18 初回踏破ボーナス

 「天の声」によるナレーションは、ウインドウを開くことでログが見える。



《「ポドル草原ダンジョン」初回踏破によるボーナス報酬は以下の2つです。》


《1 ボーナススキル:次に列挙するスキルのうち、一つを選んで習得できます。

 スキル「心眼」

 スキル「気配察知」

 スキル「鑑定」》


《2 ダンジョンの改名権:「ポドル草原ダンジョン」の名称を一度だけ変更することができます。》



「『心眼』と『気配察知』と『看破』か……」


 めちゃくちゃ悩ましい。


 一応説明しておくと、「心眼」は敵の攻撃を見切りやすくなるスキル、「気配察知」は敵の気配を遠くから察したり、隠れてる敵を発見したりするスキル、「看破」は対象となる者のステータスを見破るスキルだ。

 「看破」と似たようなスキルに「鑑定」があるが、そっちは「もの」専用。「もの」専用の「看破」とは別物らしい。


 言うまでもなく、どのスキルも優秀だ。

 できることなら全部欲しい。


「……でも、さすがに『看破』だろうな」


 「看破」を使えば対象のステータスがわかる。

 ステータスがわかれば、相手の弱点もわかるだろう。

 相手が強すぎると感じたら逃げる選択肢も考えやすい。


 「心眼」は戦闘に突入してからの安全性を高めてはくれる。

 でも、そもそもステータス的に不利な敵との戦いは極力回避するのが理想だよな。


 「気配察知」と「看破」の比較は、ちょっと悩んだ。

 だが、気配で敵の居場所がわかったとしても、敵の強さがわからなければ、戦うべきか否かの判断はできない。

 「気配察知」は偵察系のスキルとして有名だが、スキルでない常識的な気配の察知でも、ある程度補いはつくんだよな。

 対して、「看破」をスキル以外の方法で代用することは不可能だ。


 それに、さっきの戦いでの反省もある。


 俺は、ここのダンジョンボスを、ゴブリンキャプテンだと思いこんでいた。

 もし最初からゴブリンジェネラルだとわかっていたら、こんな危険は犯さなかったかもしれない。

 じゃあレミィを見捨てられたのかと言われると、口をもにょらせるしかないけどな。


 ついでに言うと、俺は道中でもおそろしい勘違いをしてた可能性が高い。

 ボスがゴブリンジェネラルだったのなら、俺がゴブリンだと思い込んでたモンスターはゴブリンソルジャーで、ゴブリンリーダーだと思ってたモンスターはゴブリンコマンダーだったことになる。

 ポドル草原の地上にいたモンスターはただのゴブリンで合ってるはずだが、ダンジョン内の「ゴブリン」はゴブリンの亜種であるゴブリンソルジャーだったというわけだ。

 敵モンスターの強さを完全に見誤ってたことになる。


 たしかに、言われてみれば、ゴブリンリーダーが爆裂石二発を耐えるのはちょっとHPが高すぎる気はしたんだよな。

 それに、ダンジョン内の「ゴブリン」が落とした魔石は、地上でゴブリンが落とした魔石より、ちょっと大きく赤みが強かった。

 その時点で疑問に思うべきだったんだろう。


 自分のとんでもない勘違いに冷や汗が止まらない。


 そんな反省を踏まえるなら、


「よし、『看破』にしてくれ」



《スキル「看破」を習得しました。》



 もうひとつ、「天の声」がボーナスとして提示してきたのは、ダンジョンの名前の変更権だ。


 ――ダンジョンの初回踏破者は、そのダンジョンを改名する権利を得る。


 これ自体は、一般にもよく知られてることではある。


 難しいダンジョンを初めて攻略した者が、その事実を証しだて、己の名前を知らしめるために、ダンジョンに自分の名前を付けることがあるんだよな。


 遥か昔にそうして付けられたダンジョンの名前が、元の人物の存在が忘れ去られたあとになっても地名として残ってる……なんて事例も結構あるらしい。


 何か実利的なメリットがあるわけじゃないが、冒険者としては大変に名誉なことだとされている。


「……でも、ゼオンダンジョンとか名付けるのもどうなんだ?」


 もし俺が伯爵家の嫡男のままだったら、クルゼオンダンジョンと名付けたかもしれないな。


 自己顕示欲という意味では同じだが、貴族的に考えるなら、家名が売れることにはとても大きな意味がある。


 有力な貴族と見なされ、尊敬(と嫉妬)を集めるのはもちろんのこと。

 ダンジョンを初回踏破するような冒険者をお抱えにしているとなれば、軍事的な意味でも一目置かれる。


 意外なところでは、他の貴族とのあいだに土地を巡る係争が起きたりした時に、ダンジョン周辺の土地がその貴族の正当な領土であると示すのに役立ったりもする。

 なにせ、ダンジョン公認でその貴族の名前が冠されてるわけだからな。

 要は、土地所有者としての正当性が主張しやすくなるわけだ。

 土地の正当な所有者であると主張できるということは、そこに住む人たちから当然の権利として税金を取れるということでもある。


 とまあ、貴族であれば家名をダンジョンに冠するところではある。


 だが、俺は実家からは勘当された身だ。

 何が悲しくて、自分を逐い出した家の名前を、死ぬ気で踏破したダンジョンにつけなければならないのか。

 廃嫡されてる以上、俺の一存で勝手に家名を使う権利がないってのもあるけどな。


「名前は変えないでおくか? いや……」


 冒険者ギルドにこのダンジョンの踏破を報告すれば、冒険者ランク昇格の大きな査定材料になるはずだ。

 自分の名前をダンジョンに冠するのは小っ恥ずかしいが、俺が名付けたとわかる名前にしておく必要はある。


「そうだ!」


 俺は閃いた案を「天の声」に告げる。


「このダンジョンの名前を、『下限突破ダンジョン』に変える!」


 この方法なら、俺のギフトの名前だけを明かせば、俺がダンジョンの命名権を行使した証拠になる。

 俺以外の奴がわざわざ俺のギフトの名前を付ける理由がないからな。



《「ポドル草原ダンジョン」の名前が「下限突破ダンジョン」に変更されました。》



 ……冷静に考えてみると、かなり変な名前のダンジョンだよな。

 実家の関係者にバレるというデメリットもある。

 だがまあ、ダンジョン踏破の報告をギルドにすれば、いずれにせよ領主の耳にも届くからな。

 レミィの名前を使うという案も浮かんだんだが、その場合ギルドにレミィの存在を明かす必要が出てきてしまう。


 なお、俺のギフトの名前を半ば公開することになるが大丈夫か? という点については心配いらない。


 父である伯爵はシオンの授かったギフト「上限突破」のことを貴族仲間に触れ回っていることだろう。

 成人の儀を執り行った新生教会の神官はシオンを勇者パーティに勧誘したというから、そちら経由でも話が広まってるはずだ。


 それとセットで、廃嫡された俺のギフトのことが世に知られるのも、時間の問題でしかないだろう。


 でもまあ、知られたところで弱点がバレるような性質のギフトじゃないからな。

 弱点を見つけるより、このギフトの長所を発見するほうが難しいくらいだ。


 シオンの「上限突破」も、詳細を伏せるよりは明かしてしまったほうが諸々の勢力からチヤホヤされそうという意味で、効果を秘匿するメリットがないわけだな。


 もちろん、授かったギフトの内容次第では、ギフト名だけを明かして内容を伏せたり、ギフト名ごと全部伏せたりすることもある。

 そういう場合には、成人の儀を執り行った神官への多額の寄付(という名の付け届け)を公然と要求されるらしいけどな……。


「あ、マスター! ここに何か落ちてますよぉー!」


 ボス部屋を曲芸飛行してたレミィが、部屋の隅の方で俺を呼んだ。

 近づいてみると、


「ドロップアイテムか! なんだってこんな端っこに……」


「マスターが爆裂石で盛大に吹っ飛ばしまくったからじゃないですかぁ?」


 ……まったくその通りだな。


 部屋の隅に落ちてたのは、透明な板の嵌った不思議な形状のベルトのようなものだった。

 海に潜って貝や魚を獲る海女あまと呼ばれる人たちがいるが、彼女らが潜水する時に使う道具に近い。

 なんて言ったか……そう、


「ゴーグル、か?」


 俺はそれを拾い上げる。

 アイテムの詳細な鑑定には「鑑定」スキルが必要だが、自分の所持物に関しては「鑑定」がなくてもそれなりにわかる。

 「鑑定」に出さないとわからない情報もあるけどな。



Item―――――

耐爆ゴーグル

爆発に伴う爆炎、爆煙、爆光、爆音、振動から目と耳を保護するためのゴーグル。土属性と火属性の攻撃に一定の耐性がある。

―――――――



「おっ、これは助かるな」


 爆発のたびに毎度目を逸らしたり耳を塞いだりするのは隙が大きい。

 さっきのゴブリンジェネラル戦では気合いで耐えてたんだが、装備で対処できるならその方がいいに決まってる。


 俺がさっそくゴーグルを装備してみると、


「かっこいいです! ばっちりお似合いですよぉ~、さすがあたしのマスターですっ!」


 レミィが俺の頭の周りを飛びながら褒めてくれる。

 実家でも(成人の儀の前は)使用人たちから褒められることはあったが、レミィは表現が率直だから照れるよな。


「さあ、じゃあ地上に戻るとするか」

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