第9話 酒とバクチと金
「フ~、ただいま」
この日、親戚の葬式に行っていた
喪服姿で玄関を上がってきた。
「お帰り」
八重を出迎えたのは三女、志穂である。
吹石家には3人の娘がいるが、長女、
次女の
暮らしている。残っているのは三女の志穂だけだ。
「お父さんは?」
「相変わらずだよ」
八重が居間に入ると吹石は一升瓶を片手に焼酎をロックで飲んでいた。
ベロンベロンに酔いつぶれている吹石をみかねた八重が一升瓶を取り上げる。
「アンタ、いい加減にしなさいよ! 毎晩、毎晩、早死にしたいの?
この前の検査で肝臓に負担かかってるけん、お医者さんにお酒禁止されたばっかり
やろ」
「ああ、上等だ。この島は呪われてるんだ。俺が死んで死神とやらを抹殺したるわ」
「ったく、何を寝ぼけたことゆうとんの。死神なんか、おるわけないやろ。
あれは伝説なんや」
「アホかい、お前は…死神は絶対おるんや……死神は…」
吹石はそのまま座卓テーブルに顔を伏っぷせ眠ってしまった。
「ズーズーズー」
「ほんまに父ちゃん変わってしまったね……」
「そうやね…」
「志穂、お父さん、寝室に運ぶから手伝ってくれる?」
「あ、うん」
志穂と八重は頭元と足元に分かれて吹石を寝室へと運んでベッドに寝かせた。
あれ以来、父は変わってしまった。島の人工が減ってしまった今、町長の仕事を辞任し、毎日、酒とバクチにハマり、金使いもひどくなった。その分、母がスーパーの
レジ打ちと介護の仕事を2つも掛け持ちするようになった。毎朝、7時30分の船で
香良洲島を出て、バスを乗り継ぎ隣町にある仕事場まで行く。母はギリギリ17時30分まで仕事をして18時30分の船で帰ってくる。夜は1枚1円にもならないパンツのゴム通しの内職をしている。納品までに間に合わない時は私も夜な夜な手伝っている。
これが母の一日の日課だ。ゆとりある時間なんてないくせに、暇さえあれば母は
畑仕事をしている。私は母の代わりにいつも父を見張っとる。
畑仕事も母に言われたことだけをこなすのが精一杯や。後は、母の代わりに家事をしている。昔は父も畑仕事をしていたくせに今では人が変わったみたいに畑仕事をせんようになった。しかも、競馬にハマっている。島に馬券売場がなくても、今はインターネットの時代や。父はレースがある度、いつも私に『馬券を買っといてくれ』と
頼んでくる。それも100円、200円ではない。いつも万単位で買う。しかもド素人が買うような、バカの一つ覚えみたいに本命ばかり買う。本命に何万円もつぎ込んで
『きたら大きいでー』と、浮かれてるから、いつも私はあきれている。
内心『そんなに本命ばかりくるわけないやん。お金をドブに捨てるようなもんだよ』と思っているが、母は『まあ、好きにやらしてあげたらええわ』と父の競馬のお金を
出してくれる。ホント、母には頭があがらん。
「志穂、ちょっとええか…」
父をベットに寝かせた後、母は真顔で言った。
「あ、うん」
私は返事を返し母の後から寝室を出た。
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