第5話
「もう、白とか灰色とか、よく分からないんですけど!」
「胸の周りの色だよ、それもピエロが説明していたはずだよ?」
「確かに、説明していたと思うけど!」
「灰色は本当に数が少なくて、ほぼほぼ、バディが組めずに自滅していくパターンになっちゃうんだ。俺が知っている限りでも、灰色で生き残っているのは俺と、もう一人の中学生の男の子くらい。年齢差でバディが組めないのが残念だけど、あれはなかなか面白い育ち方をしていると思うんだよね」
「中学生は年齢差でバディ組めないんですか?私、バディを組むならその中学生の男の子がいいんですけど?」
この世界、死んだからってスワーッと消えるわけじゃないのよね。
私を襲った男たちは、確かに絶命したんだと思うんだけど、肉塊が消えないっていうか、ぐずぐずと溶け出しているというか、とにかくキモい!本当にキモい!
「無理!無理!年齢差で組めないんだって」
「私!人殺しとバディを組むとか無理なんですけど!」
市営野球場の中には、転がる死体と私たちしか居ない状態。
野球場のライトが眩しいくらいに煌々と光り、シンと静まり返る私たちを照らし出している。
胸に穴が空いているというのに、あまりの緊張から胸がドキドキと高鳴っている事には気がついていた。
人殺しに人殺しは無理とか言い出す私、マジでこれ終わったでしょう?
相手は胸の穴の周りの色が灰色だから好意的に接してくれているっていうのに、あえての断絶宣言、殺戮者相手にやる事じゃないかも。
男はまじまじと私を見つめた後、
「俺とバディは組めないの?」
と、問いかけてくる。
いや、無理でしょう?無理でしょう?無理だよね?誰かそれは無理だよって言ってあげて!
仮にも今居る世界が本当にあったとして、ここで死んだら現実世界でも死ぬとして、ここで殺したら、あちらでも死んでいる。それ即ち、殺人を犯しているのと同義でしょう?
「俺はね、別に誰でも彼でも殺しているわけじゃないんだよ?」
男は草刈り鎌をブンブン回しながら言い出した。
ああ、二つの草刈り鎌が鎖で繋がっているんですね?
「そもそもあいつら、特大の問題児で、ここで脅した女の子の住所なんかを特定して、現実世界でもやりたい放題やっちゃっているんだよ?」
「はい」
「そもそも、君自身だってやりたい放題されちゃう所だったよね?」
「はい・・でも、悪いことをしたのなら、まずは法の裁きを受けて・・」
男は鼻で笑った後に、蔑むように私を見ながら言い出した。
「芸能活動今までしていて、セクハラパワハラを経験していない訳でもないでしょう?女が男に深い関係を強要されて、それを立証するのがいかに難しいかって事、知らない君でもないでしょうに?」
殺戮マンのくせに痛いところをついてくるなぁ。
「仮に警察に駆け込んだとして、男たちに何処で脅されたって尋ねられて、何て答えるわけ?夢の世界で脅されました?暴力を振るわれました?はははっ、警察も相手にするわけがないよね?」
「でも!だからと言って殺す必要はないですよね?」
「だからさ、これは致し方なくって奴だよ」
男がそう言った直後、野球場のマウンドが波打つようにして動き出す。
この野球場は天然芝を使っているんだけど、盛り上がった土にまみれて芝の塊が宙を飛んでいく。波打つように動いているのはマウンドだけ。
地面の裂け目から飛び出してきた漆黒の手が男を掴むと、大きな何かが野球場のライトの高さまで伸び上がる。
草刈り鎌を持ったまま上空へと連れ去られた男は、
「敵を倒すにはイメージ!イメージが大事!」
と叫ぶ声だけが降ってくる。
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