第11話 お見合い相手は好青年だった

お見合い結婚と恋愛結婚の違いを心の中で比較してみた。

周囲の人達やインターネット検索で調べた結果、恋愛結婚は付き合っていた期間が

長すぎて結婚すると男女共に相手の嫌な部分が見えたりすると、互いにそれが

ストレスとなり浮気やレスの原因になったりするらしい。

逆にお見合い結婚の場合、スムーズにいけば仲人なこうどの元、3ヵ月も

経たないうちに結納・結婚に発展し、とんとん拍子に事が進んでいくケースが殆どだ。結婚前提で会っているお見合いだからこそ遅くても半年でゴールインする理想の結婚といえる。それこそ本当に結婚を望んでいる者同士のお見合いなワケだから第一印象が鍵となる。つまり、お見合い初日で片方が『無理』だと思えば不成立となる。

すぐに結果が出るのがお見合いのメリットでもあるし、デメリットでもある。

だが、仲人なこうどを立ててするお見合いの場合、女性に対し積極的にいけない草食系男子や引きこもりオタク、仕事マニアの行き遅れ男(気がつけば歳をとっている)など何らかの問題ある男子しか残っていないのがお見合いの欠点でもある。

だけど、私も人の事を言えるほど美人でもないし、料理もそんなにできるわけでも

ない(ワンパターンを一週間ぐるぐる回っている)。ましてや話し上手でもない。

男性から見れば私も引きこもりオタクに近いものがある。



『さて、私のお相手はどんな方なのでしょう』

私はキョロキョロと辺りを見渡しながらラウンジにある喫茶店へ向かっていた。


「八重ちゃん、こっち、こっち」

オシャレなラウンジカフェのちょうど真ん中辺あたりに置かれたシンプルな

デザインの円形カフェテーブルに腰を掛ける女性がこっちに体を向け手を振っている。女性の隣には体格がいい男性が背を向けたまま座っていた。

女性の方は見た感じかなり年配の人で、母と同年代か母よりも年上にも見える……。

いや、、、化粧のせいだろうか、、、母よりも若い感じがする、、、。

「千代美姉さん」

「え?」〈千代美伯母ちよみおばさん?〉

私の隣を歩く母も千代美伯母さんに気づくと、胸元で小さく手を振りゆっくり

近づいて行く。条件反射というか、私も咄嗟とっさに母の背に隠れ、

恥ずかし気に顔を伏せる。

私は、昔、よく千代美伯母さんに怒られたことを思い出した。

〈千代美伯母さん、ちょっと苦手なんだよね…〉

千代美伯母さんの隣にスーツを着た男性がいるのは気配でわかっていたが

私は顔を上げて見ることができなかった。


母の足が立ち止まり、同時に私も足を止める。


「久しぶりね、志穂ちゃん」

その声は正真正銘 千代美伯母さんの声だった。


千代美は八重の後ろで顔を伏せている志穂に視線を向けて微笑んでいた。


「はっはっ、、、久しぶりですね、千代美伯母さん」

女は度胸だ。私は顔を上げ、開き直った口調で笑って言ってみせた。


千代美伯母さん、全然、変わってない。化粧のせいか、、、近くで見ると、

むしろ、若返っているように見える。


「千代美伯母さん、整形しました?」

私は冗談交じりに言ったつもりだったが、、、、


「…?」


『こら、志穂、、、』

母はそんな私の言動をマジに取り、恥ずかしそうに私の耳元で小さく囁いた。


「目元を少しね(笑)」

だが不意を突くように千代美はその場を盛り上げようと志穂に合わせ

冗談めかして答えた。


堅苦しいお見合いの席であるその場の雰囲気が千代美伯母さんが放った一言で

ガラリと変わったのは確かだった。


「……」

それには母も千代美伯母さんの隣にいた男性も呆気あっけにとられた表情を

浮かべ思わず男性の口から『ぷすっ』と空気が漏れる音が聞こえてきた。

一瞬にしてしめつけられた重々しい窮屈な空気から私も男性も解放された気がした。


〈千代美伯母さん、暫く会わないうちに雰囲気が少し変わった? 

なんていうか、目が優しくなったような気がする。ーーーていうか、

前は冗談とか言う人ではなかったような……。やっぱり、人間は歳をとると、

変わるんやろか、、、、〉


男性の笑った顔が目に飛び込んできた。


全然10歳も歳が離れているような感じがしなかった。


くしゃっと笑った顔が何だかくすぐったくて、心臓がドクン、ドクンと

音を立てて高鳴っていた。こんなドキドキした間隔は何年ぶりだろ、、、


まるで、淡い学生時代、好きな人にトキメイていたあの頃を思い出すようだ。


「こちら、吹石志穂ちゃんです。そして、こっちが高杉栄朔たかすぎえいさくさんです』

千代美は双方にお相手を紹介する。


高杉栄朔さん、、、。感じのいい人だ。


「はじめまして高杉です」

「ああ、どうも、、吹石志穂です」

私達は互いの顔を改めて確認するとちょっぴり照れ笑いを浮かべていた。


「何か飲むでしょう? ここ、ドリンクバーもあるから2人で行ってきたら?」

「そうですね。そうしましょうか(笑)」

千代美の提案に栄朔が立ち上がり、その視線を志穂に向けて答えた。

「は、はい、、、」

思わず私はその優しい笑みに癒され照れ笑いを隠し俯く。

「あ、高杉君、私レモネードね」

「じゃ、志穂、私はアイスコーヒーで宜しく」

「了解」

私と彼はそれぞれに応えると、ドリンクバーがある機械に向かって足を進めた。

やはり高年配の叔母さん達には勝てない。一度、椅子に座るとなかなか腰を上げないし、動くのも億劫おっくうになり、人を顎で使う。私の母に限ってそんなことはないだろうと思ってはいたが、身内なら尚更だ。母は5人姉妹の一番末っ子。

多分、母は姉さん達に一番可愛いがられていたのだろう。

だから久しぶりに会った姉妹きょうだいはしゃべり出したら止まらない。

でも、あんな生き生きとした母の顔を見るのは久々かもしれない。


「彼、いい青年じゃない?」

「でしょ。掘り出し物よ。お父さんの会社の取引先の子なのよ。先月、海外から帰国してきたエリートよ」

「え、すっごいわね」

「一軒家も持ってるらしい。」

「えー、そうなの? あんな好青年がまだこの世にいたなんてね…。

顔もよく見るとそんな変じゃないし、背も高くて体形もいいのに、彼女がいても

おかしくないわよ…志穂にはもったいないくらい、、、」

「若い時に好きな人がいてね。その人、お兄さんと結婚したらしいの。ずっと忘れられなかったって言ってたわ。だけど、忘れないといけないと思ってバリバリ仕事をして海外を転々と任されるようになって、仕事ばかりしてたらいつの間にか35歳がきて40歳になってたってさ。それで先月、日本の本社に移動が決まって帰ってきた時にね

彼の歓迎会をうちの家でした時に結婚の話題が出てさ。私、そういう世話係みたいな

仕事してるじゃない。それで、ほっておけなくてね、ついつい」

「千代美姉さんらしいわ」

「それで何度かね、お見合いさせたんだけどね。歳が40でしょ。自分からガンガンいくタイプでもないし『なんか物足りない』って全部断られてさ。志穂ちゃんで

お見合い5回目かしらね」

「え、まだ一カ月でしょ?」

「彼、のんびりというか、、奥手というか…あっちの方は全然ダメで」

「え?」

「女の子にとってやっぱ結婚=子供でしょ?」

「まあね。今時のお見合いってね。会ったその日にラブホテルに誘う女の子も

いるのよ」

「え、すごいわね。私達の時代とは違うんだ」

「彼に聞くとね。やっぱり本気で結婚を考えた相手じゃないとそういう気持ちには

なれないってさ」

「真面目な人じゃない。でも、なんで志穂なの?」

「ここだけの話、彼のお兄さんっていうのが高杉周作さんなの」

「え? じゃ、まさか彼が好きだった女性って美由紀さん?」

千代美は軽く頷いた。

「彼には美由紀さんが亡くなったことは?」

「まだ、言ってない。言えるわけないし…」

「じゃ、周作さんのことは?」

「それは知ってる。帰国した時にお父さんに言ってもらったから。

お兄さんの葬式にはいけなかったけど、その後 お墓参りに一緒に行って来たから」

「そう……」

「ホントはね、八重ちゃん達にもあの島から出てきてこっちで住んで欲しいのよ」

「でも、あの人があの島を離れないから多分無理ね。辞任しても町長としての

プライドがまだあの人にはあるから」

「それはわかってるのよ。でも自分の命が一番大切でしょ?」

「あ、だから志穂にお見合いの話を? ありがとう千代美姉さん……。

きっかけがないと島を出れないものね」

「それもあるけど、栄朔さんと志穂ちゃんには幸せになって欲しいから」


千代美と八重は程よい距離を保ちながら不器用にドリンクバーでグラスに飲み物を

注ぎ入れている栄朔と志穂に視線を向けて微笑んでいた。



私は千代美伯母さんと母がそんな話をしていることなどまったく知らず、

隣にいる栄朔さんにドキドキしながらグラスにドリンクを注ぎ入れていた。


時々、彼に視線を向けると彼は私の方を見て優しい笑みを浮べ微笑んでいた。


彼は私の事をどう思っているのだろう?


私は彼にどう思われているのだろう?


彼の第一印象は?


『OK』それとも『NO』?


まだお見合いは始まったばかりなのになぜか私は『YES』か『NO』か

次は『あるのか』、『ないのか』その事ばかりが気になっていた、、、、、。









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