第2話 少年の死、選ばれし死神、ここに現れる

高杉は駐在所を飛び出していた。

(美由紀のことは気になっていたが、まずは神之介を探すことが先だ……)

だけど高杉には何一つと手掛かりはなかった。

『お前の息子はもうすぐ死ぬ、そして我が死神の後継者となろう……』

高杉の脳裏に得体の知らない男の声がしがみついて離れない。

(っくそー、ったい何だよ。死神だと!? 笑わせんなっ。この世の中に

そんなもんがおるわけない!!)

「神之介―、神之介!! どこにおるんやー」


高杉は走り回り必死になって神之介を探す。

(梅雨明けのムシムシする陽光を仰ぎ、制服の下に着ているシャツまでびしょ濡れていた。俺はネクタイを緩めワイシャツの第二ボタンまで外す。足もパンパンにむくれてきている。チクショー )

高杉はフラついた足を無理やり前に出す。精神と体力が一気に急降下していくみたいに脱水症状ギリギリのところで視野が狭くなり、高杉は片膝を地面についた。

「高杉さん、大丈夫ですか?」

高杉の肘は誰かに救い上げられた。

「さあ、これ、飲んでください」

高杉の喉を潤す天然水が口から浴びるように流れている。

自然の井戸から救い上げられた天然水は住人達にとっては命の水でもある。それを

ペットボトルに入れて保存食として住人達はいつも冷蔵庫に保管している。

身体の水分が戻ると高杉の目に町長の吹石総一郎ふきいしそういちろう(68歳)の姿が映る。

「町長さん…」

「今、住人みんなで神之介君のことを探しとるきに……」

吹石は『元気出して』という思いを込めて、高杉の肩を2回ほど軽く叩いた。

「はい…。でも、なんで神之介の事を?」

「ああ、妻がな、高杉さんのとこに野菜を持っていっきょった時に美由紀さんの様子がおかしかったもんで事情を聞いて、同級生の子達のとこにも電話したんがな…」

「それで?」

吹石は首を横に振る。

「誰も知らんと…。行方不明じゃということになり……」

「そうですか…」

高杉は絶句し肩に力が入らず俯いたままだった。

「みんな神之介君を探しちょう……、なあに、きっと大丈夫さ、、、。

わしらがあきらめたらあかんのとちゃうか……」

「はい…。そうですね…」

二人は捜索を続行する。


「神之介―」

「神之介君―」


その声に重なるように大勢の声色が香良洲島全体に響き渡っていた。


「神ちゃーん」

「神之介君ー」

「神之介ちゃーん」


大人から子供まで、おじいさんやおばあさんもみんなが力を合わせて神之介が

行きそうな場所を手分けして探している。勿論、高杉は県警にも応援要請の手配を

したが香良洲島までフェリーの出航本数が2本しかない為、警察官等がフェリー乗り場に到着した時は18時30分を過ぎていてフェリーが出た後だった。

香良洲島には翌朝になると高杉のスマホに連絡が入った。

とりあえず、島の住人だけで神之介を探すしかなかった。


「神之介くーん」

「神之介―」

「神之介君ー」


神之介からの返答はなく、手掛かりすらない。


(事故か? 誘拐か? 今だ神之介は行方不明のままだ……)


(神…之介……)

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