(30)甲鉄機兵フォートリオン①

 同時に死亡した家族が、同じ場所に転生する事はよくあるようだ。

 バルサとニーナもそうだが、この女の子マヤと兄のハヤテも、転生後すぐに出会ったらしい。


「運良く、近くのダーダル村で受け入れてもらえたんですけど、お兄ちゃんのが、ちょっと変わっていて。村の人たちと意見が合わずに、一昨日、村を飛び出してしまったんです」


「どんな風に変わった武器なの?」

 ニーナが聞くと、

「それを説明するには、私たちが死んだ原因から、説明する必要があるかもしれません」

 と、マヤは語りだした。


 ……マヤは死亡時、小学生だった。

 自分でから立候補して園芸委員になるほど、植物の世話が好きで、家でも庭先に植木鉢を並べてガーデニングをするほど。


 一方、中学生の兄ハヤテはプラモデル作りが趣味だった。

 中でも人気アニメ『甲鉄機兵フォートリオン』に登場するロボットのプラモデル「フォープラ」を愛してやまなかった。

 小遣い全てをフォープラに注ぎ込み、プロモデラーの動画配信を見ながら、ジオラマで劇中場面を再現するほどの熱中ぶりだった。


 だが二人の両親は、ハヤテの趣味を快く思っていなかった。

 ――彼が、学校に行っていなかったから。


 そんなハヤテの将来を案じた両親は、ある時、行動に出た。

 ハヤテが買い物に出た最中、彼の部屋にあるフォープラを、全て処分してしまったのだ。


 帰宅したハヤテは怒り狂った。

 そして……。


「……その日の夜中、お兄ちゃんは、家に火をつけたんです」

 マヤは悲しい顔でうつむいた。

「それに、私も巻き込まれて……」


 俺は絶句した。そして、湧き出す怒りを抑え切れなくなった。

「とんでもない奴だな! 百発殴っても気が済まねえ!」

「落ち着け、ヘヴン」

 バルサに睨まれて、俺は渋々座り直した。

「ご両親はどうなったの?」

 ニーナが聞くと、マヤは首を横に振った。

「分かりません。でも、この世界ヘルヘイムでは会ってません」


 火災から逃れたのか、それとも、死を受け入れたのか……。

 どちらにせよ、言語に絶する後悔だっただろう。


「そんなお兄さんを、アナタは恨んでないの?」

 エドが聞くと、マヤは小さく微笑んだ。

「お兄ちゃん、自分が趣味に生きてたから、人の趣味を理解してくれたんです」


 小学生で園芸が趣味なのは少々特異で、マヤは同級生からからかわれる事があった。

 そんなマヤを、ハヤテだけは味方してくれた。


「だから、お父さんお母さんが、お兄ちゃんのフォープラを捨てたのは、私も悲しかったです」


 とは言うものの、マヤは焚き火から離れて座っている。やはり、火はトラウマなのだろう。


「それで、ここからは転生してからの話です」


 ――ダーダル村の人々は、幼くして転生した兄妹を不憫ふびんに思い、二人を迎え入れた。

 植物使いのマヤは、村人たちとうまくやれたのだが、問題はハヤテだった。


 ハヤテの武器は、フォープラ。

 当然といえば当然である。


 そして、ハヤテは「作る」方を得意とするフォープラマニア。

 部品を自作しカスタマイズして、やがて……。


「実寸大のフォートリオンを、作ってしまったんです」


「…………」

 俺は愕然とした。

 フォートリオンといえば、胸部のコクピットにパイロットが搭乗して操縦するタイプの戦闘ロボット。

 シリーズによって大きさはまちまちだが、一番人気の初代フォートリオンだとすると、設定上、高さが二十五メートルある。


 俺が青ざめたの理由を、みんなは分かっていない様子だったので、俺はオタク全開で解説した。


 ようやく理解したバルサも、さすがに顔色を変えた。

「それは村の人たちが嫌がるだろうな……」

 マヤはコクリとうなずく。

「それに、貴重な資材を使ってしまったので。……この辺りは岩山が多くて、鉱物が採れるんです。この洞窟も、昔鉱石を掘った跡だとか。そこから金属を取り出して、鎌や鍬みたいな農機具を作って、他の村の農作物と交換してもらうんですけど……。商品にするはずだった資材を、全部フォートリオンに」


「そりゃあ追い出されるよな……」

 俺の呟きに、後ろに座るアニが背中を蹴ってきた。……確かに、マヤに対しては可哀想な言い方だった。反省はするけど、蹴る事はないだろ……。


 だがマヤは、俺の言葉には何も言わず、話を続けた。

「そんな風だから、村の人たちから、お兄ちゃんを探す事はしません。お兄ちゃんは心配だけど、事情が事情だけに、私からはそんな話をしにくくて」

「なるほど。で、俺たちが見掛けてないか聞きに来た、と」

「はい。……どこかで見ませんでしたか?」


 俺たちは顔を見合わせた。

 いくら雨が降っていても、高さ二十五メートルもある巨体を見逃すはずはない。

 つまり、俺たちが来た方角には、ハヤテは向かっていないのだろう。


「お兄ちゃん、行く当てはあるの?」


 ニーナが聞くと、マヤは目を伏せ、スカートをギュッと握った。


「お兄ちゃん、たまに言ってたんです」


 ――エインヘリアルに入れば、もっと材料が自由に手に入るのに。


「…………」

 俺はみんなを見回した。

 みんなもそれぞれ、お互いの顔を厳しい表情で見合わせている。


 首から提げた、コスモにもらったヤクの歯のペンダントを握り締める。


 とんでもないクソ野郎だ。

 その言葉をグッと飲み込み、俺は言った。


「それだけは、何としても止めなきゃならないな」

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