第9話 酒とバクチと金
私も釣書がいるのだろうか…と思い、取りあえず便箋に住所と名前を書いてみるが、
何を書いたらいいのかと思い悩む。男性の経歴は大手会社のサラリーマンだ。
さすが街で働いている人は違うな。
(えっと…私はなんて書けばいいんだろう)
昔、少し、島にあるコンビニで働いたことはあるが何年も前の話だし、
まだ小説家にもなってないから、『小説家』とは書けない。
やっぱり農家になるんだろうか……。
農家といっても父がしている時よりは出荷数は減っているし、収入も少なく、資材や
肥料、種代に消えて殆ど残らない。これを仕事と呼ぶにはちょっと抵抗がある。
「あんた、何やってるん?」
ちょうど仕事から帰ってきた母が居間に入ってきた。
「ああ、お母さん お帰り」
「ん?」
母が釣書を覗き込んで見るから、私は両手と上半身をフルに使って
覆いかぶさるようにしてそれを隠す。
「ふーん……」
母は見透かしたように鼻で微笑むと、
「お父さんは?」と、話を切り替えた。
「(ホッ……)。ああ、昼間っから飲んだくれて、ついさっき寝室で寝たとこ」
「そう…。あ、そうだ、言い忘れてたんだけど、来週の日曜日、決めてきたから」
「え? 決めてきたって何を?」
「だから、お見合いよ」
安心してるのも束の間…。再び、母は話を戻してきた。
「えー、そんな急に…」
「結婚は勢いとタイミングが必要なのよ。あんたの気が変わらないうちに、と思って、今日 仕事早く切り上げて先方の人と話してきたから」
「でも、私、まだ釣書が…。しかも、仕事の経歴書に苦戦してるし、写真だってまだ
撮ってない」
「ああ、あんた、そんなこと気にしてたの? それは、お母さんからちゃんと
姉さんと相手の方に話してるから心配ないわ」
「それで相手の方はなんて?」
「会ってお話がしたいですって。志穂、よかったじゃない」
「え、ホントに?」
「相手の方もあんたより10歳も年上だから気にしているのね。
でもね、それくらい離れている方が包容力があってあんたには合っているかもね」
思いたったら即行動に出るのが母だ。
誰もこの先の未来を予測なんてできない。
この島にいたらいつか死ぬかもしれない……。
先月、祖父が脳梗塞で倒れ、隣町の大きな病院に緊急搬送された。
ちょうどその日はたまたま長女の
由貴枝姉ちゃんは楠木病院の若先生と結婚して今は
由貴枝姉ちゃん夫婦には3人の娘がいる。上から中一、小5,小3で子供達もすっかり大きくなり、由貴枝姉ちゃんは楠木病院で看護婦として働いている。
だから、専門医師と看護婦の早期対応が祖父の命を繋ぎ止めたのだった。
しかも たまたまベットの
くらいすんなりと手続きが進み入院することができたのだ。
当然だが死神は現れなかった、、、、、。多分、その日の暦が大安だったからだと
私は思っている。
祖父にはまだ命があったってことなのかもしれない……
でも、あの時……。
梅ばあさんが亡くなった時、なぜ私に死神の姿が見えたのか、未だ謎である。
父にも母にも見えていなかったみたいだった。
もしや…私に何か特殊な能力があるとか……。
【小説家】という夢をあきらめたわけじゃない。
【結婚】という別の道に寄り道してみるのも悪くないと思っただけだ。
そう考えれるようになったのは私も少しは大人に成長したってことなの
かもしれない。
もう…この島に縛られなくてすむなら、前向きに結婚するのも悪くないのかも
しれないね、、、、、。
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