第11話 お見合い相手は好青年だった

私と彼が飲み物をトレイに乗せてカフェテーブルまで戻って来ると、

千代美伯母さんと母はすでに話が弾んでいた。それこそ私達のことなど

そっちのけで、私と彼がテーブルに飲み物を置いた瞬間、2人はグラスを

手に取り、口に運ぶと一気に飲み干しグラスをテーブルに置いた。

「え?」

私と彼はポカーンと呆気にとられていた。

「それじゃ私達はこれで失礼するわ」

そう言って、千代美伯母さんはテーブルに伏せてある注文書き【ドリンクバー450×4 1800円】を手に取り席を立つ。その後、千代美伯母さんに合わせるように母も席を立った。

「あ、千代美さん、俺が支払いますよ」

そう言って栄朔が千代美の手に持った注文書きに手を伸ばすがその手を交わすように

千代美が手の平を広げ阻止した。栄朔の立場上、支払いは男がするものだと思っていただけに戸惑うも、少しの間、千代美の反応を伺っている。

「まあ、いいから。ここは私が…」

「あ、でも…」

「じゃ栄朔君頑張って」

そう言うと、千代美は栄朔の肩をポンポンと2回ほど軽く叩いて、出入り口の方へと

足を進めて行く。千代美を追うように八重の足も歩めて行く。

その時、ふっと、八重の視線が志穂に向く。八重はほころばしい笑みで志穂を見ると、すぐに顔を戻す。

「あ、お母さん…」思わず、私は母に声をかけた。

「後は若い2人でゆっくりお話ししてちょうだい」

「お母さん達はどこに行くの?」

「せっかくだから5人姉妹で会うことになってね」

「さっき電話したら、ちょうど みんな暇してるみたいで」

「じゃ、そう言うことだから、、、」

「おばさん達がいたらゆっくり話できないでしょ」

「あ、船の時間に間に合えばいいから、楽しんでおいで。それじゃ、栄朔さん、

志穂のことを宜しく頼みます」

母はそう言うと、再び歩き出した。遠くなる千代美伯母さんと母の姿は次第に

見えなくなり、私と彼はポツリとその場に残されたのだった。


「え…」〈マジか…〉


ホント、つくづく自分勝手な人達だ。

もう少し、場の雰囲気をなごませてか普通 行くでしょ。

この状況、残された私達はこれからどうなるんだろう、、、、。


お見合いは初めてだけど、今時のお見合いはみんなこんな感じなんだろうか。

紹介して『じゃ、後は若い2人でどうぞ』…みたいな、、、、。


「とりあえず座りましょうか」

頭をきながら照れくさそうに彼が言った。

「はい…」

私は俯き加減で小さく答え、静かに椅子に腰を下ろす。



互いに慣れていない2人の会話はお見合いならではの定番通りの会話で、

趣味や特技、仕事の事を聞いて、聞かれたことに対して答えるだけ。


ジュースを一口飲んでは会話が途切れないように、相手が次はどんな質問で攻めて

くるか上目遣いで伺いながら予想を立て答えをまとめながら、更に次の質問まで考えないといけないから頭の中は錯乱状態だ。

それでも、会話は長くは続かない。


すぐに、私は黙ってしまう。


それから暫く沈黙が続いていた。


辺りを見渡すとカップルや家族達は楽しそうに会話をしている。


なんだか自分達だけが浮いているような感しがした。

私達は周りの人達からどんな風に見られているのだろうか……。


「人の目って気になりますよね」

「え?」

「実は俺、海外生活が長くて先月、こっちに帰って来て4回お見合い

したんですけど、全部断られました」

「じゃ、私で5人目ですか?」

「はい…恥ずかしいですが…」

彼は静かに頷いた。

「吹石さんは?」

「初めてです。慣れていなくてすみません」

「…いえ、そうですか、、。こちらこそすみません、、男の俺の方が引っ張って

いかないといけないのに…。つまらなくてすみません」

「…いえ、、そんな…」


彼は私と同じで自分を表現するのが苦手な人なんだと思った。

物静かで大人でさりげなく優しい。



30分後。私達がグランピアホテルを出ると、彼は「少し待っててください」と私に

言うと、足早にどこかに向って行ってしまった。彼に言われるまま、私はホテルの

正門にジッと待っていた。その間、出入りする人達を避けながら邪魔にならない

柱の方へと少しずつ移動する。

そして5分後、彼はホテルの前に自車を回して戻ってきた。

車名まではわからないが彼は大人系男子が乗る結構高そうな白の乗用車を

所有していた。

彼は運転席からわざわざ下りてきて助手席側に回ってくると、

「どうぞ」と、優しく助手席のドアを開けた。

「え、あ、どうも…」

私は照れくさそうに車に足を踏み入れる。

彼は助手席のドアを閉めると運転席側に移動し乗り込んできた。

「シートベルトしてね」

「あ、はい、、、」

不覚にも私は彼の行動になぜか見とれていた。

彼に言われ、私は慌ててシートベルトを着用する。


そんな志穂の仕草がたまらなく可愛く思った栄朔の顔に思わず笑みが零れる。




車内から流れるBGMは今風の音楽なんだろうけど、私自身 あまり音楽を聴かない

から全然わからない。


相変わらず言葉数は少ないのに、なぜだろう…さっきまでの気まずい空気とは違い

私の心は少しずつ緊張がほぐれリラックスしていた。


車に乗ること40分、車はオシャレなレストランカフェの駐車場に入った。

「お昼、ここにしましょうか」

「……」

とりあえず、私達は車から降りる。


わざわざこの日の為にデートプランを立ててきたのだろうか、、、

それともホテルのカフェで適当に1時間くらい会話をして帰るつもりが、

母に置き去りにされた私を見かねてお昼を食べて、船の時間まで

付き合ってくれるのだろうか、、、。


「あの、、高杉さん…この後、何か用事があったんじゃないですか?」

「え、なんでですか?」

「……いや、母に置き去りにされた私に無理してつき合ってくれているのかと…」

「え…そりゃ、迷惑ですよね。俺と志穂さんじゃ10も歳が離れてるし」

「いえ…歳は関係ないですけど……。私、しゃべるの苦手だから会話もすぐに

途切れてつまらないでしょ。母にお願いされて無理しているのかと…。私なら大丈夫ですよ。一人でいるの慣れてるし、適当に時間潰しますし、、、」

「ああ、俺とじゃ嫌ですか?」

「え…別に嫌じゃ…ていうか、高杉さんのこと よくわからないですし…」

「会話がなくても隣にいるだけで落ち着く人っていますよね」

「え?」

「俺が今まで会って来たお見合いの方は年齢が近かったこともあって

よくしゃべる方ばかりでした。30歳後半から40歳前半の方は結構 理想の

結婚生活が高くて、自分の理想論ばかりを押し付けて来る方ばかりでした」

「そうなんですか」

「俺は神様じゃないんだから、全部受け入れられないですよ」

「それは当然だと思いますよ」

「その点、志穂さんは他の方と少し違うような気がするんです。

かってな言い方ですが、もう少し志穂さんのことが知りたいなと……」

少し頬を赤くし彼は照れ笑いを浮かべた。

「私も他の方達と同じですよ」

「え?」

「譲れない夢もあります。本当は空想ばかりを描くような理想論のかたまりの女です。男性に言うと引かれるから言わないだけです」

「そうなんですね」


これで私のお見合いも終了だ。


G-ENDのはずが、、、、


「それじゃ、志穂さんの結婚生活の理想論を中でゆっくり聞かせてください」

「え?」

「その願い、一つだけなら叶えてあげられるかもしれません」


彼の意外な言葉に私は拍子抜けしポカーンと不意をつかれたように唖然と

なっていた。その時、彼の手が私の手を取り、流れるまま私達はレストラン

カフェへと足を進めて行ったのだった。











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