(35)人を超える
フォートリオンの目がギョロリと動く。
バルサとエドが武器を構えているのを見て、
それを見て、俺の背筋を冷や汗が伝う。
トリオン粒子を放出し、粒子同士をぶつけ合わせ科学反応を起こす事によって、太陽よりも高温になる……という設定のビームソードだ。
万一、生身で触れでもしたら、武器どころか、体も一瞬で蒸発してしまう!
そして、フォートリオンの武器は他にもある。
ポジトロン・メガサイクル遊撃砲。
これは、一旦放たれれば、着弾するまで追撃してくる。これだけは、発射を阻止しないとヤバい!
俺は原稿用紙に書き殴る。
〖 謎の力で、フォートリオンの武器が使えなくなる。〗
【謎の力という表現は曖昧すぎて不自然です。】
「ですよね……」
でも、外的な要因を加えるには、生身の人間対巨大ロボットでは差がありすぎて、何をしたって不自然じゃないか。
――その時。
木に登り身を隠していたアニが、
そして、矢が一直線に放たれる。
矢は真っ直ぐにフォートリオンの側頭部に向かい、こめかみのカメラを射抜いた。
「――――!」
確かに、あそこにはよく見るとそれっぽいものが付いているのが分かる。凹んだ形で付いているため、戦闘中の衝撃には強い、という事になっているのだが、真正面からピンポイントを矢で狙われるという設定は、さすが考えていないようだ。
だけど普通、「目」で見てると思うだろう。
カメラの位置を見抜くとは。そして、わずか数センチのカメラを射抜くとは――!
翼弓サルンガ使いの
「右目を壊した! 右側が死角になったぞ!」
アニの声が響く。
すると、フォートリオンの腕が動いた。
ビームソードを薙ぎ払う。
森の木々が次々に真っ二つに叩き折られる。先端が宙を飛んで落下し、土煙を上げる。
「アニ! 危ない!」
俺は叫んだが、
「いつまでも同じ場所にいると思ってんのか、ボーケ」
と、頭上で声がした。
アニは枝の上に立って、俺を見下ろしていた。
「バルサとエドが
アニはそう言うと、軽々と木のてっぺんまで登っていく。
俺はフォートリオンの足元に目を戻した。
バルサとエドが、巨体を
それを踏み潰そうと、フォートリオンは片足を上げ、思い切り踏み付けた。
「行っけええええ!!」
そう叫んだのはエドだ。
次の瞬間、バルサが跳ね上がり宙に飛び出した。
「????」
そして、俺は理解した。
――シーソーだ。
倒木を組み合わせて、いつの間にかシーソーを作っていたのだ。
その片方を、フォートリオンが思い切り踏んづけたから、もう片方に乗っていたバルサが飛び上がったのだ。
……何だ、このインド映画みたいなアクション。
バルサは直立不動の姿勢で飛び上がって、フォートリオンの頭上に到達すると、エクスカリバーを
「――――!!」
彼が狙ったのは、フォートリオンの頭に付いてる、潰したH字型の角。
これは、トリオンエネルギーを宇宙空間から受容するためのアンテナなのだが、なぜバルサがそれを知っているんだ?
俺が疑問に思う間に、バルサは刃に気迫を込める。
「うりゃああああ!!」
エクスカリバーが角を両断する。火花が散って、角の先端は弧を描いて落ちていく。
それに比べ、フォートリオンの動きは鈍い。
アニメでは目にも止まらぬ動きをするが、さすがにあの動きを再現するまでの能力は、ハヤテにはなかったのだろう。
額に手を当てようとするフォートリオンの腕に着地し、滑り台のように踏みしめた脚を滑り下りて、バルサは着地した。
「…………」
気付くと、エドがすぐ横に立っていた。
――独特な形で胸に手を当てている。
これは、カイ・タケダの所属する組織の、敬礼兼合言葉のようなものだ。
俺は理解した。
エドも「フォーオタ」だったのだ!
だから、カメラの位置も、額の角の意味も知っていた。
アニやバルサの攻撃でも的確にダメージを与えられる方法を考え、彼はそれを、実行可能な方法で指示した。
……指揮官役の俺の立場がないじゃないか!
「実際にトリオンエネルギーなんてものがあるとは思えないけど、きっと機体は、エネルギー補給が絶たれたという判断をすると思うわ」
劇場版にその描写はあった。
エネルギー補給が絶たれたフォートリオンの活動限界は、二分。
けれど……。
「第三シリーズのフォートリオンは、主人公の覚醒で、活動限界を超えてたぜ」
「……ごめん、初代しか興味ないの」
だが確実に、フォートリオンは弱っている。
ハヤテの体力も、そう長くは続かないだろう。
――ところが。
フォートリオンの外部通信がオンになる。
ハヤテの声が、森に響いた。
「……何で、俺の邪魔をするんだ……」
「いい加減諦めろ。小さく作り替えればいいだろ」
そう答えたのはバルサだ。
……フォートリオンを知らないから、そう考えるのだろう。
トリオンエネルギーとは、宇宙そのもの。
宇宙は膨張しこそすれ、決して縮小する事はないのだ。
「俺は……俺は……、誰が何と言おうと、進むんだ――ッ!!」
ハヤテの叫びと同時に、フォートリオンの目が赤く変化した。
俺は息を呑む。
――覚醒したのだ。
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