39 戦果
《レベルが6に上がりました。》
《スキル「初級魔術」が「中級魔術」に成長しました。》
《スキル「爆裂魔法」で新しい魔法が1つ使えるようになりました。》
《スキル「初級錬金術」が「中級錬金術」に成長しました。》
《エクストラスキル「覇王斬」を会得しました。》
《Aランクスタンピードのボス「超越せしゴブリンキング」をレベル10以下で討伐しました。》
《Aランクスタンピードボス討伐によるボーナス報酬は以下の1つです。》
《ボーナススキル:次に列挙するスキルのうち、1つを選んで習得できます。
低レベル達成ボーナスにより、さらにもう1つスキルを選ぶことができます。
スキル「心眼」
スキル「革命」
スキル「不屈」》
《秘匿された実績「不死の英雄」を達成しました。》
《秘匿された実績「不死の英雄」:HPが0以下の状態で5分以上戦闘した後、その戦闘に勝利する。》
《秘匿された実績「不死の英雄」達成によるボーナス報酬は以下の1つです。》
《スキル「黄泉還り」》
「長ぇよ!」
と、尽きることのない報酬ラッシュに思わずツッコミを入れる俺。
それぞれ気になる内容ばかりだが、今はそれより優先すべきことがある。
「レミィ、『妖精の涙』を頼む!」
『了解ですぅ~!』
近くの茂みから現れたレミィが、俺の頭上でくるくると舞う。
レミィの羽根からきらきらとしたものが舞い、俺の身体に降りかかる。
鱗粉かと思ったが、霧のような小さな水の粒みたいだな。
優しい光を放つ粒が、俺の身体を包んでいく。
俺は、自分のステータスを開いてみる。
戦闘終了時の俺のHPは「-547/30」だった。
光の粒が俺の身体にすべて吸い込まれると、それが一瞬にして「30/30」に回復した。
『よかったですぅ~。臭いもなくなってますよぉ!』
「魔臭とか言ってたやつか」
レミィの言葉通りなら、ゾンビパウダーによる擬似無敵化効果も解除されたということだ。
レミィの持つスキル「妖精の涙」は、対象のHP・MPを全回復し、同時にあらゆる状態異常を解除する、というものだ。
強力にも程がある効果だが、もちろん無制限に使えるわけじゃない。
よく知られてるように、スキルの一部には再使用までに必要なクールタイムが設定されている。
で、この「妖精の涙」のクールタイムはというと……なんと一ヶ月。
しかもその効果が及ぶ対象は、その妖精が「憑いている」相手に限られるという。
ロドゥイエは、妖精のことを「古代人の
その言葉の正確な意味はわからないが、憑依先として選んだ相手を手助けするために生み出された、と解釈してもいいだろう。
一ヶ月に一回だけとはいえ、絶体絶命の状況からの危機回生が狙える「妖精の涙」は、その解釈を裏付けるようなスキルなのかもな。
「妖精の涙」の効果については、ダンジョンでレミィを助けた帰り道にレミィから聞いて知っていた。
『もう、無茶をしないでくださいよぉ~。いくら「妖精の涙」があるとはいえ、なにかの間違いでうまくいかなかったらどうするつもりだったんですかぁ~!』
珍しく本当に怒ってるみたいだな。
もっとも、レミィが怒っても迫力はなく、怒っていてすらどこか愛らしい感じがしてしまうのだが。
「一応、二重に保険をかけたつもりだったんだ」
『二重に、ですかぁ?』
「ああ。まずは、ゾンビパウダーを使うことで、「下限突破」でHPをマイナスにした時に、そのまま死んでしまう可能性をフォローしておいた」
「下限突破」でHPをマイナスにできるかもしれない、というアイデアは、比較的初期から思いついてはいた。
それが確信に近づいたのは、シオンがポーションを買い占めていたからだ。
シオンの目的が過剰回復による現在HPの「上限突破」にあるのなら、俺もHPの「下限突破」ができる可能性は高くなる。
だが、シオンのほうはともかく、俺のほうはHPが0以下になるわけだからな。
HPが名目上マイナスになれたとしても、その瞬間にこの世界から死亡判定を喰らうおそれもあった。
だから、第一の保険として、シャノンにゾンビパウダー入りのポーションを用意してもらったのだ。
「もうひとつの保険は、もちろんレミィの『妖精の涙』だよ。あらゆる状態異常を解除してHPとMPを最大値まで回復させる――この効果なら、ゾンビパウダーによる回復効果反転があっても回復できると思ったんだ」
『そうですかぁ? 結構綱渡りだと思うんですけどぉ……』
「まあな。でも、『妖精の涙』の性能がレミィの説明通りなら大丈夫だと思ったんだ」
レミィの説明では、「妖精の涙」の効果は「状態異常を解除するのと同時にHP・MPを最大値まで回復する」というものだ。
これがもし、「状態異常を解除してからHP・MPを回復する」、あるいは「HP・MPを回復してから状態異常を解除する」だったら、うまくいかなかった可能性もある。
先に状態異常だけを解除されてしまうと、その瞬間に俺はマイナスHPのまま疑似無敵効果を失うことになり、あのゴブリンキングと同じ最期を迎えてた可能性がある。
逆に、先にHPへの回復効果が入ってしまうと、まだ残ってる回復反転効果によって、その回復がダメージとなってしまう可能性がある。
そうなると、マイナスHPのまま疑似無敵効果を解除されることになり、その瞬間に死が確定してしまうという可能性があった。
……まあ、そもそも「下限突破」がなんらかの辻褄合わせを行ってくれていて、マイナスHPでも普通に生きていられる可能性もそれなりにあったんだけどな。
ゾンビパウダーと「妖精の涙」に意味があったのかなかったのかを、確かめる方法はない。
さっきの俺の説明も、「可能性がある」の連呼でどうに煮えきらない感じだよな。
もちろん、ゾンビパウダーを使わずにHPをマイナスにしてみれば確かめられるんだが、もし悪いほうの想定が正しかったら、「検証成功、俺は死亡」となるからな。
もし今後、HPがマイナスになりかねない事態になった時には、たとえ本当はいらない可能性があったとしても、毎回ゾンビパウダーと「妖精の涙」を使うことになるだろう。
となると、この戦法は月に一回しか使えないことになるが……まあ、十分だよな。
こんな戦いを月に何回もやりたくはない。
そこで、城門側から声が聞こえた。
「おーい、無事かっ!」
声に振り返ると、城門側からレオのパーティがやってくるところだった。
一緒にギリアムまでいるな。
「なんとかな」
「マジであのゴブリンキングを一人で倒しちまったって言うのかよ……」
「運よく、いろんなことが噛み合っただけだ」
「ゼオンさん。過ぎた謙遜は嫌味にもなると言いましたよね?」
と言ってきたのは、ミラだ。
レオやギリアムの後ろにいたからわからなかった。
「なんでミラまでこんなとこに?」
「これでも元はAランク冒険者ですから。ゼオンさんに加勢しようと急いでやってきたのですが……遅かったようですね」
ミラは、左右の手に細身の双剣を提げている。
ゴブリンキングと同じく双剣の使い手みたいだな。
もっとも、パワーで圧するゴブリンキングとは違って、技術やスピードで勝負するタイプなんだろう。
「この魔石は……たしかにゴブリンキングクラスのもので間違いない。いや、ゴブリンキングのものより大きくないか?」
ギリアムは焼け焦げた地面に転がる子どもの頭ほどもある大きさの魔石を拾い、さっそく検分を始めている。
地面には、魔石以外にも転がってるものがあった。
いちばん近くにあるのは、エクスキューショナーソード。
ゴブリンキングが左手で握ってたほうだな。
通常、モンスターが「装備」してる防具は、モンスターと一緒に消滅する。
それが残ってるということは、やはりこれはモンスターに後から装備させたアイテムだったんだろう。
俺はエクスキューショナーソードを持ち上げようとしてみるが、
「うぐぐ、重すぎる!」
なんとか持ち上げるので精一杯、それも切っ先は地面についたままの状態だ。
これではとてもじゃないが武器としては使えない。
ゴブリンキングは片手で振り回してたが、人間が使うとすれば、STRの高い前衛職が両手持ちで使うことになるだろう。
俺には使えなくても、売却したらいい値段で売れるかもな。
厳密にはドロップアイテムじゃないことになりそうだが、俺のものとしてもいいだろう。
俺はエクスキューショナーソードを持ち物リストにしまっておく。
エクスキューショナーソードを片付けてみて、その下に別のアイテムが落ちてることに気がついた。
赤と黒が基調の、禍々しいデザインの腕輪だな。
Item―――――
宿業の腕輪
非業の死を遂げたゴブリンの王が身につけていたとされる腕輪。STRが大きく上昇する代わりに他の能力値が大きく下がる。
STR+45 PHY-30 LCK-99
―――――――
「ずいぶん極端な性能だな……」
STR+45は破格だが、PHYが下がった上にLCKは底辺まで落ちることになる。
LCKが低いと敵からクリティカルヒットを受ける可能性が高くなる。
使える状況が極めて限られる装備だろう。
俺が腕輪を持ち物リストに収納したところで、
「――おい、いい加減こんなところから出してくれ!」
地面に横倒しになったままの檻から、シオンが言ってくる。
「……これはどういう状況なのだ?」
と、ギリアムが訊いてくるが……俺だって知りたい。
「まあ、とりあえず出してやるか」
ポーション買い占めによって領都クルゼオンに多大な迷惑を与えたシオンではあるが、現時点では檻の中に閉じ込め続ける理由はない。
犯罪者ってわけではないからな。
それに、まだ周囲は戦場だ。
出してやらないと、檻ごとモンスターに襲われて死ぬかもしれない。
俺がロドゥイエを倒して手に入れたスキル「魔紋刻印」を使えば、あの檻も開くことができるだろう。
そう思って、俺がシオンの檻に近づこうとしたところで――
「あらあら。つまらない結果になってしまったわね」
檻の上に、いつの間にか異形の女が腰かけていた。
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