11 魔法連射考
俺は通路の奥にゴブリンを確認すると、「アクアスクトゥム」で前方に水塊を二つ生み出した。
その水塊に、
「『マジックアロー』! 『マジックアロー』! ……」
「マジックアロー」を連続で使用、「詠唱加速」を発動させる。
二つの水塊が壊れる頃には、「マジックアロー」の詠唱時間は既に半分を切っていた。
障害物がなくなったことで、俺の放った「マジックアロー」8号がゴブリンの頭に命中する。
ゴブリンはよろけたが、頭を振ってから俺へと向き直り、憎悪の叫びを上げてくる。
あいかわらず、棍棒で殴ったほうがマシくらいの威力にしか見えないな。
だが、
「『マジックアロー『マジックアロ『マジックア『マジック『――」
そんな威力の魔法でも、五、六発も当てればゴブリンを倒せる。
俺の詠唱はさらに加速し、危険な領域へと突入していく。
「『マジック『マジ『マジ『マ『マ……」
二体目のゴブリンは数秒で、三体目は一秒ほどで、四体目はほぼ一瞬で溶けてしまった。
《スキル「初級魔術」で新しい魔法が使えるようになりました。》
Skill――――――――――――
初級魔術
ごく初歩的な魔法を扱うことができる。このスキルを使い込めば使用可能な魔法が増えそうだ……
現在使用可能な魔法:
マジックアロー
クリエイトウォーター
アクアスクトゥム
クリエイトウォーターフロー
マジックミサイル(NEW !)
――――――――――――――
Skill――――――――――――
マジックミサイル
標的を追尾する魔法の弾丸を射出する。使い込むことで新たな魔法を閃きそうだ……
――――――――――――――
「これだぁっ!」
と、俺は思わず拳を握る。
この魔法があれば、地下洞のゴブリンを倒せるんじゃないか?
遠巻きに誘導性のある魔法を放ちながら、後ろに下がりつつゴブリンを一体ずつ始末していく。
そのうちに「詠唱加速」も重なるから、初動でよほどの数にたかられなければ、魔法の連射速度で押し切れる!
いや、今やってみせた「マジックアロー」加速連射でも十分かもな。
「詠唱加速」は序盤の詠唱時間の遅さ(といっても通常の詠唱時間なのだが)がネックだが、「アクアスクトゥム」で標的となる水球を作っておくことで、事前に加速を貯めておくことができるのだ。
もっとも、状況によっては「アクアスクトゥム」を唱える隙がないかもしれない。
「マジックアロー」の連射には、もうひとつ弱点がある。
「マジックアロー」は、基本的にまっすぐにしか飛ばないからな。
「詠唱加速」をすると、どうしても一発一発の狙いが甘くなり、正直外れてる「矢」がそれなりにある。
ダンジョン内ならともかく、あの崩れやすそうな地下洞で連射を敢行するのは危険だろう。
まあ、爆裂石を投げまくるのに比べれば、はるかにマシだとは思うんだが。
今習得した「マジックミサイル」なら、その問題を回避できるはずだ。
スキルの説明文によれば、「マジックミサイル」には標的を追尾する性質がある。
「詠唱加速」で連射しても、的を外す心配はないということだ。
今なら表のゴブリンも倒せるはずだ――そんな確信が湧いてくる。
「どうする? 引き返すか?」
だが、これまでにも結構進んできた。
来た道を引き返すより、ボス部屋前の聖域に辿り着くほうが早いって可能性もある。
今から引き返す場合には、途中で安心して休憩できるポイントがないって問題もあるな。
「いや、まずは性能の確認か」
引き返すにしても、「マジックミサイル」が期待通りの性能かを確かめるのが先だ。
俺は次のゴブリンを見つけると、
「『マジックミサイル』!」
詠唱時間は「マジックアロー」の倍くらいか。
生み出された半透明の弾丸が、緩く弧を描いてゴブリンに命中する。
頭を撃たれたゴブリンが仰け反って倒れるが、すぐに怒りの形相で起き上がる。
だが、その足元はふらついてる。
一撃必殺とはいかなかったようだが、「マジックアロー」よりは効いてるみたいだな。
「よし!」
俺はガッツポーズをすると、持ち物リストから爆裂石を取り出した。
今回は「詠唱加速」はなしで、爆裂石を三連続で投げつける。
初見の魔法にいきなり命は賭けられないからな。
轟音が収まってみると、ゴブリンの群れは爆煙の臭気だけを残して消えていた。
「たしかに軌道が曲がったな。威力も、『マジックアロー』よりは強いみたいだが……」
これだけだとまだはっきりしないな。
俺は次のゴブリンを見つけると、「アクアスクトゥム」で水塊を前方にいくつか生み出してからの「詠唱加速」で、「マジックミサイル」を連射する。
「マジックミサイル」は、一撃でひとつの水塊を破壊した。
これで「マジックアロー」より威力が高いことは確定だが、水塊がすぐに消費されることには問題もある。
「詠唱加速」が乗り切らないのだ。
「詠唱加速」がその詠唱時間短縮の下限である「本来の詠唱時間の半分」を突破するまでには、それなりの数を撃つ必要があるからな。
結局、詠唱が加速しきる前の十数発の「マジックミサイル」で、ゴブリンの群れが全滅した。
「詠唱加速」は乗り切らなかったが、ゴブリンが接近する前に倒すことはできた。
「一体当たり3、4発ってとこか」
爆裂石には劣るが、まずまずの威力だ。
ただ、なまじ威力が高い分、「詠唱加速」が乗り切らないっていうのは盲点だったな。
「って、待てよ? 『詠唱加速』の『下限突破』をするなら、一発当たりの威力は低くてもいいってことにならないか?」
「詠唱加速」が乗り切った時の連射速度を考えると、一発当たりの威力はあまり関係ないとも言えるよな。
さっきの感じだと、「マジックミサイル」の詠唱時間がまだ一秒を切らない時点で、「マジックアロー」なら既に十分の一秒を突破してる。
その瞬間だけを切り取れば、「マジックミサイル」を一発撃つあいだに「マジックアロー」を十発撃てるってことだよな。
となると、その瞬間に出せる単位時間当たりの火力では、「マジックアロー」が「マジックミサイル」を凌ぐことになる。
百分の一秒に一発、千分の一秒に一発……とさらに刻んでいけるのなら、一秒当たりに発射される「マジックアロー」の数は、おそらく無限に増えていくはず。
たとえ一発当たりのダメージが小さかったとしても、無限回撃てるならダメージは無限だ。
1×
「マジックミサイル」に「マジックアロー」の2倍の威力があったとしても、先に無限連射状態に到達できる「マジックアロー」のほうが総合的なダメージが上だってことだよな。
詠唱時間の下限を突破することで、魔法の一発当たりの威力が意味をなさない次元に到達しうるというわけだ。
……少なくとも理屈の上ではな。
だがもちろん、「マジックミサイル」が無用の長物ってわけでもない。
「マジックミサイル」には対象を追尾するという便利な特性があるからな。
さっきのゴブリンくらいの相手なら適当に撃っても回避されることはないようだ。
「マジックアロー」の方は、狙いが甘かったり相手が動いたりすると、的を外すこともそれなりにある。
まあ、秒間十発撃てるなら、一発や二発外れたところでどうということもないのだが。
とはいえ、道中でゴブリンを倒す上でいちばん安定するのは、やっぱり爆裂石なんだよな。
「アクアスクトゥム」で事前に水塊を設置する手間がいらず、「詠唱加速」のための時間もいらない。
「マジックアロー」や「マジックミサイル」が単体を標的とする魔法なのに対し、爆裂石は敵全体を攻撃できる。
「爆裂の素養」も気になってるから、魔法だけじゃなく爆裂石も使っておきたい。
それに、いくらMPに下限がないとはいえ、俺の集中力には限界がある。
高速で魔法を連射するより、何も考えずに石を投げるだけの方が楽に決まってる。
「集中力の低下を『下限突破』……はできないよな」
たとえできたとしても、限界以上に注意散漫になるとしか思えない。
集中力をゼロ以下にすることに何かプラスの意味を見出すのは難しそうだ。
この場合に必要なのは、大胆な発想の転換ではなく、ごく当たり前の休息だろう。
「なんでも『下限突破』すればいいってわけじゃないんだよな……」
そんなことを考えつつ、爆裂石を投げたり魔法を連射したりしながらダンジョンを進むことしばし。
「おっ、ようやくか」
俺の前方に、開けた空間が現れた。
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