第6話

 野球場の照明器具の高さが十二メートルとして、そんな高さの怪物に掴まれて行ってしまった男がどうなってしまったのか分からないけれど、同じように地面から出てきた真っ黒な化け物が2体、大型犬の3倍の大きさ?馬よりは小さいけど、ポニーと同じくらいという四つん這いで動く何かが、私を威嚇するように回り出す。


 人型じゃなかったから良かったの?

 それとも人型の方が倒しやすかったの?

 わかんない!わかんない!全然わかんない!


 私が一人で発狂しそうになっていると、上から2本の草刈り鎌が落ちてきた。

 上空を見上げると、巨大すぎる真っ黒がどうなっているのか分からない。


 とにかく踏み潰されないように気をつけながら地面に刺さった鎌を両手に持つと、真っ黒い犬みたいな奴らが牙を剥いて唸り出す。


「人ではない、人を殺すわけじゃない」


 ゲームの序盤で行われるチュートリアルだと思えばいいんだわ!


「私はね!キャラデザ担当の人に気に入られたお陰で!国内700万ID突破の人気作!聖天のロクサムの主役級キャラ張っているのよ!イメージで何でも出来るって言うのなら!私ほどイメージ出来やすい人間はいないんだからね!」


 化け物犬に向かって何を言っているんだとか、心の中の私が呆れているけれど、ここで死んだら、おじさんに刺されたついでにまた死ぬ事になる。



      ◇◇◇



 大陸から見て東に位置する島は、太陽が昇る海の果てに存在するように見えたという。そこは、神々しいばかりに神聖なる場所、とでも想像してしまいがちだが、実際に太古の人々にとっては『呪われた島』以外の何ものでもなかった。


 重なり合う大陸のプレートの上に存在し、その遥か地下にはマグマが流れて、多くの火山が今もまだ生きた状態で存在する。


 不安定にも程があるという場所に均衡を生み出した人々は、地下に埋もれる膨大なエネルギーを抑え込む術を持っていたんだって。


 負のエネルギーとして消滅させる御技は特別なものであり、その力があってこそ、日々を平穏に過ごしているわけで、

「数多の神に感謝を!」

なんて言って暮らしてきた時期が長いから、日本人は神秘的な現象が大好きだし、巫女とかシャーマンとか、そういったものへの憧憬を未だに持ち続けていたりするわけだ。


 つまりはどういう事なのかっていうと、遥か昔から継承されてきたものを続ける事が出来なくなって、大きな問題に直面する事になったわけ。


 昔から続く御技は衰え、劣化し、保ち続けてきた均衡は大きく揺らいで来たわけだ。疫病にしろ、災害にしろ、今まで最小限に抑えられてきたものが抑えられない。

 溢れ出るエネルギーを抑えられず、消化できずにいれば、後に爆発するのは目に見えている。


 とにかく、エネルギーが問題だというのだから、過去から続く御技と同じように負のエネルギーと混ぜ合わせて具現化し、それを消滅させる作業に人の精神エネルギーを使用すればいい。


 精神だけを別世界に移動させる技術は確立出来ていた為、その別世界で、溢れ出るエネルギーを消滅させる作業を行わせる。これが一大プロジェクトとして秘密裏に行われるようになってから、人道とか、人権とか、そんな意識は何処かの世界にほおり投げられる事になったわけだ。


「きゃああああ!倒せた!倒せた!私!天才!天才だわ!」


 草刈り鎌をぶん回していた俺のバディは、見事、小型の『ほむら』を2体、倒す事に成功したらしい。


 ぶん回された草刈り鎌は『ほろび』の足首をも抉り飛ばしていたようで、倒れ掛かる12メートル級の首を両手に握った2本の刀で斬り裂くと、溢れ出る負のエネルギーが無数の触手となって俺を取り込もうと動き出す。


 刀を数メートルの長さに伸ばしきってたところで首を完全に切断したところで、漆黒の液体が弾け飛ぶ。

 崩れ落ちる『ほろび』の塊で球場の観客席が埋もれていく中、唖然とこちらを見上げている白間咲良の方へと飛び降りる。

 


 胸の周りが黒の奴は『頑固・気難しい』などと表現されてはいるが、実際には現実世界でも問題があるような奴らばかり、人の悪意が大好きな『ほろび』や『ほむら』を引き寄せる力を持っている。


 今回、12メートル級のエネルギーの塊が現れたのも、俺が黒持ちの体を切断して撒き散らしたから。死ぬ前に吸収されると『ほろび』のエネルギーとなるため、絶命させた。  

このプロジェクトが始まってからというもの、人道やら人権なんてものは、何処かの世界に放り投げられているから、全ては仕方がないで片付けられている。


『ウォオオオオオオオオオン』


 俺が咲良の前に立つと、ほろびの最後の雄叫び(うた)が世界に響き渡る。

 これで、今日は終わり。

 この後は、この世界から現実の世界に戻るだけ。


「あの!草刈り鎌!ありがとうございました!」


 咲良は律儀にも俺に草刈り鎌を渡しながら、

「結局、これって夢なんですよね?」

と、尋ねてくる。


「夢じゃないよ、現実だよ」

「いや、夢でしょ?」

「いや、夢じゃなくて・・・仮想世界っていうのかな・・・詳しくは『まほろびの世界』をネットで検索してみて」


「調べて出てくるものなんですか?」

「結構、ネット上では有名な話だよ。あと、親とか友達にも言わないほうがいいよ?頭おかしいと思われるだけだから」


 咲良は難しい顔をしながら下を俯いた。

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