第33話 最低最強の新人冒険者




 やたら面倒くさい決闘騒動に幕が下り、集まっていた野次馬どもも全員、どこかへ行った。

 これ以上面倒事に巻き込まれたくなかったから、当然、近寄ってきていたインタビュワーのユーリからも逃げるようにして、俺たちはコロシアムの外に出た。


 この階層にはここ以外に、ビルの残骸を利用した街が作られているらしく、そこに冒険者たちは戻って行ったという次第である。


 俺たちも、一度その街とやらに行って、今後どうするかを決めることにした。


「まったく。本当にあのクソ女! バルトをなんだと思ってんのよっ」


 合流して早々、ツンデレ幼女のアマリアが憤慨する。


「うっふふ。そうねぇ。私たちみたいな美しい后がいるというのに、あのあばずれ、事もあろうにマスターの身体見て目をキラキラさせてたしねぇ。ホント、ぶち殺してやろうかしらぁ?」

「二人とも? お下品ですよ。ご主人様の前ではしたない」


 ユメルとアマリアを白い目で見ながら、ヤンデレ女のクリスティーナがそんなことを言っていたが、


「おい……」

「……はい?」

「お前は先程から何をしている」

「何と言われましても、ご主人様にご褒美をと思いまして」

「そんなものはいらん!」


 このあばずれ。よりにもよって、上半身裸の俺にぴったりと張り付き、でかい胸をぐりぐり押しつけながら人の身体を触りまくっていたのである。


「あぁぁ~~~! 何やってんのよっ」

「うふふ、なら私も~」


 とか言いながら、左側のクリスティーナと被らないように逆側に張り付いて、身体中を押しつけてくるしょうもないエロ女――もとい、紫髪のユメル。


「ちょっ……! だから、何してんのよっ」

「うっふふ。リアも仲間に入ったらぁ?」

「は、入るわけないでしょ! なんでこのあたしがそんなことしないといけないのよっ。ま、まぁ、バルトがどうしてもって言うなら、やってやらないこともないんだけどねっ」


 そんなことを言って、頬を赤く染めながら上目遣いでチラチラと視線を送ってくる残念な幼女。


「はぁ~。もう、なんでもいいわ。お前ら行くぞ」


 俺は鬱陶しい女どもを振り払い、予備の鎧やら服やらを着用すると、一人さっさと歩き始める。


「ところで、あの方々はあのまま放置しておいていいのですか?」


 慌ててあとをつけてきたクリスティーナがそんなことを言った。

 彼女が言わんとしていることはもちろん一つである。

『竜の顎門』の処遇についてだ。


「まぁ、一応、奴ら三人をぶちのめした時点でギアスの効力は失われているらしいからな」


 クリスティーナの腕につけられた腕輪は、奴らの敗北と共に木っ端微塵に砕けたらしい。


「それに、あそこまでボコボコにされたら、さすがに大人しくなるだろう」

「そうですか」

「あらあら。うふふ。随分ご寛大ですね。ちょ~っと、私に命じてくだされば、さくっと細切れにして来て差しあげますのに――うっふふ」


 終始艶然と、そして残虐に微笑むユメルが何やら舌なめずりしていた。

 俺は背筋が寒くなったので、女どもを無視して足早に街へと向かった。


 中に入ると、そこは街と言うよりアウトローどもが集まるスラム街のような場所だった。

 そこら中に倒壊した建物が顔を覗かせており、その前で、商魂逞しいクラフト職の連中が自分たちの作成したアイテムを売りさばいていた。


 中にはゲーム世界の住人のような連中もおり、彼らも普通に商売人や冒険者として談笑していた。

 その姿はどこからどう見ても生きた人間。


「ふむ。やはり、この世界はリアルということか」

「そうですね。顕現位相のお力でゲーム世界がこの世界に複製再現されて異世界を作り上げた。そう考える方が自然なのかもしれませんね」

「ならば、現れた住人やダンジョンなどは向こうのものがそのままこちら側へと現れたわけではないということか」

「おそらく」


 まぁ、クリスティーナの言い分はもっともだな。何しろ、皆、普通の人間にしか思えなかったしな。

 アレがゲームみたいに作られた存在だったとしたら、それはそれでおぞましい。何しろ、ゲーム内のNPCなんぞ、同じことしかしゃべらんからな。

 であるならば、NPCを模した本物の人間として生きてくれていた方がなんぼもましだった。


「おおお? おい、見ろよっ。最強新人のお出ましだぞ!?」

「ぅおおお~~! 最強のオールF!」

「てか、後ろのねぇちゃんたちの顔、拝ませてくれよ~」


 街中を適当に散策していたら、急にぞろぞろとクソどうでもいい冒険者どもが群がってきてしまった。

 やはり、あの決闘はまずかったな。

 これではどこに行っても大騒ぎではないか。


「ちっ」


 一躍ときの人となってしまった俺。

 これはもたもたしていたら、また面倒事に巻き込まれるに決まっている。


「おい、お前ら。ずらかるぞ!」


 うんざりした俺は顔をしかめ、街をあとにするのだった。

 次なる目的はこのダンジョンのボスがいると思われる場所の捜索。

 それさえ済めば、こんな場所とはおさらばしてやる!


 一人、まだ見ぬボスの姿を見て意気込む俺だった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る