第6話 発見

高杉と神之介を同時に亡くし、残された妻、美由紀は暫く呆然とうつ状態が

続いていた。その後、49日が終わり一人でいることに耐えきれず、自ら果物ナイで 手首を切り命を絶った。高杉が借りていた民家は元々 吹石の所有物だった。

正確にいうと、吹石の曽祖父の母屋おもやで亡き曽祖父の後は定期的に空気を入れ替えする為の換気と軽く掃き掃除くらいの管理は吹石の祖父、正太郎しょうたろう(85歳)がしていた。

この日、胸騒ぎがした正太郎は早朝に目が覚め、フラリと母屋へと足を運んだ。

人の気配を全く感じなかった正太郎は玄関先の明かりを点けどんどん足を進めて

行く。


「美由紀さん? おるんかい」

正太郎が声をかけるが応答がない。

「美由紀さん…?」

ふと、正太郎の足は居間に入る手前で立ち止まる。その目に最初に映ったのは

開いている本棚だった。高杉が移住してきた日、正太郎は念を押すように『あの本棚には絶対に触れんようにな。ご先祖様の大事なもんが入っているきにな』

そう言って、万が一の為に正太郎は鍵をかけていた。

『はい、わかりました』

高杉もそう言っていた。その話をしている時に美由紀も神之介もその場にはいたが、

気にも止めていなかったみたいだった。

そして、平穏な毎日が何事もなく過ぎていったのだった。


鍵を掛けていたはずの本棚がなぜ開いているのか正太郎は不思議な顔を曇らせて

いる。


〈誰かによって意図的にそのパンドラの扉が開けられたのか、、、、〉


心当たりがないわけではなかった正太郎の脳裏に高杉と神之介の顔が浮かぶ。

〈だが、鍵はわしが持っとる……〉


「!!」

正太郎はその険しい視線を段々中央に寄せてくる。

座卓テーブルに頭を預けて、ぐったりとなった女が正太郎の視線に映る。

女は美由紀である。だらりと垂れた腕、手首からはポタポタと赤い血を

流している。美由紀が座る付近には血の水たまりができている。

「美由紀さん…」

正太郎がゆっくりと美由紀に近づいていく。


美由紀の意識はなく、すでに死後硬直が始まっていた。


「死んどる……」


ふと、正太郎の視界に開いたままの本が入り込んできた。

「こ、これは……」

正太郎はその本を手に取りふところに隠し、その場から離れた。


数分後、町の皆に美由紀の死が告げられた。

美由紀は家族に先旅立たれ、身寄りと呼べる人はいなかった。

吹石も含め町の皆で相談し、美由紀の葬儀は町の皆が集結し、

これ以上犠牲者を生み出さない為に厄払いと埋葬が取り行われたのだった。



葬儀が終わり、正太郎は人気のない母屋の裏庭で焚火たきびをしていた。

燃え盛る炎の中には血がついた一冊の本が勢いよく燃えていた。

正太郎はその光景を只々、見ているだけだった。


「父さん……何やってんだ?」

不審な行動をとっていた正太郎が気になり、吹石は正太郎の後を追って

来たのだった。

「総一郎……。なあに、ちっと焚火たきびをな…」

「その本…」

吹石は焚火たきびの中で半分以上燃えて黒い灰になっていく本を呆然と

眺めていた。

「こんな本を燃やした所で始まってしまった不幸はどうすることもできんかも

しれん」

正太郎がボソっと呟いた。4

「解決策はないのか。俺は昔の先祖が作った作り話程度にしか思ってなかった」

「それはわしも同じやった。曽祖父に聞いた話だと大昔の御先祖様が死神を

封じ込めたと言っていた」

「だったら、その本に死神を封じ込めた方法が書いてるんじゃ…」

「そんなもんはここには書いとらん」

「え…?」

「まだ、未知の世界の本で解決策などは書いとらん。もしもこの本を見て、

美由紀さんが死を選んだのだとすれば、また興味本位でこの本を見た者が

現れてもいかんからな」

「父さん……」






だけど、正太郎の予想は的中していたーーー。



不幸の連鎖は この時からすでに始まっていたのだ――――ーーーー。





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