第30話 悪の末路
【ユーリの実況】
Y〉〉
きゃぁー!
これは酷い!
酷すぎる!
マサが放った魔法はあの、低級モンスターを一撃で倒してしまうと言われているヒーラー最強攻撃魔法のホーリックフレア!
あんなものを喰らったら、人間なんてひとたまりもないぞぉ!?
ていうか、ふざけるなぁっ。
デュエルでの最上級魔法の使用は禁止されていたはず!
これはさすがにまずいか!?
新人君の命運はいかに!?
〉〉〉〉
〔あーあ、また新たな犠牲者が出ちまったよ……〕
〔ていうか、これ放送していいの!?〕
〔放送事故じゃね?〕
〔血反吐期待(ゲス〕
◇
凄まじい閃光と白煙が周囲に渦巻いていた。
身体中を焼き尽くすような聖なる炎に全身を蝕まれ、俺が身にまとっていたブラックレザーアーマーはすべて消し炭となってしまった。
そこら中に走る痛みに俺の精神は正気を失って今しも死に絶える――そう思っていた時期もありました。
「あれ?」
ものは試しに受けてみようかなどと、ついつい誘惑に負けて思いっきり喰らってしまい、一瞬、
「これまずくね?」
とか死を覚悟したりもしたのだが、どうも、まるっきりダメージを受けていなかったらしい。
剥き出しになった俺の筋肉ムッキムキで美しい上半身が魔法で作られた人工太陽の光に照らされている。
周囲を取り巻く煙も晴れ、悲鳴やら冷やかしやらを上げまくっていた群衆どもの目にも晒される。
大爆炎の中から現れた俺の姿を視界に捉えたギャラリーが一斉に静まり返ってしまった。
そして、次の瞬間――
「おいっ、すげぇぞ、あいつ!」
「なんで生きてるん!? チート過ぎねぇ!?」
「こんなんおかしいだろう!」
「なんでミンチになってねぇんだよっ」
「おいおい! これじゃ、視聴数稼げねぇじゃねぇか!」
「てかある意味、これマジもんで数稼げんじゃね?」
賞賛三割、ヤジ五割。残りはどよめきといった感じだった。
そして――
「……ぉぃ……嘘だろ……なんで無傷なんだ……?」
緩みきった気色悪い笑顔を浮かべていた刈り上げが、惚けたように呟いた。
まぁ俺自身、さすがにここまでノーダメージとは思わなかったからな。気持ちはよくわかるぞ。
「まぁ、なんだ? その、なんかすまん。強すぎて」
無表情に肩をすくめてやったら、奴の顔色が赤や青や紫に激しく変色し始めた。
「うわぁぁぁ~~ふざけるなぁぁぁ~~! 化け物メ! 死ねっ死ねっ死ね死ね死ね死ね死ねjgふいkmぎky!」
絶叫を上げて数メートル先から馬鹿みたいにありとあらゆる攻撃魔法を放つ哀れな男。
俺はそれらをすべて受けながら、奴へとにじり寄って行く。
「ぅわあああぁぁ! く、くるなぁぁぁ!」
三歩近づけば一歩後退して行く刈り上げ。
全身を恐怖に震わせ、魔法を放つことしかできない殴りヒーラー。
俺はそれを眺めながら、ふと思い出した。
「そう言えば、聖騎士も魔法が使えるんだったな――試してみるか」
俺の呟きが聞こえたのだろうか。
「や、やめ……やめてくれぇぇ~~!」
すべての魔力を失ったと見える刈り上げ君が、石に躓いてすっころび、尻もちついた状態で涙と鼻水を垂れ流していた。
俺は特になんの感慨もなく、魔法詠唱する。
「まぁ、さすがに最下級魔法なら死なんだろう――フェアリーアロー!」
声高に叫んだ瞬間、俺の眼前に光の矢が現出した。そして、それが一直線にマサへと飛んで行く。
「――あ」
俺は目の前で起こった惨事に思わず絶句してしまった。
本来、身体を貫通するほどの威力ではなかったはずの最下級魔法だったのに、俺が放ったフェアリーアローが奴の腹へと吸い込まれ、そしてそのまま、後方へと突き抜けてしまったのである。
途端に噴出する血潮。
奴は自分の身に何が起こったのかわからず呆然としていたが、自身の腹を触って両手が血塗れなっていることを確認した瞬間、痛みと絶望に絶叫する。
「いてぇ、いてぇぇ! ぐあああ~~! ぃやだぃやだぁぁぁ、死にたくねぇぇよぉぉお~~!」
その場でのたうち回るマサを見て、俺は軽く額に手を押さえたあと、すぐ足下まで近寄った。
奴は無表情に見下ろす俺に気が付き、泡を吹き始める。
俺は溜息を吐いた。
「やれやれ、本当に世話のかかる――キュアヒール!」
素早く詠唱した俺の回復魔法が土手っ腹に穴を開けた男の全身を包み込む。
白く淡く優しげに光り輝くキュアヒールの魔法効果がすぐさま発動された。
まるで逆再生でもしたかのように、腹に開いた穴が塞がって行き、飛び散っていた血液もすべてが中へと収まって行った。
まさしく奇跡としか言いようのない光景だった。
「なるほど。試しに使ってみたが、回復魔法というのはこうなるのか」
しかし、中級回復魔法だったのに、瀕死の重症者を癒やしてしまうとはな。
やはり、俺のステータスはバグとしか言いようがない。
「おい、刈り上げ。傷は治ったか?」
奴はアホみたいに硬直していた。本当に何が起こったのかわかっていないのだろう。
対戦相手に殺されかけ、死を覚悟していたというのにその相手に全快させてもらったのだ。理解に苦しんでもおかしくないだろう。
「おい! 治ったのかと聞いているのだ!」
「ひゃっ、ひゃいぃぃ! な、治りました、全部あなた様のお陰で治りましたあぁぁ!」
奴は飛び跳ねるように立ち上がって、そのままジャンピング土下座して見せる。
その瞬間、試合終了の鐘が鳴った。
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