第29話 デュエル――中盤戦
「おらぁぁ~~! 行くぞてめぇ!」
鐘の音と共に数メートルの距離を一気に駆け抜けてくるマサ。
奴はヒーラーとは思えないほどのスピードですぐ目の前まで来ると、ナックルをつけた拳を連打してきた。
さすが、伊達に殴りヒーラーなんかやっていないわけだ。
その辺のボクサーなんか目じゃないぐらいに風圧を伴う重い拳が俺の腹や顔面へと炸裂する。
が、それだけだった。
奴の攻撃が俺に触れることなどあり得ない。
なぜなら、敏捷値Fなのに、当たるか当たらないかギリギリのタイミングで全部避けてやったからだ。
「くっ、てめぇ! 避けんじゃねぇ!」
「は? お前は馬鹿か? 避けるに決まっているだろう」
「避けたら、ダメージ当たんねぇだろうがっ」
叫ぶ刈り上げ野郎の額には汗が浮かんでいた。
おそらく、全力の一撃を何度も叩き込んできているのだろうが、正直、俺の動体視力からしてみたら、子供が投げたボールの速度に等しい、酷く緩慢な動きにしか見えなかった。
――つーかだ。
「おい、お前! なぜさっきから殴ってばかりいる! 武器スキルとやらはどうした!?」
「あぁ!? そんなん、覚えてねぇわ!」
「はぁぁぁ!? だったらなぜ、お前は殴りヒーラーなんかやってる!」
「決まってんだろうが! ただ殴りたいから殴ってるだけだ!」
俺は思わず呆然としてしまった。
今のこの世界に武器の熟練度とかそういったものが再現されているのか知らんが、しかし、正真正銘の脳筋だとは思わなかった。
「だったらお前はなぜヒーラー職に就いたんだ!?」
「そうしねぇと、パーティーが成り立たねぇからに決まってんだろうが――ブレス!」
攻撃がまったく当たらないことに焦ったのか、奴は急に飛び退くと、魔法を発現した。
ヒーラーが主に使う魔法は当然回復魔法だが、それだけだと自立できないということで、いくつか攻撃魔法も習得しているし、支援魔法なんかも存在していた。
そして、奴が今使ったブレスというのは、エンチャント系魔法だ。
自身のステータスを一段階上げるというもので、基礎能力すべてが高くなる。
オールAのステータスだった場合にはオールSになるという具合に。
「うひゃひゃひゃ! おいっ、フニャチン野郎! 遊びはここまでだ! 俺が持つ最大級の攻撃を食らわせてヤンよ!」
下卑た笑い声を上げながら更に魔法詠唱に入る刈り上げ君。
奴は今、ヒーラーが普段愛用する杖を持っていなかったから、攻撃魔法など使ってもそこまで威力は高くない。武器にはそれぞれの攻撃適性を高める能力が付与されているからだ。
だから、奴がなんの魔法を使おうとしているのか知らんが、その威力は数段落ちるだろう。
しかし、いやしくも奴はAランク冒険者だ。そんな奴が使う攻撃魔法など限られている。
「ホーリックフレアか……」
ヒーラー最強魔法と言われている聖属性の破壊魔法。
おそらく最高ランク冒険者が使ったら、どこかに存在すると言われているこのダンジョンの大ボスにすらダメージを与えられるのではないか?
そういった魔法だった。
「ふむ。喰らったらどうなるかな?」
無性に胸の内がうずうずしてきた。決してマゾではないし、前世でボコられたことで癖になってしまったわけではない。
しかし、自分の実力を試すまたとない機会なのだ。
そう。あのクソみたいなオールFとかいうおかしなステータスがバグであるということを証明するために。
「いひひひひ! さぁ、僕しゃん? よい子は寝る時間でしゅよぉ~? ――ホーリックフレア!」
これ以上見る気も湧かないほどに歪みきった笑みを浮かべながら、奴の魔法が完成した。
その瞬間、俺の周囲に青白い太陽フレアのような爆発的なエネルギーが渦巻き始める。
そして――
無数に発生したそれが強烈な光となって俺の全身へと炸裂し、大爆発が起こった。
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