 (2up!)

DEX 25+3 (3up!)

LCK 17 (1up!)

GIFT 下限突破

EX-SKILL 覇王斬

SKILL 中級魔術 逸失魔術 魔紋刻印 初級剣技 投擲 爆裂魔法 看破 中級錬金術 黄泉還り 革命 不屈

EQUIPMENT ロングソード(切断) 黒革の鎧(強靭) 防刃の外套(爆発軽減) 黒革のブーツ(強靭) 耐爆ゴーグル

―――――――――――――



 新たに手に入れたスキルを試したいからだ。


 わかりやすそうなところから見ておくか。



Skill―――――

黄泉還り

死亡しても一定時間が経過すると自動的に蘇る。

一ヶ月に一回のみ。使用しなかった場合には残り回数がストックされる(最大で9回まで)。

―――――――



 「黄泉還り」は、「秘匿された実績『不死の英雄』」の達成によって習得できたスキルだな。

 「HPが0以下の状態で5分以上戦闘した後、その戦闘に勝利する」という無茶な条件だけに、スキルの効果も破格だ。


 一応、あの時のログを表示しておくと、



BackLog―――――

《秘匿された実績「不死の英雄」を達成しました。》

《秘匿された実績「不死の英雄」:HPが0以下の状態で5分以上戦闘した後、その戦闘に勝利する。》

《秘匿された実績「不死の英雄」達成によるボーナス報酬は以下の1つです。》

《スキル「黄泉還り」》

―――――――



 このスキルが額面通りの効果なら、レミィの「妖精の涙」がなくても、ゾンビポーションによるマイナスHP疑似無敵が使えるようになるだろう。

 

 もっとも、「一定時間」がどのくらいなのかは試してみないことにはわからない。

 さすがに「試しに死んでみる」なんてことをやる気にはなれないから、使うのはぶっつけ本番になるだろう。

 まあ、このスキルが必要になるような事態にならないように立ち回るほうがよほど大事だと思うんだが。



Skill―――――

革命

自分よりレベルが上の敵に対し、与えるダメージがレベル差✕10%増加する。

―――――――

Skill―――――

不屈

自分の現在HPを上回るダメージを受けた時、HPが1の状態で生き残る。ただし、現在HPが最大HPの25%以上残っている必要がある。一戦闘中に一回のみ。

―――――――



 この二つは、



BackLog―――――

《Aランクスタンピードのボス「超越せしゴブリンキング」をレベル10以下で討伐しました。》

《Aランクスタンピードボス討伐によるボーナス報酬は以下の1つです。》

《ボーナススキル:次に列挙するスキルのうち、一つを選んで習得できます。

 低レベル達成ボーナスにより、さらにもう1つスキルを選ぶことができます。

 スキル「心眼」

 スキル「革命」

 スキル「不屈」》

―――――――



 という「天の声」を受けて、三つのうちから二つを選んだものだ。


 敵の攻撃を見切ることができる「心眼」は強スキルとして有名なスキルだが、迷った末に俺は「革命」と「不屈」を選択した。


 今後レベル的に格上のモンスターを狩っていきたい俺としては、「革命」の与ダメージアップは見逃せない。


 これには、俺のレベル上限が10だってことも関係してる。


 10という上限は、べつに低いわけではない。

 人間としてなら平均くらいだ。


 だが、Aランク冒険者ならばレベルは15はほしいと言われるし、それが勇者となればさらに上がる。

 Aランクの勇者パーティなら、その平均レベルは最低でも25から。

 Bランク勇者パーティである「天翔ける翼」のベルナルドも、現在のレベルは23だと言っていた。


 モンスターと比較しても、10ではどうしようもないこともある。

 このあいだ戦った「超越せしゴブリンキング」の現在レベル21は異常値だが、本来の上限レベルも19はあった。

 すべてのゴブリンキングがレベル上限に達してるわけではないだろうが、レベルが10台後半のゴブリンキングがいてもおかしくはない。


 比較対象を魔族にまで拡げると……想像するのも嫌になるな。

 ベルナルドによれば、魔族の能力値は、レベルがカンストした勇者をも軽々と超えるらしい。

 その勇者のレベルが25だとしても、魔族の推定能力値は、人間換算でレベル30を超えると見るべきだろう。

 この想定ですら甘いほうで、実際にはもっと上でもおかしくない。


 さらに言えば、能力値の初期値や伸びしろは種族による差も大きいという。

 ひょっとしたら、魔族は能力値の初期値が高く、伸びしろも大きいのかもしれないよな。


 要するに、俺が常識的な方法でレベルを上限まで上げたとしても、魔族はおろかゴブリンキング――いや、下手をすればゴブリンジェネラルにすら能力値では敵わないってことなんだよな。


 将来の火力不足を補う意味からも、「革命」は見逃せないスキルだったというわけだ。


 もう一つ「心眼」と迷ったのは「不屈」だな。


 当たり前のことではあるが、俺だってHPがなくなるような戦い方をするつもりはない。


 その意味では「不屈」の発動機会は基本的にほぼないはずだし、しょっちゅうあるようでは困りものだ。


 それなら、普段使いしやすそうな「心眼」を取ったほうが、短期的な戦力という意味ではいいんじゃないか――


 そんなふうにも考えた。


 俺にはHPの「下限突破」もあるし、「黄泉還り」もある。

 そこに屋上屋を架すように「不屈」まで取らなくてもいいんじゃないか、ということも考えた。


 それでも「不屈」を取ったのには二つの理由がある。


 一つは、生命線となるスキルが多いに越したことはないということ。

 人間は死んだらそれまでなんだからな。

 「黄泉還り」による蘇生には「一定時間の経過」が必要という縛りがあるし、使えるのは一ヶ月に一度まで。

 「不屈」のほうは、蘇生するのではなく死なずに済むというメリットがあり、使用回数も一戦闘中に一回までと緩めだ。


 「不屈」を選んだ二つ目の理由は、その使用制限に関わるものだ。


 「不屈」は、「現在HPが最大HPの25%以上残っている必要がある」という形で、使用に制限がかかっている。

 これはおそらく、「HPが2しか残ってない状態で30のダメージを受けた時に、HPが1残った状態で生き残ってしまうと、30のダメージが1にまで軽減されたことになってしまい、効果が強すぎる」といったような世界の・・・判断が絡んでるんだろう。


 しかし、この使用制限を一読して、俺は思った。

 

 これって、「下限突破」できるんじゃないか? ――と。


 実際に試すのは難しいが、俺の場合は「下限突破」によってHPが25%以下の状態からでも「不屈」が発動する可能性がある。

 その分、俺にとっては使い勝手がよくなるはずだ。

 このスキルの価値は俺限定で普通より高いってことだよな。


 さらに言うと、スキルの希少性も決め手になった。

 強スキルとして知られてる「心眼」だが、それでも「知られてる」ってことは、さほど珍しいスキルではないということだ。

 「革命」と「不屈」は、そもそも一般に知られてない。

 「心眼」は「経験」を積み重ねることで習得できる道が残されてもいるが、「革命」と「不屈」はこの機会を逃せば次の機会があるかどうかわからない。


 そんなようなことを考え合わせて、今回はより希少な方のスキルを取ることにしたんだよな。


 他のスキルでは、「初級魔術」が「中級魔術」に、「初級錬金術」が「中級錬金術」に成長し、それぞれ使える魔法や作れるアイテムが増えている。

 だが、これは実際に使う時でいいだろう。


 ゴブリンキングのドロップアイテムは、


Item―――――

宿業の腕輪

非業の死を遂げたゴブリンの王が身につけていたとされる腕輪。STRが大きく上昇する代わりに他の能力値が大きく下がる。

STR+45 PHY-20 LCK-70

―――――――


 というもので、尖った性能ながら使い方次第では使えるかもな。


 ゴブリンキングが装備していたエクスキューショナーソードも回収した。

 檻の付いてる改造版も回収したが、あえて檻付きのほうを使うことはないだろうな。

 通常版のほうも重すぎて、現状持ち物リストにしまっておくしかないんだが。


 俺のメイン火力は、相変わらず爆裂石か無限「詠唱加速」による魔法連射になるだろう。


 宿業の腕輪を装備して殴るのも、火力だけならよさそうなんだが、被ダメージが増えるのは痛いよな。


 能力値の成長がやや魔法寄りになってることもあり、「中級魔術」や「爆裂魔法」を使い込んで新しい魔法を増やすのが当面の目標になる。

 ゼルバニア火山はモンスターのドロップもフィールド内で採取できる素材も特殊だから、「中級錬金術」のレシピ閃きにも期待したい。


 そんなことを考えつつ火山登りを始めた俺だったが、ほどなくして一つの問題に気がついた。


 嫌でも、気がつかずにはいられなかった。


 それは、



「あ、暑い……暑すぎる」



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