第12話 理想の結婚

カフェに入るとカウンターには2組の恋人達が少し距離をとり座っていた。

カフェテーブルには家族連れやノートパソコンを広げ昼食を取りながら難しい顔で

仕事しているサラリーマンやOL達の姿で少しザワザワしていた。


「ここ、2階もあるんですよ。行きましょうか」

私に気を使ってくれているのか、隣から彼の声が聞こえてきた。

「はい」私は小さな声で頷く。

すると、

「いらっしゃいませー」

元気いっぱいハツラツとした女性店員に声をかけられた。

彼女の名札には【研修・谷口寛子たにぐちひろこ】と書かれている。

見た感じ若く見える。20代くらいだろうか。いや、17、18の高校生にも見える。

研修生ということはバイトだろうか。

「高杉です。2階空いてる?」

「ああ、高杉様ですね。予約承っています。2階へどうぞ」

淡々としゃべる彼女の口調に一瞬、彼はマズイことを言われたかのように頬を

赤く染める。その表情に寛子も察知したみたいだった。そして、思わず『ごめん』と合図を送るように指先を揃えて軽くびる素振りをしていた。

初対面の人にはそういう態度はとらないだろう。

もしかして知り合いだろうか? 

「こちらへどうぞ」

彼女はそう言うと、私達の前を歩き2階へと上がって行く。

私はチラリと彼の表情を伺う。


私達は個室部屋へと案内された。


「それではメニューが決まり次第、そちらのインターホンで注文してくれれば

電話口でお伺いいたします」

「わかりました」

「では、ごゆっくり」

彼女はマニュアル通りの接客をすると静かに退室していった。


「可愛い感じの店員さんですね」

私はそう言ってテーブルの前に腰をかけた。

もしも彼と彼女が知り合いなら少しでも話題が続くかなと思ったからだ。

「そうかな?」

意外にも彼の反応は薄く、私の前に座るとメニューの一覧を手に取り、

「何する?」と話題を変えてきた。

「もしかして、彼女と知り合いですか?」

「彼女?」

「その…さっきの可愛い店員さんですよ」

「ああ、従妹いとこの娘なんです」

「へ!?」

「千代美さんがウチに来た時、たまたま遊びに来てて、寛子がここでバイト始めたって言ってたから…『じゃ予約入れとく?』って勝手に、、、でも、無駄にならなくてよかったです」

「そうだったんですか…」

「無理に誘って断られたらカッコ悪いな…とか思っちゃって…」

「何か頼みますか?」

そう言って、私はメニューを開けて見た。


私は彼の不器用な優しさに少しだけホッとした気持ちになった。


「じゃ、私はサンドイッチとホットコーヒーで」

「そんな軽食でいいんですか? もう少しガッツリ系のものがいいんじゃないですか?」

「昼間からそんな食べれませんよ。あ、高杉さんは私にかまわずガッツリ系いって

くださいよ」

「いえ…俺はイタリアンパスタとウーロン茶にします。インターホンのボタン

押してもらってもいいですか?」

「はい」



インターホンボタンを押すとすぐに店員が応対してくれた。

「はい、受付カウンターです。注文をお聞きします」

この声は寛子さんだ。

「サンドイッチとホットコーヒー。イタリアンパスタとウーロン茶をお願いします」

「承りました」


プツと受話器を下す音がした。  




それから10分後、食事が運ばれ、私達は昼食を満喫していた。



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