第38話 ラスボス嫌疑
俺の下僕たちが馬鹿みたいに世界の終わりみたいな攻撃を連打していたものだから、もはや渋谷ダンジョンの大ボスは半死半生の状態だった。
そこへ来て、『ロストアグリエス・オンライン』史上最凶最悪のラスボスである俺が突っ込んで行ったのだ。
ただで済むはずがない。
「可哀想だが、これも運命。すまんが、倒させてもらうぞ!」
女たちの繰り出していた魔法が止んだ瞬間を狙って、俺はオーケストラの指揮者が指揮するように両腕を振り下ろした。
その瞬間、宙空に浮かんでいた剣と鎌が猛スピードでドラゴンへと舞い飛び、奴の身体を縦横無尽に切り刻んで行った。
文字通り肉の破片となってそこら中に飛び散った元ドラゴンだった特Sクラスモブは、断末魔の叫びと共に、その場から消滅して行った。
「やりましたね」
ラスボスの武器を異界へと戻してぼーっと突っ立っていた俺の元へ、女どもが駆け寄ってくる。
「まぁ、こんなものだろう。それなりに手応えがあったし、中々に楽しめたな」
言葉とは裏腹に、無表情で佇んでいた俺。
「ちょっと! 本当に倒しちゃうとか、あなたいったいなんなのよ!?」
歓喜のような畏怖のような、よくわからない響きを持った声色を上げて近寄ってくるユーリ一行。
「まさか本当に倒しちまうとはな」
「まったく……あんたらにはほとほと呆れるぜ」
「だな。まるで意味がわからん。あのボス、ファフニールだぞ?」
互いに顔を見合わせながら言い合うユーリたちに、軽く肩をすくめてやったあとで、俺は眼つけるようにした。
「それで。その辺に転がってるドロップ品はどうすんだ?」
「あ……」
絶体絶命の死の恐怖から解放されてすっかり忘れていたらしいが、今倒したのはすべてのモンスターの中で最もレアなアイテムを持ってる特級モブだ。
それ相応のお宝がドロップされたに違いない。
おそらく、独り占めすれば一生遊んで暮らせるだけの財宝がな。
「う~ん……どうしよっか。正直、かなり魅力的ではあるんだけど……」
「だな……。だが、俺たちは何もできなかったしな」
「まぁなんだ。この場合は辞退するのがいいんだろうな。命救ってもらったってのは事実だし」
「だよなぁ……実際問題、敵から戦線離脱した時点で、戦闘権利放棄したようなもんだしな」
ユーリたちは顔を見合わせて頷き合うと、一斉に俺たちの方へ向き直った。
「そういうわけだから。全部あなたたちが持ってっちゃっていいわ。私たちにはギルドから未踏破エリア第一発見者報酬がもらえるしね」
「本当にそれでいいのか?」
笑いながら言う美少女は「えぇ」と頷いた。
「それに、うふふ。物凄く貴重なもの撮れちゃったしね♪」
「だなぁ」
「今回は大スクープだったからな。どんだけバズってるか、見物だぜ?」
「きっと、視聴者数、十億超えとか行くんじゃねぇか?」
「ね~! ――うっふふ、きっと今頃凄いことになってるわよ」
ニヤニヤガヤガヤ騒ぎ始めるSランク冒険者ども。
俺は最初、奴らが何を言っているのか理解不能だったが、ユーリの肩にくっついていたカメラが赤く点滅しているのを見て、一気に冷や汗が吹き出してきた。
――まずい!
つい調子ぶっこいて神の神器なんか顕現させてしまったが、あんなものを見た冒険者連中がなんて思うか考えるだけでも恐ろしい。
「お、おい! お前ら! 今すぐカメラ止めろ! そんでもって、ネット配信するのはやめろ!」
「え? なんで? ていうか、もう配信しちゃってるよ? だってこれ、実況配信だもん」
そう言ってにまにまする馬鹿女。
「ていうか~。新人君っていったい何者なの? そっちの女の子たちも普通じゃないし」
「だよなぁ……。つーか、そう言えば、さっきのあれ、どっかで見た気がするんだけど、なんだったかな?」
――ギクッ。
非常にまずいぞこれ。
これ以上こんな奴らといたら、身バレしてやばいことになる!
「おい、リア、クリス、ユメ! さっさとドロップ品拾ってずらかるぞ!」
俺は叫ぶと同時に、床に転がっていた武具や素材の山を両腕に抱えて素早く出口へと動いた。
「ちょ、ちょっと、待ってよっ」
アマリアが文句を言いつつも、ちっこい身体で追いかけてきた。どうやら三人で分担して残りのアイテムを拾ってきたらしく、胸の中に色んなものが抱えられていた。
「なんだか忙しい冒険でしたね」
「うふふ。でも楽しかったわぁ。あとは帰ってマスターと一緒にお風呂に入れれば言うことなしねぇ」
とかなんとか、本当にどうしようもないことばかりほざいている女ども。
そんな彼女たちと合流し、出口階段付近まで辿り着いたのだが――
「あぁぁ! 思い出した! さっきのあれって、確かあのゲームのラスボスが使ってた技じゃなかったか!?」
「えっ? ゲーム? ラスボス? それってなんの話~?」
「そういや、あの女たちも、どっかで見たことあると思ってたんだけどさ――」
「「「「ま、まさかなぁ……?」」」」
思わずどばぁ~っと脂汗が吹き出してきそうなユーリたちの会話が背中越しに聞こえてきて、俺の心臓はこれ以上ないほどに高鳴るのだった。
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