35 戦力比較

「ゴブリンキング――レベル21!」



Status――――――――――

超越せしゴブリンキング

LV 21/19

HP 350/350

MP 110/110

STR 81+19(右)、+21(左)

PHY 79

INT 25

MND 49

DEX 50

LCK 49

EX-SKILL 覇王斬

SKILL 統制 威圧 双剣技

EQUIPMENT エクスキューショナーソード(改) エクスキューショナーソード

―――――――――――――



 ……いろいろと突っ込みたいことはある。


 だが、ひとまずはレベルだろう。


 ゴブリンキングのレベル表記は「LV 21/19」。


 上限を・・・超えている・・・・・


『マスターっ! あいつ、ヤバヤバですよぉ~!』


 レミィが俺の肩の辺りに姿を現して言ってくる。


「……見えるのか?」


『妖精には特別な「目」がありますから! マスターの「看破」ほどじゃないですけど、レベルと名前くらいはわかります! あと、マスターよりどのくらい強いのかも、「色」を見ればわかります!』


「どのくらい強いんだ?」


『どうっっっしようもないくらいめちゃつよですぅ~! 真っ赤っかなんですよぉ~!』


 レミィは念話だが、俺のほうは肉声だ。

 レミィにしか聞こえない音量のはずだが、最初にレベルに驚いた時の声は抑えきれなかったからな。

 ゴブリンキングが俺を向く。


「逃してはくれないみたいだな」


『ま、マスター! あたしが囮になって引きつけるからそのあいだに――』


「馬鹿を言うな。せっかく助けたのに、身代わりになって死なれたんじゃ意味がない」


『で、でも、あいつは――!』


「レミィ。あれの準備をしておいてくれ」


『あれですかぁ!? でででも、いくらあれを使ったって、あっという間に押し切られちゃいますよぉ~! あれは一ヶ月に一回しか使えないんですからぁ!』


「考えがあるんだ。頼むよ、レミィ」


 なぜ詠唱をしないのかって?

 ゴブリンキングに睨まれ、身動きが取れないんだよな。

 わずかでも攻撃の意図や逃亡の素振りを見せたら即座に襲いかかってくる――

 言葉は通じずとも漂う空気だけでそれがわかる。


 そして、一度攻撃が始まれば、それを凌ぎ切るすべは俺にはない。


 ステータスが圧倒的に違うからだ。



Status――――――――――

ゼオン・フィン・クルゼオン

LV 5/10 (1up!)

HP 30/30 (5up!)

MP -394/29 (5up!)

STR 17+8 (3up!)

PHY 14+13 (1up!)

INT 24 (3up!)

MND 15+1 (1up!)

DEX 22+3 (3up!)

LCK 16 (2up!)

GIFT 下限突破

SKILL 初級魔術 逸失魔術 魔紋刻印 初級剣技 投擲 爆裂魔法 看破 初級錬金術

EQUIPMENT ロングソード(切断) 黒革の鎧(強靭) 防刃の外套(爆発軽減) 黒革のブーツ(強靭) 耐爆ゴーグル

―――――――――――――



 これが俺の、現在のステータスだ。


 比べる気にもならないが、大事なところだけ見ておこう。


 まず、今の状況で大事なのはDEX――敏捷性だな。


 俺のDEXが装備込みで25なのに対し、ゴブリンキングは50もある。

 DEXが二倍でも単純に足の速さが二倍になるわけではないが、それでも城門まで逃げ切れるとは思えない。

 

 装備アイテムの後にあるカッコ書き――「ロングソード(切断)」みたいな奴は、スキル「魔紋刻印」による強化効果だ。

 「ロングソード(切断)」なら、STR+2と切れ味向上効果。「黒革の鎧(強靭)」なら、PHY+2と防具の破壊予防効果。「防刃の外套(爆発軽減)」なら、MND+1と爆発によるダメージの軽減効果が付与される。

 ロドゥイエの使ってたものと比べれば魔紋としては単純なものなんだろうが、それでも能力値の補正と特殊効果が付くのはおいしいよな。


 だが、そんなレアスキルを使って強化した装備と能力値があっても、このゴブリンキングの圧倒的なステータスの前には霞んでしまう。


 武器による補正を込みにすれば、ゴブリンキングのSTR(攻撃力)は左右ともに100を超える。

 対して、俺のPHY(防御力)は装備込みで27にすぎない。


 ダメージは様々な条件によって複合的に決まるんだが、「攻撃側のSTR-マイナス防御側のPHY」が一つの参考になると言われてるな。


 騎士や冒険者など戦いを生業とするもののあいだでは、このことを利用した彼我の戦力差の簡単な比較式が知られてる。


 それは、


「敵のSTR-マイナス自分のPHY」が最大HPの四分の一以下であること。


 この条件の意味するところは、「三回までなら連続で攻撃を受けても死なずに済む(=四回目で死ぬ)」ということだ。


 すこぶる実用的でわかりやすい基準のため、広く冒険者たちにも愛用されている。

 大幅に簡易化された式だから実際のダメージとの誤差も大きいらしいが、おおよその目安としては十分だ。


 もっとも、俺の持つ「看破」のようなモンスターのステータスを直接見られるスキルは習得するのがかなり難しいと言われてる。

 俺がポドル草原でゴブリンのSTRを推し量った時のように、自分や味方の能力値との相対比較で推定するしかないんだよな。

 俺と同じくらいの力だから同じくらいのSTRだろう、というような感じだ。


 それでも、探索の進んだフィールドやダンジョンに出現するモンスターに関しては、主要なデータをまとめた図鑑が冒険者ギルドなんかには置いてある。

 その図鑑に載ってる推定値と自分の能力値を比較して、そのフィールドやダンジョンが自分に適したレベル帯かどうかを事前に判断できるってわけだ。


 さて、考えるのも嫌になるが、この推定式に俺とゴブリンキングの能力値を当てはめてみよう。


 ゴブリンキングのSTRから俺のPHYを引き算すると、73。


 俺の最大HPは30だ。


 こういう言い方が正しいかは知らないが、「ゴブリンキングの攻撃を一回喰らうたびに俺は二回半近く殺される」ってことだよな。


 俺の能力値の中でゴブリンキングに近いのはINTくらいか。

 そのINTですら1負けてるし、大体ゴブリンキングは魔法系スキルを持ってないのでINTの高さは関係ない。


 大体なんだよ、「超越せしゴブリンキング」って。


 ただのゴブリンキングですら厄介なのに、レベル上限を超えたゴブリンキング?


 いや待て。


 上限を超えた?

 

 怯む俺をどう見たのか、ゴブリンキングが黄色い歯を剥き出しにして嗤う。

 

 そしてどういうつもりか、肩に担ぐようにしていた右手の剣を、地面に向かって振り下ろす。

 

 といっても、俺の方に、ではなく、ゴブリンキングの脇に向かってだ。


 斬るというより、何かを地面に叩きつけるような動作だな。

 

 振り下ろされた剣には、どういうわけか、鳥籠のようなものがついていた。

 

 いや、違うな。

 

 ゴブリンキングがデカすぎてサイズ感が狂ってる。

 

 鳥籠と見えたのは、実際には人がすっぽり入りそうな黒い檻のようなものだった。

 

 棍棒の先に鉄球をつけて振り回すフレイルという武器があるが、まるであれだ。


 肉厚の巨大な剣の切っ先近くに穴があり、その穴に通された鎖の先に、黒い檻がくっついている。

 

 剣の遠心力を受けて、檻が地面に叩きつけられた。


 ドガッ!

 

「ぐあああっ!?」


 黒い檻の中から悲鳴が聞こえた。


 この時点で、俺は激烈に嫌な予感に襲われた。


 あの黒い檻には見覚えがある。

 下限突破ダンジョンでレミィが囚われていたケージ――あれを人間大に大きくしたようなものだ。


 そして、檻の中から上がった悲鳴にも聞き覚えがあった。


 正確には、悲鳴ではなく、その悲鳴の声色だ。


「おい、まさか……」


 嘘であってほしいと思った。

 

 だが、見間違えるはずもない。


 人間大のケージの中に囚われていたのは――



「シオン!」



 俺の双子の弟が、どういうわけかそこにいた。

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