08 スキル習得

 脳を揺さぶる爆音とともにゴブリンどもが弾け飛ぶ。


 俺は光を直視しないよう目をそらす。

 耳には持ち物リストから取り出した薬草を噛んでペースト状にしたものを詰めるようにした。

 薬草は傷口があればそれを塞ぐように浸透してなくなるが、傷がなければそのままだ。爆裂石と同じく0個になってた薬草を-1個にしてひとつ取り出し、即席の耳栓を作ったのだ。


 ダンジョン内で耳栓なんて不用心と思うかもしれないな。

 でも、爆裂石を投げるたびにしゃがみこんで耳を塞ぐというのも、それはそれで危険なんだよな。

 万一爆裂石を耐えたモンスターがいた場合に無防備な体勢で攻撃を受けるかもしれないからだ。


「道に迷う心配はなさそうだな」


 さいわいなことに、このダンジョンの構造は単純だった。

 たまに四つ角があるくらいで基本的には一本道。

 これまでの傾向からして、ボスがいるのは真っ直ぐ進んだ奥だろう。

 

 階層が複数あるダンジョンも多いと聞くが、このダンジョンの難易度を考えると一層だけと思っていいんじゃないか?


 おそらく、最近できたばかりのダンジョンなんだろう。

 ポドル草原にはそれなりに冒険者の出入りがあるし、近くを通る街道は商人や一般市民も通るからな。

 ゴブリンの群れが棲み着いたという情報が入ったのが先週なんだから、ダンジョンができたのは長く見積もっても一ヶ月前といったところか。


「今のところゴブリンばかりだな」


 やはりレベル2になったことで「経験」が渋くなったのか、その後レベルアップはしていない。

 俺はぼやきながら通路の奥のゴブリンの群れに爆裂石を投げつける。

 結果はいつもの通りだったが、



《スキル「爆裂の素養」「初級魔術」を習得しました。》



「おおっ? 『ステータスオープン』!」



Status―――――

ゼオン・フィン・クルゼオン

age 15

LV 2/10

HP 15/15

MP 14/14

STR 12+6

PHY 11+9

INT 15

MND 12

DEX 13+3

LCK 10

GIFT 下限突破

SKILL 爆裂の素養 初級魔術

EQUIPMENT ロングソード 黒革の鎧 防刃の外套 黒革のブーツ

―――――

Skill―――――

爆裂の素養

爆裂魔法の素養。あと少しのきっかけで「爆裂魔法」が使えそうな気がする……

(スキル「爆裂魔法」を習得すると消滅します。)

―――――――

Skill―――――

初級魔術

ごく初歩的な魔法を扱うことができる。このスキルを使い込めば使用可能な魔法が増えそうだ……


現在使用可能な魔法:

マジックアロー

クリエイトウォーター

―――――――



「魔法を覚えたのか!」


 これも広く知られてることだが、「経験」を積み重ねることで、その内容に応じたスキルを習得できることがある。

 「自然習得」と呼ばれる現象だな。


 この「自然習得」は、スキルによって習得難易度に大きな開きがあるという

 本人の資質にも左右されるから、誰でも努力次第で狙ったスキルを覚えられるわけではないらしい。


 剣で戦ってれば大体覚える「初級剣術」などとは違って、魔法系のスキルは習得難易度がかなり高いと言われてる。

 そりゃ、生まれつき魔法が使える人間なんていないからな。

 剣の修行はできても、魔法の修行は難しい。

 適切な修行ができないのであれば、いつまで経っても魔法を覚えないのは道理である。


 魔法系スキルの習得については、宮廷魔術師に代表される魔法戦力を抱える国や、「奇跡」を演出するために魔法を必要とする「新生教会」、そして魔術師系の冒険者のみが属する「魔女の血統」、勇者育成のための超国家組織である「教導学院」、数々の勇者パーティの属する「勇者連盟」なんかは、詳しいノウハウを秘匿してると言われてるな。


 もちろん、そうした組織に所属していない人間にも、魔法系スキルの持ち主はいる。

 たとえば、何かのきっかけで魔法系スキルに目覚めた冒険者とかだな。


 だが、その目覚めるきっかけについては本人にもよくわからないことが多いらしい。


 一応、経験則として知られてる修行方法もなくはないんだけどな……。

 経験則と言えば聞こえはいいが、実のところ有益な情報とデマやオカルト、単なる勘違いや思い込みを峻別するのは難しい。

 「天の声」は習得条件を満たしたことは教えてくれても、その条件がどんなものだったかまでは教えてくれないからな。


 おそらく、条件にはいくつものパターンがあって、各自が手探りでそのうちのひとつを見つけ出すしかないんだろう。

 同じ条件を満たしても人によって習得できたりできなかったりすることもあるというし。


「でも、俺の場合は明らかだ。爆裂石が魔法攻撃扱いになってたおかげで、魔法について一定の研鑽を積んだという判定がなされたってことだよな」


 そのおかげで魔法系スキルの登竜門とされる「初級魔術」が習得できたばかりか、素養系スキルまで手に入った。


 この素養系スキルについても説明が必要だろう。

 スキルの説明文を見て察した奴もいるかもしれないが、今習得した「爆裂の素養」のような素養系スキルは、そのスキル単体では何の効果も持っていない。


Skill―――――

爆裂の素養

爆裂魔法の素養。あと少しのきっかけで「爆裂魔法」が使えそうな気がする……

(スキル「爆裂魔法」を習得すると消滅します。)

―――――――


 もうちょっとで「爆裂魔法」が習得できますよ、という予告のためのスキルだな。


 「初級魔術」にも「魔術の素養」という素養系スキルがあったはずだが、俺はどういうわけかそれをすっ飛ばして「初級魔術」を習得できてしまった。

 「爆裂魔法」という魔法系スキルは初めて聞いたくらいなので、世間的にはほとんど知られてない魔法のはずだ。

 そういうレアな魔法の素養を手に入れるような経験を積んでるんだから、「初級魔術」くらい飛び級でくれてやってもいいだろう、みたいな感じだろうか。


 覚えると、使ってみたくなるのが人情ってもんだよな。


「そういえば喉が乾いてたな」


 水筒は持ってきてるが、長期戦を覚悟してたので給水は最低限に控えていた。

 俺は両手をひしゃくのように前にかざし、脳裏に浮かんだ短い呪文を詠唱する。


「『クリエイトウォーター』! うおっ!」


 両手からこぼれるほどに現れた水を、俺は慌てて口に運ぶ。


「ふー、一息つけたか」


 水の心配がなくなったのは大きいな。

 せっかくだからもう一つの魔法も試してみたい。


 俺はダンジョンを進んで標的となるゴブリンを探す。


「いた」


 俺は数秒の呪文と精神統一をしてから、


「『マジックアロー』!」


 ぼんやり光る魔法の矢をゴブリンに放つ。

 魔法の矢は頼りなく飛んでゴブリンの頭に命中するが、


「グギャア⁉」


 ゴブリンは頭を振ると怒りの形相でこっちを見る。

 仲間のゴブリンどもも一斉に俺の方へと振り向いた。


「やべ!」


 俺は慌てて持ち物リストから爆裂石を取り出し、ゴブリンへと投げつける。

 爆発、爆散、いつもの通りだ。


「うーん……威力がショボかったな」


 まったく効いてないわけでもないようだが、ゴブリンを一撃で倒すような威力はなかったようだ。


「っていうか、爆裂石が強すぎるんだよな……」


 冒険初日で首尾よく「初級魔術」を手に入れるというのは御の字のはずなんだが、中級冒険者が切り札にするような爆裂石の威力の前には霞んでしまう。


「逆に言えば、威力が限られてるから洞穴内でも崩落を気にせず使える……か? でも、威力があれじゃなぁ……」


 結局、「初級魔術」も救いの一手にはなりえないということだ。


「『初級魔術』を使い込んで新しい魔法を覚えるか? いや……」


 さすがに十回や二十回で覚えるはずはないよな。


「爆裂石を使ってれば、そのうち『爆裂魔法』が覚えられるってことか? でも、爆裂石と同じような効果だったら、生き埋めになるのは同じだな……」


 せめて「マジックアロー」の威力がもう少し上がるといいんだけどな。


 スキルは使い込むことで効果が上がるとも聞くが、それよりはレベルアップの方が先だろうか。


 レベル3になる時の上昇幅でINTが最大値の+3を引ければ、INTは15から18になる。

 魔法の威力はINTにも比例するらしいから、ダメージも1.2倍になるはずで……


「いや、さっきの1.2倍程度じゃ、一撃で倒すのは無理だろうな」


 それなら、「マジックアロー」を道中で使い込む方が有望か?


「でも、MPの制約があるからな……」


 ステータスを開いてみると、現在のMPは「11/14」となっていた。

 「クリエイトウォーター」で1、「マジックアロー」で2消費したみたいだな。

 残りのMPをすべて「マジックアロー」に変えたとしても、たった5発しか撃てない計算だ。


「一応、持ち物リストに『初級マナポーション』はあるんだが……」


 今の俺のMPなら、MPを使い果たしても初級マナポーション1個で最大値まで回復できるはずだ。


 だが、初級マナポーションの在庫は1。

 回復後らのMP14で撃てる「マジックアロー」は7発。

 回復前と合わせても13発だ。

 初級とはいえ、たった13発で新しい魔法を覚えられるほど甘くはないだろう。


「……って、待てよ? 俺には『下限突破』があるじゃないか!」


 「下限突破」があれば、残り個数が0を切っても際限なく初級マナポーションを取り出せる!


 そのことの示す可能性に気づいた俺だったが、直後、「下限突破」のさらなる可能性に気づき、愕然とする。


「そうじゃない! 『下限突破』はあらゆるパラメーターの下限を無視するギフトだ! ってことは、まさか……MPも⁉」

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