第32話 成敗される悪党
金髪野郎が繰り出してきた攻撃。あれはおそらく、剣士の武器スキルか何かなのだろう。
凄まじい速度と勢いで振り下ろされる剣刃。
煌めく銀閃が残影となって残像現象を引き起こす。
「そう言えば長剣のレア武器には三十六連撃を繰り出す奴があったな。ひょっとしてアレか?」
俺の目の前で何十回にもわたって振り抜かれる――おそらく、レア武器による斬撃。
さすがにすべてを受ける気になどなれなかったから、紙一重ですべてをかわしきったところで、面倒くさくなった俺は奴の切っ先を右の人差し指一本で止めてやった。
「なっ――馬鹿なっ」
指が切り飛ばされることもなく、親指と人差し指の二本で摘まんでやる。
「き、貴様っ。は、離せっ」
鬼のような形相の中にも、どこか焦燥感を漂わせる表情でわめき散すチンピラ。
俺は大して興味も示さず、ギルド職員を見た。
「おいっ、お前ら! このまま試合を続行してもよいのか? どうなのだ!?」
それほどでかい声で怒鳴ったつもりはなかったが、異様なまでに周囲がシーンとしていたから、やけにでかく反響した。
奴らは戸惑ったように少しの間を置き、互いに頷き合うと、職員の代わりにユーリがマイクを持って叫んだ。
「少々おかしなことになりましたが、本試合はそのまま続行とします! なお、この試合の勝敗をもって、すべてに決着がつきます! よろしいですね、お二方っ?」
「――それでよい」
「ふ、ふざけるなっ、こんなの、八百長だっ――あり得ねぇ、ありえねぇんだよっ。俺の攻撃が何も通じないとか! てめぇはいったい何もんだっ」
「ふむ――何者とな? だが、貴様に答える必要などないな」
俺は芝居がかった口調でそれだけを言い、さすがにもうこんな茶番などに付き合ってられなかったゆえ、本当に軽~い感じで――
ポキ。
高そうなレア武器をへし折ってやった――ていうか、あれ? この剣って俺たちが横取りされたレアモブが持ってた奴じゃね?
「うわ、もったいねっ」
気付いたときにはもう遅かった。
一人舌打ちしていると、
「うわぁぁぁ! 俺の、俺のグランリーパーがっ」
真っ二つにへし折れた武器を両手に持ったまま呆然と佇む残念野郎。
「おい、お前。言い残すことはないか?」
「……あ?」
奴は泣きそうな顔をして俺を見た。
すっかり戦意喪失したチンピラに俺はゆっくりと近寄り、そして、肩に手を置いてこう囁いてやった。
「ざまぁねぇな、正木竜一郎。前世の借りはきっちり返させてもらうからな」
「え……?」
泣きっ面で化け物を見るような視線を送ってくる金髪野郎の腹目がけて、俺の強烈な右拳が炸裂した。
なんのスキルも魔法も乗せていないただの鉄拳。
いつか鎧の上から喰らった攻撃とほぼ同じような打撃攻撃。
そして、前世で何度も何度も死ぬほど喰らった暴行。
それと同じことを返してやったのだが――
「あ――」
なぜか血反吐を吐いて、奴は数十メートル後方にあった壁へと、爆音迸らせ叩き付けられてしまった。
当然、ピクリとも動かず、地面にぶっ倒れ失神する。
本当に呆気ない幕切れだった。
【ユーリの実況配信】
Y〉〉
遂に決着!
なんと!
前代未聞の事態が起こりました!
少し前に世間を賑わせたあの、最弱新人冒険者が!
なんとあの悪名高き『竜の顎門』三人を相手に勝ってしまいました!
しかも、信じられないことに無傷!
――あぁ……あの素晴らしい筋肉が……と、ぅおっほん!
〉〉〉〉
〔おい! ユーリが筋肉見て興奮してるぞ!?〕
〔ぅわ~ん。俺たちのアイドルユーリちゃんが!〕
〔あの野郎! 殺す!〕
〔てか、ユーリちゃんて筋肉フェチだったん? ww〕
Y〉〉
ともかくです!
三対一という非常に不利な状況に陥っていたにもかかわらず、『竜の顎門』――
えぇ~いっ!
もう面倒だわ!
あのくそったれどもをよくぞぶちのめしてくれました!
これから私、ユーリが!
あの素敵なきん――新人君にヒーローインタビューしてきますっ❤
〉〉〉〉
〔おい、今筋肉って言おうとしなかったか? 草〕
〔やっぱ、筋肉なのかよっ〕
〔を、をれも鍛えようかな?〕
〔おめぇらじゃむりだよ! 脂肪でもつけて死亡しろ! www〕
〔うはっwさむ!〕
◇
コロシアムのでかいモニターにあのクソ女の実況配信が大々的に流れていた。
おそらく、今回の決闘騒動はギルドのネット通信網を通じて、全世界に配信されてしまったことだろう。
ホント、クソ残念すぎる。
――こうして、俺は何やらとんでもなく面倒な厄介事に巻き込まれた挙げ句、実況配信とやらで全世界に名前が知れ渡ってしまったのであった。
……つーか、ホントやめて!
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