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警察は脚で稼ぐ。というが、それは探偵も同じだ。不可思議な謎や殺人が向こうからやってきて灰色だったり桃色だったりする頭脳を働かせれば即解決、などというのは物語の中だけの話だ。
探す相手は動画配信もするマイナーアイドル。街の小さなライブハウスでの活動が中心というから、聞き込みをして知人だという人物を見つけ出す以外方法はない。
動画サイトからわかるプロフィールは「
ラーメンは好きだ。食べ歩いてもいい。しかし、それを経費に含めるのはいささか良心が咎める。最終手段としてとっておこう。
ほとんど情報が得られなかったせいで、数日はかかると思われた最初の調査は日を跨ぐことなく終わってしまった。
美月伶はそれなりに有名人で、訪れたライブハウスにかなりの割合で一度は出演したことがあるようだった。そうでない老舗の店でも名前を聞いたことはある、とのこと。だが、それ以上の情報はなく、事務所に所属してるわけでもないためコーディネーターと呼べそうな人物にもたどり着かなかった。
——これは、本当に家系ラーメンの食べ歩きかもしれない。
時刻は二十三時を回っている。が、実際の調査時間は四時間ちょっというところか。ランチ営業をしているライブハウスとかもあれば良かったのにと恨めしい。
今日はまだ飯を食っていないことを思い出し、事務所兼住居へと徒歩で戻り、その途中にある小料理屋へと顔を出した。
「まだやってる?」
「はい、あいにくとやってます!」
笑顔で答える女将に苦笑いしながらカウンターへと着く。客の姿はない。
「今日あたりブッコローさんが来そうな気がして開けて待ってました」
「うれしいこといってくれるけど、昨日も来たよね、昨日も。というか毎日のように来てるよね?」
「……いつも来る時間に来なかったので、今日は遅くなるのかな、と。もしかしたら——」
「ラーメンでも食いにいってるとか思った?」
「中山七里先生のようにレッドブルだけで済ませようとしてるのかも、とも」
「無理だよ無理。ごはん食べなきゃ死ぬからミミズクも!
ふふ、と笑って女将は注文も聞かずに小瓶とグラス、小鉢を出すと厨房へと消えてしまった。
ま、まあ女将の作る料理はなんでも旨い。酒を飲みながら待ってればいい。ジャン・バルジャンの飲んだスープ以外なら、なんでもいい。
事務所の入っている雑居ビル一階、我が事務所の郵便受けから封筒が顔を出していた。督促状やDMなどの封筒とは違う、やけに質素で薄っぺらい封筒には見覚えがあった。
階段を上り、事務所へと足を踏み入れ、明かりを灯すと、接客にも使うソファベッドへ寝転んだ。封筒を透かして見て、意味もなく振ってみる。
きっとワタナベからのものだろう。この事務所を開き、私を呼び入れ、そして忽然と姿を消したあの女からの。
中身は見ずにデスクにほうった。
過去に向き合っている暇はない。
いまは消息を絶った地下アイドルのことで手一杯なのである。
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