第17話 結婚準備は大忙し

決して、小説のようにロマンチックな恋愛結婚じゃないけど、若くても

歳を取っていても誰でも一度は憧れる結婚。

ウェディングドレスの試着に私は柄にもなく心浮かれていた。

「ほんとによくお似合いですわ」

ブライダルショップ店員なら誰もがそう言う甘い言葉を投げかけるだろう。

レンタル料、1着数十万円もするドレスを貸し出す為にブライダルショップ店員も

必死なのだろう。その為にはゴマすりだって、お世辞だって口から溢れるように

どんどん出てくる。まったく、お客のモチベーションを上げるのは手慣れたものだ。

だから私も取り合えず作り笑いで愛想よく振舞ってみせた。

慣れない笑顔を作るのはホントに肩がこる。

「わざわざ付き添いで来なくてもよかったのに…」

母の手前、ウエディングドレス姿を母に見られるのは私もちょっぴり気恥ずかしい

気持ちもあった。

「栄朔さんも一緒だし私も遠慮した方がいいかと思ったんだけどね。

栄朔さんに誘われたら断る理由なんてないでしょ」

「え…」

私が栄朔さんに視線を向けると、栄朔さんは優しい眼差しを私に向け頷いた。

「ああ、俺、男だからウエディングドレスの事はちょっとわからなくて

やっぱりお母さんに来てもらって助かりました」

「あら、そう(笑)」

さすが栄朔さんだ。大人だし、よく気がきくひとだ。

母も何だか嬉しそうだし、母の気分が少しでも晴れると

私の気持ちもフッと楽になる。

「志穂、キレイよ。さすが私の娘だわね」

「…ったく、なによそれ(笑)」

「ねぇ、栄朔さんもそう思うでしょ」

「ええ、とてもキレイです。俺にはもったいないくらいです」

「もう、栄朔さんまで(笑)」

まったく……男というものは女を喜ばす魔法のような言葉を使うのが上手い。

でも満更、女も褒められると結構 嬉しかったりする。

私にもそういう感情がまだ残っていたのだと改めて実感した。

「ねぇ、お父さん大丈夫なの?」

「ああ、うん。薬飲んだら症状も安定してる。まあ、気休めみたいなものだけど、

薬で調整しないと夜も寝れないくらい大変だから」

「そう…。ねぇ、もしかして家にいる時も症状出てたんじゃないの?

ご飯食べたらすぐに寝室にこもったままだったから私もそんな気にも止めてなくて

あれって…今、考えたらお父さんなりに気を使っていたのかなって…」

「お父さんは昔っからああいう人だから。人に弱い所見られたくないのよ。

特に志穂の前ではね。強い父親でいたかったんじゃない。例え酒癖が悪い父親でもさ。それに、お酒でもバクチでもしなきゃ気分が晴れなかったんだと思ってね」

「だから、お母さんは何も言わずにお父さんを自由にさせてあげてたんだね。

内助の功だ。やっぱ、お母さんにかなわないや」

「そんなことはないけどね(笑)強がっていてもお父さんも志穂の結婚を

喜んでいるのよ。これで私も安心できるわ」


結婚準備をしている今が一番幸せなのかもしれない。


幸せな結婚が両親への親孝行。だけど、幸せが近づくにつれ同時にまた

不幸が近づいてきているような嫌な胸騒ぎがしていた。


だけど私は昔っから心の奥に秘めた思いを上手く表現することができなくて、

いつも一人で考え乗り越えてきた。

両親に心配をかけないように外見だけを取り繕って内に秘めた思いはいつも

紙に書き留めていた。小説を書き始めたのはそういう想いを一冊の本にできたらなと

思って書き始めたのがきっかけだった。


果たして栄朔さんは敵か味方か…。それは、まだわからないが…

例え栄朔さんが敵でも味方でも、スパイでも捜査のために私と結婚したとしても、

この結婚に後悔はないと証明したいんだ。


幸せか不幸せかは自分で決める。


それが、私が選んだ道だから―――ーーー。




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