第34話 反射する壁と最深部へ
鬱陶しくてかしましい野次馬どもに追い立てられるようにして街をあとにすると、俺たちは周辺の探索を再開した。
ギルド情報によると、十九層までは本当にくまなく捜索し尽くしているらしく、隠し通路の類いもまったく見られないのだそうだ。
たまに、俺たちが遭遇したような新たなレアモブ情報が転がってくることはあるが、それ以外の情報はないらしい。
だから、連中はこの二十層が最下層と勝手に決め込んでいたようだが――
「おそらく、この辺りかと思います」
俺たちは二十層のとある一角へと進み、立ち止まった。
そこはいわゆる壁と呼ばれている場所だ。
このフロアの中心にコロシアムがあり、その周辺に渋谷シティが作られているが、十九層から下りてくる出入口通路の丁度対角線に位置する突き当たりの壁に、何か人工的に磨き上げられたかのような、そんな壁が存在していたのだ。
その壁は他の壁同様、クリスタルのような材質ではあったが、明らかに様子が違っていた。
クリスティーナはそこに違和感を覚えたのだそうだ。
「この奥から、妖しげな因子を感じると、お前はそう思うのだな?」
「はい。ですが、例の強大な反応はこの階層にはありません」
「となると、考えられることは一つか」
このおかしな壁の向こうに隠し通路がある。
そして、その先に、ないと思われていた第二十一層へ続く階段なりなんなりが存在するということだ。
「だが、問題はどうやってそこへと行くかだな」
俺の独り言に反応するように、ロリっ子が顔をキラキラさせる。
「破壊しちゃえばいいのよっ」
「あらあら、相変わらずお馬鹿ねぇ。攻撃したら、跳ね返ってくるって言ってるでしょう~?」
「だったら、どうするっていうのよっ」
「それを今考えてるんじゃないのよぉ」
アマリアとユメルがいつもの調子でそんなことを言い合っていると、クリスティーナが短く声を上げた。
「ご主人様、あれをご覧ください」
「うん? あれ?」
俺は彼女が指さすところを見て、眉を寄せた。
「あれは……確かユーリとかって女が後生大事に持っていたものではないか?」
俺は地面に落ちていた細長い棒状のものを拾い上げた。
「間違いない。これはあの女が配信で使っていたスマホ棒みたいな奴だな。しかも、カメラまで付いている」
「なんでそんなものがこんなところに落ちてんの??」
「ひょっとして……」
アマリアとユメルが顔を見合わせた。
「なるほど。そういうことか」
俺はクリスティーナに棒を渡すと、つるっつるの壁にゆっくりと手を近づけて行く。
「この階層の壁はすべての攻撃を跳ね返すらしい。つまりだ。たとえどんなに小さな動きでもすべてが弾かれるということだ」
俺は壁に手が触れるかどうかというギリギリの位置で、動きを止めた。
「ちょっと、どういうことよ。意味わかんないんだけど!?」
ブーブー言ってくるアマリアだったが、俺は無視した。
「おい、お前ら。今から面白いものを拝ませてやるから俺に掴まれ」
「え?」
三人は意味不明といった体で顔を見合わせたあと、どさくさに紛れて思いっきり抱きついてきやがった。
一瞬、イラッとしたがこの際無視する。
「いいか、お前ら。壁に向かって攻撃するということはつまり、それは壁に向かって何かしらのベクトルが発生しているということだ。この壁はそれらベクトルをすべて敵対行為と見なして、反射するのだ」
そこまで言って、手を動かした。
壁に掌をつける寸前に同等の力を後ろへと逃がし、ベクトルをゼロにした状態で更に手を上へとスライドさせた。
その瞬間、俺たちの姿はそこから消滅して行った。
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