第31話 デュエル――最終戦
いつかみたいに再び、大歓声が湧いた。
しかし、今回は今までとはまるっきり違っていた。
「すげぇぇぞ、あいつ!」
「本当に最低冒険者かよっ」
「てか、なんだよさっきの威力!」
「凄すぎるってぇのっ」
「てか、凄い筋肉ぅ~~!」
「こっち向いてぇ」
「愛してる~~!」
野郎どもの野太い叫びに混ざって女たちの嬌声まで聞こえてきた。
まぁ、悪い気はしない。
しかし、こんな台詞を聞いたら俺の下僕どもがどういう態度に出るか。
そう思って控えの席にいた三人組を一瞥したのだが――
「――おい」
三人とも立ち上がって今しも観客席向かって魔法をぶっ放そうとしていた。
「ちっ」
俺は地面に落ちていた石ころを拾うと、奴らに向かって放り投げる。
ガンッ。
という衝撃音を伴って、三人の前にあった壁へと激突した。
そして、視線が合う。
凄みを利かせた俺の眼力が意味するところを悟ったのか、途端に大人しくなって三人が椅子に座った。
「たくっ」
女どもの反応にうんざりして舌打ちしたところで、やっと真打ちのお出ましとなった。
『竜の顎門』のリーダーにして、前世で俺をボコってくれた金髪野郎。
奴は実家が金持ちで学校にも寄付金を納めているような家柄のボンボンだったから、誰も奴を止めることができなかった。
そんな輩だ。
世界改変が起こる前も手当たり次第、率先して悪事に手を染めていたような正真正銘のクズだったが、こんなご時世になっても治るどころかより一層エスカレートするとか本当にどうしようもない奴だった。
そんな奴と再び相まみえることになるとは。
ホント、腐れ縁とは恐ろしいものだ。
「よぉ。なんか知らんが、汚い手ぇ使いやがってよっ。みっともねぇとは思わねぇのか!?」
金髪野郎のリュウこと
奴は俺の二メートル先で立ち止まると、周囲の群衆に聞こえるようにと、わざと大音声で叫び出した。しかも、下手くそなまでに芝居がかった言動で。
「なぁ、おい! そこまでして勝ちたいのかよっ。ホント、だっせ~なぁ」
「あぁ?」
「はっ。そりゃぁ、いかさましたくなる気持ちもわかるわな。なんせ、実力の差はっきりしているわけだしよっ。だがな、やっていいこととわりぃことってあるんだよっ」
終始、卑しい笑いを上げながら、俺だけではなくギャラリーを見渡しながら叫ぶクズ野郎。
なんだか知らんが、こいつの声に応じて、暇人冒険者どもが騒ぎ始めたぞ?
――まさか、こんな猿芝居を信じたのではあるまいな?
どう考えてもただの言いがかりだ。そして、この野郎が最底辺を生きる薄汚い冒険者だということも周知の事実だ。それなのに、今更こいつの言うことを信じるのか?
「おいっ、審判! こんなふざけたいかさま試合、これ以上続けられねぇぞ! 中止だ、中止!」
奴は試合を仕切っていたギルド職員へとでかい声で叫ぶ。
「ふむ、なるほど。どうやら怖じ気づいたということか」
残念金髪野郎の言動を見て、思わずぼそっと呟いてしまった。
瞬間、奴の顔が真っ赤に染まる。
「んだとてめぇ、ごらっ! 誰が怖じ気づいただ!? あぁぁっ?」
憤怒の形相を浮かべたリュウがズカズカと地面を踏んづけ、俺へと接近してくる。
そして、顔を近づけメンチを切る。
その瞬間、奴が素早く動いた。
突然、腰の長剣を抜刀したかと思いきや、そのままの勢いで俺の動体をなぎ払おうとする。
それを目撃していたギャラリーや実況のユーリらから怒号やら悲鳴やらが木霊したが――
「なっ――」
確かに俺は奴の一撃をもろに食らってしまった。
相変わらず上半身素っ裸のセクシーなボディを晒していた右脇腹にな。
ものの見事に奴が手にしていた長剣の刃がめり込んだのだ。
だが、分厚い腹筋に阻まれ、奴の光り輝くご大層な剣が俺を真っ二つに切り裂くことはなかった。
ていうか、傷すら付かない。
さすがラスボスの俺。耐久力が半端ないな。
やはり、あのオールFはバグらしい。
「さすがに一瞬だけだが、ヒヤッとしたぞ。だがまぁ、そんなものか?」
「て、てめぇはバケモンかっ!」
リュウは素早く後方へと走って距離を取ると、全身からおかしな気配を噴出させた。
どうやらなんらかのスキルを発動するようだ。
「ていうか、試合を中止にするとか言ってなかったか? それ以前に、まだ始まってもいないのだがな?」
俺はそう思ってコロシアム右手のギルド職員らがいる場所を眺めたのだが、
「ぅらぁぁあ! てめぇはどこ見てやがる! これでも喰らいやがれ! ――ブレイク・スィンガラム!」
叫び様に猛ダッシュして距離を詰めてきた金髪野郎はそのまま縦横無尽に剣を振り回した。
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