第3話 友引――ーー

高杉の遺体は雑木林に入る手前の道沿いに酷く無残な姿で置かれていた。

その手には子供の靴を握りしめている。

ちょうど通りかかった軽ワゴン車の助手席に乗っていた女が高杉に気づき、

「ちょっと、止めて、誰か倒れてる」

運転していた男に言うと、男は車を止め車内から40代の男女が降りてきた。

二人は香良洲島に住む夫婦だった。高杉のこともよく知っていた。

神之介と同じ年の息子もいて他人事ひとごとだとは思えないほど青ざめた顔で

動揺していた。

「うわあああ……」

高杉の顔を見て男が腰を抜かす。

「けっ……早く、警察に……」

スマホを操作する女の手が震えている。

「おい、 ほら、よく見ろ。この人…駐在所のお巡りさんじゃねーか…」

「え」

女の手が止まる。

「ほんとだ。高杉さん…神ちゃんを探してて…なんで?」

「なあ、お巡りさんの右手に持ってるもんって靴じゃねーか?」

「え…」

「しかも、子供の…」

だが、神之介の姿はどこにもいない。

その異様な光景に二人は息を飲んだ。

「取りあえず吹石町長に……」

「う…うん…。そうね」

女は震える手でスマホのボタンを押し、吹石に電話を入れる。


それから30分後、吹石や町の住人達、朝の船で香良洲島町に到着し捜索活動をしていた要請警察官等が駆けつけた。勿論、住人達が集結するかたわらに美由紀の

姿も見える。

「!!」

美由紀は住人達の間をぬって前へ前へと足を進ませた。

「あ、周作が…な、なんで…」

変わり果てた高杉のがらを見て美由紀が地面に膝まづく。

「旦那さんに間違いありませんか?」

山岸杜夫やまぎしもりお刑事(52歳)が男の遺体を見て言った。

周作の手に持つ子供の靴。すでに死後硬直している周作の手からその靴は

離れず固まっていた。

死人に口なし。住人達は美由紀と距離を保ち、その視線を向けては逸らす。

美由紀にかける言葉すら見つからないでいた。住人達に沈黙と恐怖が漂う。

「司法解剖に出して」

山岸が部下の野辺太持のべたもつ刑事に向けて命じた。

「はい」

野辺は指示通りに従い、遺体の検死が終了した後、さっさとブルーシートに遺体を

包み込み運ぶ準備に取り掛かる。

「!?」

膝まづいた美由紀のが大きく見開いた。

「周作の身体にメスを入れるんですか?」

美由紀は山岸にすがるように訴えかける。

「ええ。司法解剖して死因が何かを調べて見ないと……。それに、まだ、息子さんも

見つかってないんです。こんなことは言いたくはありませんが、もしかしたら旦那さんが息子さんを手にかけて自殺したということもありえますし」

「周作がそんなことするはずありません」

山岸は美由紀の言い分も聞かず、淡々とした口調で答え、数人が集まる警察官等の

元へと駆け寄って行った。


吹石は体を丸くしてしゃがみ込んだ美由紀の肩にそっと手を置いた。

「美由紀さん……気を落とさんで…。高杉さんは被害者やきに……。

神之介君もきっと見つかるきに……」

「町長さん……」


高杉の遺体が片付けられたその場所には事故の形跡もなく、高杉の血痕のあとさえもなかった。住人達は不信な違和感を感じていたが、まだ自分達に大きくかかわってないこともあり、それほど重くは受け止めてはなかった。そして、住人達も立ち入り禁止区域の黄色いロープが張られたその場を後にしたのだった。




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