第15話 彼が香良洲島に来た本当の目的は何か?

とりあえず、私は栄朔さんを我が家に連れて行った。

「まあ、よく来てくれたわね」

と、母は機嫌よく笑顔で栄朔さんを迎え入れてくれた。

居間に入ると相変わらず父は仏頂面をあからさまな態度に現し酒を飲んでいた。

「お父さん、栄朔さんが来られました」

母の言葉を無視するように父は酒が入ったグラスを一気に口へ運ぶ。

浴びるほど酒が口から漏れてもお構いなしの父はその腕を口に当て

ぬぐっていた。


「まあ、気にせんで。いつものことやから。その辺り、座っといて」


母はそう言うと、キッチンへ戻り夕食の準備に取り掛かる。


「あ、お母さん、私も手伝う」


母の後を追うように私はキツチンへと向かう。


「そう、ありがと。じゃ、大皿に野菜を盛ってくれる?」


「わかった」


私は酢飯を握る母の隣に立ち、唐揚げが盛る大皿の横に千切りキャベツと

輪切りキュウリを盛っていく。


今夜の夕食は握り寿司と唐揚げ、すまし汁だ。母の得意料理ばかりだ。

ちなみに母に習い、最近、私が作った唐揚げも結構いける。


飲んだくれの父は取りあえず置いといて、今日の私は新しい風が

吹き込んできたみたいに楽しかった。


いつもと変わらない日常が栄朔さん一人いるだけで、こんなにも

違った日常になるなんて思わなかった。


勿論、栄朔さんは我が家に泊まるのだと私は思っていた。


私も30歳だしな…。もしかして、今夜が初夜か?


…とか、一人で勝手に頭の中で妄想が繰り返されていた。




夕食が終わり、私と母はキッチンで後片付けをしていた。


「ねぇ、お母さん、栄朔さんって今晩、この家に泊まるんだよね」


「ああ、その事なんだけどね…。うちに布団がないんよね。

それにまだ結婚前のあんた達をこの居間で寝かすわけいかないし」


「うん…」


「母屋で寝てもらうことにしたんよ」


「え、でも…あそこは…」

(高杉さんに貸してあげていた母屋……。え? まさか…栄朔さんと同じ苗字だ)


私は母の顔を見た。母は小さく頷いていた。


そして、母は私の耳元でそっと囁いた。

「彼は高杉周作さんの弟さんなの」


「え――?」


―――と、その時、足音がキッチンに向かって来ていた。

「あの…何か手伝うことありますか?」

 栄朔がキッチンに顔を出す。

「ああ、もう片付けも終わったし、志穂、栄朔さんを母屋に案内してあげて」

「え?」

 母はいきなり私に振ってきた。戸惑いながらも栄朔さんがいる手前、

 変に動揺するワケもいかず、私は「はい…」と答えるしかなかった。

「じゃ志穂、宜しく頼むわね。鍵は玄関の靴箱の引き出しの中にあるから」

「うん…」


なぜ、今更、栄朔さんがこの香良洲町に来たのか…


私に交際を申し込んだのは『お兄さんと美由紀さんの死の原因を聞き出す為なの?』


「それじゃ、栄朔さん…行きましょうか」


「はい、宜しくお願いします」


私は栄朔さんを誘導するように彼の前を歩く。


栄朔さんはキッチンを出る前に自分の手に持つを居間に取りに戻り、

私達はキッチンを出て、廊下を歩いていた。


私は何も聞かなかったし、栄朔さんも何も言わなかった。

――というか、何をどこまで聞いていいのか頭の中でまだ整理がついていなかった。


沈黙のまま、私は玄関にある靴箱の引き出しから祖父が管理していた

母屋の鍵を手にして玄関を出る。

栄朔さんも私の後から玄関を出てきた。


祖父は脳梗塞で倒れ、未だ町の病院で寝たきり状態だ。

たまに町に出た時、母は様子を見に行っているが、変化はないらしい…。


死神が現れないということは、まだ祖父には寿命があるのだろう…。


私も梅ばあさんが亡くなった時に一回しか死神を見ていないが、

はっきりと死神の顔は覚えている。

忘れたくても忘れられない、若い男だった―――ーーー。


しかも、結構イケメンだったーーーー。


死神にイケメンというのはおかしい話だが……


そうこうしているうちに私達は母屋の前まで歩いて来ていた。


「ここです―――」


私はゆっくりと玄関の鍵穴に鍵を差し込んで右にひねってみた。


『ガチャ…』鍵は簡単に開いた―――ーーー。


母が『たまに換気と掃除をしているから大丈夫よ』と言ってた。


私は玄関に付けられた電気のスイッチをつけ、部屋の中へと入って行く。

その後から栄朔さんも静かに入ってきたーーー。




























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