16 今回のリザルト

《スキル「投擲」を習得しました。》


《スキル「爆裂の素養」が「爆裂魔法」に進化しました。》


《「ポドル草原ダンジョン」を踏破しました。》


《ダンジョンボス部屋奥の脱出用ポータルが使用可能になりました。》


《「ポドル草原ダンジョン」の初回踏破を達成しました。》


《「ポドル草原ダンジョン」初回踏破によるボーナス報酬は以下の2つです。》


《1 ボーナススキル:次に列挙するスキルのうち、一つを選んで習得できます。

 スキル「心眼」

 スキル「気配察知」

 スキル「看破」》


《2 ダンジョンの改名権:「ポドル草原ダンジョン」の名称を一度だけ変更することができます。》



「おいおい、いっぺんに来すぎだろ」


 ロドゥイエを倒した時に手に入れたスキルや新魔法もまだ全然把握できてないんだが。


『ちょっと、ゼオン! あたしのことを忘れないでくれませんかぁー?』


 と、手元のケージの中でレミィが言う。


 レミィはちょっと機嫌が悪そうだ。

 さっき思いっきり空中に放り投げてしまったからな。

 もちろん、あのあとでちゃんとキャッチしたんだが、怖い思いをさせたのはまちがいない。

 命の恩人であることがわかってるから、この程度の怒り方で済んでるんだろう。


 早くこの鬱陶しいケージから出してやらないとな。


「悪い悪い。うまくいくかどうかわからないけど試してみるよ」


 ロドゥイエを倒した時に得たスキルに、こんなのがあった。



Skill―――――

魔紋刻印

魔力に親和性のある素材に魔紋を刻むことで特別な効果を持たせることができる特殊な系統の付与魔法。武器や防具、アクセサリに魔紋を施すと耐久度が減少する。

使い込むことでさらなるスキルを覚えそうだが、その道のりは遠そうだ……


現在付与可能な特性:

「強靭」「切断」「水属性軽減」「水属性増幅」「爆発軽減」

―――――――



 ロドゥイエがあの魔法を無効化するローブやレミィを閉じ込めてるケージは、このスキルで作ったみたいだな。


 俺はさっそく黒い鳥籠のようなケージを地面に置くと、


「ええと……?」


 ケージの魔紋を指でなぞると、その効果が感覚的に理解できた。

 このケージにかけられた魔紋は、「空間隔離」「破壊不能」「魔力吸収」の三つだな。

 どれも驚くほどに複雑で、「魔紋刻印」を覚えたての俺にはとても扱えそうにない高度な魔紋だ。


『解除できそうですかぁ?』


 レミィがちょっと不安そうに訊いてくる。


「解除するだけならなんとかなりそうだ」


 同じ魔紋を施せと言われたら絶対に無理だが、既に出来てる魔紋を壊すのは簡単だ。

 ロドゥイエが着てた黒ローブなんかは力技でぶっ壊してしまったしな。

 あれと同じ方法で暴発させるのは危険だが、「魔紋刻印」で回路の一部を書き換えればもっと穏便な形で解除できる。


 ……よくよく考えてみると、あの黒ローブを壊したのはちょっともったいなかったよな。

 鹵獲してれば超有用な防具として使えたはずだ。

 まあ、あのローブを壊せたからこそロドゥイエを倒せたんだからしょうがない。

 逆に、ロドゥイエがあのローブを装備してなかったらと思うとぞっとするな……。


「ここをこうして……と」


 「空間隔離」「破壊不能」「魔力吸収」の三つのうち、壊すのは「破壊不能」だけでよさそうだ。

 ロドゥイエが夜なべして組んだ(?)緻密な回路の一部を切断すると、「破壊不能」の魔紋が効果を失う。

 一見繋ぎ目がなさそうに見えたケージだが、底の部分を半分ひねると側面から上がきれいに外れた。


「で、出られましたぁ!」


 ケージから解放されたレミィが、空中で8の字を描いて飛び回る。

 その嬉しそうな様子に俺までほっこりしてしまう。


 はしゃぎ回るレミィの声は、これまでの念話のようなものではなく、本人の口から出た肉声だ。

 「空間隔離」の魔紋のせいで物理的な声だと外に届かなかったんだろうな。


「よかったな、レミィ」


 俺がそう声をかけると、


「ありがとうございます、マスター! これからよろしくお願いしますね!」


「……えっ?」


 レミィの何かをすっ飛ばしたような発言に、思わず首をひねる俺。


「妖精の命を救ったのですから、ゼオンは今日からあたしのマスターになるですよー!」


「待て待て。言ってる意味がわからない」


「光栄に思ってくださいね、マスター! 妖精に憑かれることは魔術師として最高のステータスシンボルなんですから!」


「いや、俺は魔術師じゃないんだが……」


 さらに言えば、「妖精憑き」が魔術師のステータスシンボルだったのは遠い昔――この世界の黎明期の話のはずだ。

 妖精の存在自体が疑われてる現代において、妖精が人に憑くなんて現象は、法螺に法螺を重ねたような話でしかない。


「ええ!? あれだけ魔法を連発しておきながら魔術師じゃないんですか!?」


「魔術師どころかまだ駆け出しの冒険者だよ」


「……そういえば、使っていたのは『マジックアロー』だけでしたね。それもあまり洗練されてない印象の」


「悪かったな、下手くそで」


「そ、そこまでは言ってないじゃないですかぁ」


 たしかに、レミィの「マジックアロー」は発動も早く、魔力の流れも洗練されていた。

 ケージに魔力を吸収されてる状態であれだからな。


「……まあ、ついてくるっていうなら別にいいけどな」


 この身体で食費や宿代がかかるわけでもないだろうし。


 問題があるとすれば、


「いまや妖精なんて伝説の存在だからな。レミィを連れて歩いたりしたら目立ってしょうがない」


 目立つだけならともかく、妖精を奪ってやろうと襲いかかってくる奴もいるかもしれないよな。

 貴族に目をつけられてお召し上げ、なんて事態になるのも困る。


 今の俺は実家の力を当てにすることもできないからな。

 なんならシオンあたりが率先して俺から妖精を取り上げようとしかねない。

 ……あいつは昔から俺の持ってるものを欲しがるんだよな。


「そこは大丈夫ですよぉー。妖精は姿を隠すこともできますからっ」


 と言って、レミィはその場でくるり。

 透き通った羽根と花びらのようなスカートが舞ったかと思うと、レミィの姿が見えなくなる。


『どうですー? 見えませんよね?』


「ああ、見えないな」


 俺が返事をすると、空中に回転を終えかけたレミィが出現して静止する。

 さっきとは逆の方向に回転したみたいだな。

 動きの最初の方は消えてるから見えなくて、最後の方だけ見えたわけだ。


「ざっとこんなもんですよぉー」


 えへんと自慢気に胸を張って、レミィが言った。

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