第28話 大番狂わせにどよめく配信冒険者ども




 静寂のあとに、鼓膜が破れそうなほどの大歓声が沸き起こった。


「おい! 兄ちゃんいいぞっ」

「あんた最高だよっ」

「ホントにあのオールF野郎なのか!? 信じらんねぇぜっ」

「俺は最初っから、あんたのこと信じてたからなっ」

「てか、お前、大穴狙ってただけだろうが」

「つーか、配信配信っと」


 ギャラリーどもが好き勝手騒ぎまくっていた。

 同時に、コロシアムの一角に設けられていたモニターに、ギルドが運営している通信サイトの映像がデカデカと流されていて、そこに、ぶそ~っとした顔を浮かべている俺がアップで映し出されているとかっていう、摩訶不思議な状況。


 つーか、マジやめてくれねぇかな?

 これじゃ、注目の的だろうが!


 俺は前世で遊べなかったこのゲーム世界を慎ましく遊ぼうと思っていただけなんだがな?

 このままだと、身バレして全冒険者どもに襲いかかられるのも時間の問題ではないか!


 一人うんざりしながら突っ立っていたら、このコロシアムを仕切っているギルド職員によって担架に乗せられたカツが、舞台袖に引っ込んで行った。

 それと入れ替わりに出てきたのが、刈り上げ頭のマサだった。


 奴は確かヒーラーだったから、この手のデュエルには不向きなはずだが、どうやらただのヒーラーではないようだ。

 着ていた白いローブを脱ぎ去ると、その下に現れたのは金属鎧。

 ニヤニヤしている頭の悪そうな兄ちゃんは、両手にナックルまで仕込んでいた。


「なるほど。いわゆる殴りヒーラーというわけか」


 このゲームに限らず、世に出回っているネットゲームには殴りヒーラーと呼ばれている連中がいる。

 要するに、


「回復だけしてんのなんてつまんね! 俺も殴らせろ!」


 とかいう脳筋野郎のことだ。


 このゲーム――現在の世界の元となったMMORPGにも当然そういった輩は存在し、殴らなければ上がらない武器熟練度というものがあったから、戦略性無視で殴る奴が多かったらしい。そうしないと、武器スキルを覚えられないからだ。


「ということは奴もその一人だということか?」


 一瞬、理知的に考えてそう解釈したのだが、前言撤回した。

 だって、見ろよ。あいつの顔!

 なんだあの気色悪くて頭いかれた表情!

 舌出してニヤけてやがるぞ!?


「うけけ。よくわからんが、カツの野郎もだらしねぇなぁ。こんなもやしみたいなフニャチン野郎に手も足も出ねぇなんてよっ」


 もはや人格破綻者なのではないかというほどに馬鹿みたいに笑い狂っているアホんだら。

 五メートルほど先にいる男の名前は吾月雅也あがつきまさやだったか?


 どうでもいいゴミ野郎どもの名前などいちいち覚えてはいなかったから、あっているかどうかわからん。

 まぁ、正直どうでもよかったしな。


 俺はロングソードを構えたまま、試合開始の合図が鳴るのをひたすら待った。






【ユーリの実況配信】


Y〉〉


 さぁ、第二戦が始まります!

 今回のデュエルはよくわかりませんが、三対一という非常に不公平な試合形式らしいです!

 しかも、悪名高き『竜の顎門』の対戦相手はあのオールF新人冒険者君!

 一瞬で病院送りになると思われていましたが、なんとっ!

 あのAランク冒険者のカツをあっさり倒してしまうという大番狂わせ!

 いったい、このあとどうなってしまうのでしょうか!?


 〉〉〉〉


 ◇



 巨大なモニターに実況解説者気取りの女の映像が映っていた。

 あいつは先程、確か試合中止とかなんとか言っていたはずだ。

 それがなぜか、今は試合を観戦する気満々だった。しかも、メチャクチャ興奮してやがる。


 ――本当に意味がわからん。つーか、お前ら、俺を映すのはやめろ! 迷惑だ!


 そう心の中で叫んだとき、試合開始の合図が鳴った。



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