第18話 同棲
その日から私は栄朔さんのマンションで暮らすようになった。
大きな病院だけあって入浴も時間制で付き添いでも入れるが、
いちいちナースステーションに行って申請書を書かなければならない。
その点、ここのバスタブはなんて快適なの。
めちゃくちゃ広いし、浴室のタイルなんて大理石だ。
足を伸ばしてもまだ余裕がある。
これから毎日、こんな贅沢な暮らしができるなんて、私は幸せ者だ。
「志穂、お湯加減はどう? 熱くない?」
浴室の扉一枚隔てた脱衣所から聞こえた栄朔さんの声にドキッとした。
「んー、ちょうどいい」
そんな心の内を隠し、私も平然とした口調で答える。
「そう、ならよかった。早く出ておいで。のぼせるよ」
「――ん、わかった」
ーーーパタン。徐々にドアが閉まっていく音が聞こえた。
多分、栄朔さんが脱衣所を出て行ったんだーーー。
もう、最高ーーーーー!!
これは世間でいう同棲体験。いや、3日後には結婚するわけだから夫婦か?
―――というか、もしやこのまま夜の営みに発展したりして、、、、、、
小説を書いている者とはいえ、想像力はつきものだが、これは現実か夢か…
あまりにもリアルすぎてどうリアクションすればいいのかわからない。
でも、悪くはない……かな
想像しただけで頭にカッカッと熱を浴びた私は恥ずかしさのあまり
湯船に顔を埋めた。
シュワアア……
頭のてっぺんから湯煙が沸き立つように天井に向かっている。
―――数分後、漸く私は湯船を出ることに成功した。
「あーーー、のぼせた、、、」
茹でたこみたいに真っ赤な顔じゃ出るに出れなくなり、感情、興奮を抑制するのに
時間がかかりすぎた。
身体の芯までポカポカに出来上がった私はフラフラし壁伝いに手を当てながら
なんとか歩いてリビングまで辿り着く。
そして、私は目の前にある扉を静かりに開けるーーー。
扉の向こうではリビングのソファーに座る栄朔さんが切れ長の目をゆっくりと
こっちに向けて視線を送ってきた。
栄朔さんは目尻を下げた優しい眼差しで微笑んでいた。
栄朔さん……
私の足は栄朔さんに向かって歩き出す。
リビングに入ると,その扉は『ーパタン』と静かに私と栄朔さんの姿を
隠すようにして閉じていったーーー。
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