07 レベルアップ
「これが『下限突破』の力なのか……」
爆裂石はひとまず一個を除いて持ち物リストにしまっておく。
衝撃を与えると爆発する危険物だからな。
持ち物リストは「爆裂石 -1」となり、俺の手元に一つの爆裂石が残された。
「となると……活路が見えてくるぞ!」
ダンジョンから回れ右して外に出て、洞穴のゴブリンに向かって爆裂石――ではない。
あんな場所で爆裂石を使いまくれば生き埋め必至だ。
そうではなく、爆裂石の使い所は「前に」ある。
すなわち――ダンジョンの奥に、だ。
「さっきくらいのゴブリンなら爆裂石で簡単に始末できる」
爆裂石はそれなりの貴重品ではあるが、中級の冒険者でも非常時の備えに持ってるらしいからな。
逆に言えば、中級の冒険者が対処に困るモンスターにも大ダメージを与えられるということだ。
このダンジョンに出現するモンスターがさっきのゴブリンか、それに毛の生えた程度の強さなら、爆裂石で無双ができる。
たとえ一発耐えられたとしても、二発、三発と投げ続ければ確実に倒せるはずだ。
そうしてモンスターを倒していけば……話に聞いていたアレが狙える。
「レベルアップ……」
この世界の人間は、モンスターを倒す「経験」を積むことでレベルが上がる。
人間を倒すことでも上がるらしいが、そんなことができるのは、凶悪な盗賊か、戦争中の兵士だけだろう。
いずれの場合でも、レベルアップはそう簡単に狙えるものではない。
レベルを1から2に上げるだけでも、一ヶ月以上かかることはザラだという。
しかも、レベルアップはレベルが高くなるほど難しくなっていく。
レベルを2から3に上げるには、早くて半年、遅ければ数年かかることもあるらしい。
でも、今の俺には無限に生産できる爆裂石があるからな。
ゴブリンの群れに爆裂石を投げつけるだけの簡単なお仕事で、普通の冒険者が一ヶ月かけて討伐するくらいの数のモンスターを、一夜にして倒すこともできるだろう。
ダンジョンボスまで倒せれば言うことなしだが、さすがにそれは欲張りすぎか。
ともあれ、レベルを上げることができれば、ダンジョンの外にいたゴブリンの群れをどうにか突破できる確率が格段に上がる。
「そうと決まればやってやる!」
俺はダンジョンの薄暗い通路を進んでいく。
ダンジョン外の地下洞はゴブリン松明がなければ真っ暗だったが、ダンジョンはどこでも一定の明るさが保たれている。
架空世界仮説信奉者の理論によれば、古代人たちは本来遊戯であるダンジョン探索に「照明の確保」という面白みのない要素を望まなかったから……ということになるらしい。
とはいえ、この現実におけるダンジョン探索が果たして「遊戯」などという生易しいものであるかはかなり疑問だ。
ダンジョンが発見されるたびに少なくない犠牲者・行方不明者が出てるんだからな。
もしそれを愉しい「遊戯」と認識してたんだとしたら、古代人は頭がいかれてるか性根がねじくれてるかのいずれかだ。
「いた」
通路の先に複数のゴブリンの影。
気づかれないように近づく――という手間さえ省き、俺はゴブリンに爆裂石を投げつける。
と同時に身を低くして顔を伏せ、両耳を手で塞ぐ。
爆発音と閃光。
顔を上げると通路の先にゴブリンだったものが散らばっており、それらはすぐに黒い光の粒子と化して消え去った。
生き残りがいないか注意しながら近づくが、ゴブリンはきちんと(?)全滅していた。
ダンジョンの床に転がる赤黒い魔石を回収する。
拾った魔石は、外のゴブリンからドロップしたものよりもいくぶん大きく、赤みが強いような気がするな。
ダンジョン内部のモンスターのほうが外のモンスターより一般的には強い個体が多いとされている。
もし外でのように一対一で戦っていたら俺が簡単に勝てたとは思えない。
魔石に特別な用途はないが、冒険者ギルドに持っていけばモンスターを討伐したという証拠になる。
俺が自分で出して自分で受けた依頼には、一体につき100シルバーの報酬が設定されるからな。
報酬がなかったとしても、ダンジョンの脅威度を図る上で、ドロップする魔石の質は大きな参考材料になるらしい。
「よし、行ける!」
俺は持ち物リストから爆裂石を取り出した。
リストの表示は「爆裂石 -2」、手のひらの上には爆裂石だ。
「そうだ、マッピングもしないとな」
ダンジョンは多くの場合入り組んだ造りになってるらしい。
特別なスキルの持ち主でない限り、ダンジョンのマッピングは中で迷わないために必須である。
マッピングには、専用の丈夫で大きな用紙がギルドの窓口で販売されてるが、さすがに今回は持ってきてない。ダンジョンに潜る予定はなかったからな。
しかたないので鞄から日記帳を取り出して、最後のページに書き込んでいくことにした。
その「声」が俺の耳に響いたのは、俺が七つめのゴブリンの群れを消し飛ばし、持ち物リストの表示が「爆裂石 -7」になった時のことだった。
《レベルが2に上がりました。》
「きたああああああっ! 『ステータスオープン』!」
古代語を唱えると、俺の眼前に光るウインドウが現れる。
Status――――――――――
ゼオン・フィン・クルゼオン
age 15
LV 2/10 (1up!)
HP 15/15 (3up!)
MP 14/14 (5up!)
STR 12+6 (1up!)
PHY 11+9 (1up!)
INT 15 (3up!)
MND 12 (1up!)
DEX 13+3 (3up!)
LCK 10 (2up!)
GIFT 下限突破
EQUIPMENT ロングソード 黒革の鎧 防刃の外套 黒革のブーツ
―――――――――――――
「やったぜ!」
人生初のレベルアップは、貴族も冒険者も盛大に祝うことになっている。
俺にはどちら側にも祝ってくれるアテがないのが悲しいところだ。
ミラは喜んでくれそうだが、受付嬢が個別の冒険者のレベルアップを祝うのは、ギルド運営上問題があるらしいからな。
それはさておき、レベルアップについて細かいところを見ておこう。
レベルが上がると、各能力値がそれぞれ上がる。
HPとMPは3から5の範囲で、その他の能力値は1から3の範囲で上がると聞いている。
能力値の上昇幅は、本人の適性に加え、レベルアップまでのあいだの活動内容が大きく反映されると言われてるな。
ちなみに、能力値の後に「+5」などと付いてるのは装備品による効果である。
「大きく上がったのは……MPとINT、DEXか」
器用さや俊敏性を司るDEXが上がったのはわかりやすい。
ずっと逃げ隠れしてたし、その後は爆裂石を投げまくったからな。
不思議なのはMPとINTだが、
「……ひょっとして、爆裂石の効果は魔法扱いになってるのか?」
そうでなければ、俺に魔術師としての
レベル1の時の能力値は本人の潜在能力を反映してると言われてるからな。
その後の能力値の上昇幅も、大まかに言えば、レベル1時の能力値の偏りに近いものになりやすい。
もっとも、これは当人が最初の能力値に合わせて活動をした結果としてその能力値が上がりやすくなってるだけかもしれないけどな。
逆に伸び悩んだのは、HP、STR、PHY、MNDあたりか。
「爆裂石の攻撃力にSTRは関係してないってことかもな」
厳密には、石がぶつかった時に、投げる強さに応じたダメージが入るのかもしれないが、爆裂石の威力の本体はその後の大爆発にあるわけだからな。
敵の攻撃を受ける機会がなかったので、HP(生命力)、PHY(体力、防御力)、MND(精神力、魔法防御)が伸び悩んだのは納得だ。
地上でゴブリンを斬り倒してはいるが、今回の経験の大半は爆裂石による爆殺だったからな。
なお、世の中にはとことんこだわる奴がいるもので、レベルアップ時の能力値上昇幅を最大化するにはどうしたらいいか、みたいな研究は昔から盛んに行われてきた。
たとえば、レベルアップまでになるべく広範な活動をしておき、すべての能力値を最大値で上げよう……とかだな。
だが、これはうまくいかないらしい。
あらゆる方向性でまんべんなくがんばった場合には、全部+2(HP・MPは+4)になることが多いという。
それぞれの活動の絶対量ではなく、活動同士のバランスによって能力値の上昇幅が決まるというのが学者たちの見解だ。
「剣を中心に鍛えてきた身としては微妙だが……これはこれでよかったか?」
「剣聖」のようなわかりやすいギフトを授かった奴に比べたら、俺の剣技なんて児戯に等しい。
将来の伸びしろという面でも大いに疑問だ。
もちろん、魔法は魔法で、「賢者」のような魔法特化のギフト持ちに対抗できるのか? って問題はあるんだが。
それでも、才能のない剣で近距離戦をやるよりは、才能のない魔法で遠距離戦をやるほうが安全度が高いとは言えるだろう。
実際、今回も「遠くから爆発する石を投げる」というコスい戦法を取ってたわけだしな。
アイテムの所持数に下限がないことを思えば、今いちばん喜ぶべきなのはDEXがちゃんと最大幅で上がってくれたことだろう。
ゴブリンならともかく、DEXの高いモンスターが出た時に、投げた石を避けられるおそれがあるからな。
近くの壁にぶつけるという手はあるが、位置関係によっては入射角が浅くなり、爆発させるには衝撃が足りないかもしれないし。
「でも、レベル2で
レベルが上がったと言っても、能力値が急に倍になったりするわけじゃない。
微増した能力値によってゴブリンの群れを切り抜けやすくはなったと思うが、まだ向こうの数の暴力のほうが上だろう。
「レベルを3まで上げる……あるいは、何か強力なアイテムでも拾うとか?」
1から2まではすぐに上がったが、2から3へはすぐに上がるとは思えない。
単純に要求される「経験」の量が増えるだけじゃなく、倒すモンスターの種族やこちらとのレベル差も関係するらしいからな。
要するに、ゴブリン一体当たりで蓄積される「経験」が減り、かつ、全体の「経験」の要求量が上がるということだ。
「今の稼ぎ効率なら行けるかもしれないが……」
その場合は、手持ちの食料が尽きるのとレベル上がるののどっちが早いかって問題もある。
「あるいは……いっそダンジョンを踏破する?」
ダンジョンの奥にボスと呼ばれる強力なモンスターがいることは、前にもちょっと話したよな。
そのボスを倒すと、「天の声」によってダンジョンを踏破したと認められる。
ダンジョンの奥には外へと転移できる、踏破者専用のポータルがあり、来た道を延々と引き返す必要はない。
そして、これこそが大事なんだが――
ポータルの転移先は、周囲にモンスターのいない安全な空間が選ばれるという。
「ポータルの転移先は、ダンジョンの地下入口の前じゃなくて、ポドル草原の地上になる可能性が高いんだよな」
進むも地獄、戻るも地獄ではあるが、前には一応「活路」があるということだ。
「まあ、ボスと戦うのと洞穴でゴブリンと戦うののどっちがマシかって話だが……」
俺はしばし考えて、
「……そうだな。ゴブリンを爆殺しながらボスを目指そう。それでもしボスがヤバそうなら、来た道を引き返してゴブリンと対決だ」
ボスを発見するまでのあいだにレベルが3になるかもしれないし、何か有用なアイテムを発見するかもしれない。
こんな戦い方だから、正直スキルの
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