(7)超能力者《サイコキネシス》
……目を開くと、辺りは暗くなっていた。
あれ? 寝すぎたか。
目をこすりながら起き上がると、
「目が覚めたかい?」
と声がして、俺は「うわっ!」と変な声を上げた。
声を振り返ると、椅子に子供が座っていた。
子供と言っても、先程の魔法少女ほど幼くない。でも、俺よりは小さそうだから、十歳くらいだろうか?
耳を覆う長さの真っ白な髪に、透き通るような白い肌。そして、パジャマみたいなダボッとした白い服。
その表情が柔らかく微笑んでいなければ、幽霊と勘違いしてギョッとしただろう。
整った顔立ちは中性的だが、声から察するに、多分男の子。
そんな彼は、俺が驚いたのを見て、少し慌てた。
「ごめんね、驚かすつもりはなかったんだ。あまりによく眠っていたから、このまま死んでしまうんじゃないかと、心配でね」
妙な言い草だ。俺はベッドにあぐらをかき、口を尖らせた。
「寝たくらいで死にはしないさ」
すると少年は目尻を下げて笑い、彼の前にある小さなテーブルから、皿を取って俺に差し出した。
「お腹空いてない? 夕飯、取っておいたから食べて。冷めてしまったけど」
……それを見て、俺の腹の虫が大合唱を始めた。
トロトロに煮込んだ豚の角煮と、見た目もサクッとした春巻きと、肉まん。
無意識に喉が鳴る。
俺は奪うように皿を受け取り、手づかみで料理を平らげた。見た目に
……いや、異世界でこんな
皿を空にしたところで、俺はふうと息を
そんな俺を見て、フォークを手の中で持て余していた少年は笑った。
「バルサたちに聞いたよ。オーク肉が苦手なようだね。でも、この料理にもオーク肉が使ってあるんだよ。気に入ったかな?」
「嘘だろ?」
俺は目を丸くした。
「豚肉かと思った……」
少年はハハハと、俺の手から皿を受け取った。
「チョーさんにかかれば、どんな食材でも美味しい料理に早変わりなんだ」
チョーさんとは、昨夜バルサの口から聞いた名前だ。料理の達人のウデは確かなようだ。
少年は空の皿をテーブルに戻し、俺と向き合った。
「僕はファイ。よろしく」
「俺は……神代、ヘヴン」
今さら本名で名乗れない。俺は恥ずかしさをうつむいて誤魔化した。
「こんな事を聞くのは失礼かもだけど、どうして
「あー……」
少し悩んだ末、俺は正直に答えた。
「い、異世界転生というものをだな、一度やってみたくて……。そしたら、うっかり死んだみたいなんだ」
すると、ファイは微妙な顔をして笑った。
「随分風変わりな転生理由だね」
「うるせーな。そう言うおまえは何だよ?」
すると、ファイは弱々しく微笑んだ。
「僕はね、生まれた時から体が弱くて。病院のベッドから出た事がなかったんだ……」
……ずっと、白い天井しか見た事がなかった。
いつもたくさんのチューブに繋がれ、ぼんやりと天井の模様を数えているだけ。
そんな生活の中で、唯一の楽しみがテレビだった……。
「知ってる? 『超能力戦隊サイコキネシス』って特撮ドラマ」
「覚えてるさ。俺が保育園の頃に流行ってたな。変身バッジ、集めたなぁ……」
――と、そこまで言って、俺はハッとした。
あれが流行ったのは十年以上前。ファイが生まれるより前のはずだ。
俺の考えてる事を察したのだろう。ファイはどこか悲しそうな顔をした。
「この世界では、年を取らないんだ。もう十年、この世界にいるけど、ずっと子供のまま」
「じ、十年……!」
つまり、見た目は十歳だが、中身はもう二十歳くらいなのだろう。
思わず俺は背筋を正した。
「いつの間にか、この村で一番の長老になっちゃった。……それはともかく、僕はずっとその番組を見てて、憧れてたんだ。彼らが使うような、何でもできちゃう超能力者に」
ベッドから出られなくても、落ちた本を拾えたら。
ティッシュで顔の汗を拭いたり、眩しい時にカーテンを閉められたりしたら、どんなにいいだろう。
……忙しい看護師さんを呼んで、嫌な顔をされなくて済むのに。
「ずっとそんな事を思いながら、結局、病室からは出られなかった。だから体から魂が自由になって、この世界に来た時、僕に与えられた能力は、
「…………」
俺は絶句した。
俺がこの世界にやって来た理由が、安っぽすぎて気まずい。
頭を搔きながら、俺は口を尖らせた。
「……じゃあ、俺の武器がボールペンと原稿用紙ってのは……」
「君が作家だからだよ。もっと物語を綴りたかったんだよ、きっと」
作家と呼ばれると照れる。俺は顔を逸らした。
……とにかく、この世界のシステムとして、死の直前に強く望んだものが武器として与えられるようだ、というのは理解した。
「なら、ニーナやバルサは……」
照れ隠しに聞いてみると、ファイは目を伏せた。
「彼らは、殺されたんだ。彼ら二人の赤ちゃんと一緒に」
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