第27話 デュエル――前哨戦




 試合開始を告げる鐘が鳴った。

 周囲の野次馬が上げる歓声やらヤジが、より一層酷くなった。

 そんな中、審判席辺りでユーリとかいう実況冒険者が仲間と一緒にオロオロしながらカメラを回していた。


「映すなと言っているだろうが」


 じろじろ見られることが嫌いな俺は、身バレすることよりもそちらの方が気になり不愉快だった。

 だが、そんなよそ見をしていた俺のことがもっと気に入らなかったらしい茶髪のカツが、盾と長剣を構えて突っ込んできた。


「どこ見てんだてめぇ! ――シールドバッシュ!!」


 ナイト職らしくラウンドシールドを前面に押し出して体当たりしてくる。

 俺はそれを――どうしようか悩んだ。

 よく考えてみたら、戦い方なんか何もわからんかったな。


 ディメンジョンスラッシュという長剣技は攻略サイトで見ていたから知っていたが、それ以外だと、大技ぐらいだろうか。覚えているのは。


 ていうか、それ以前に俺はステータスカードでは聖騎士になっていたが、本職は神であり魔王だ。

 多少、そっちの知識はあるが、果たして普通の聖騎士技なんか使えるのだろうか?


「う~む」


 敵に襲われていることなどすっかり忘れて一人、腕組みして考え込んでいたら、


 ――ゴーンッ。


 と、金属が何かに激しくぶつかるような音が鳴った。


「あ?」


 なんだぁ? と思って顔を上げようとしたら、まったく動かなかった。なぜなら、顔面に盾が突き刺さっていたからだ。

 そう。文字通り、金属製の銀色盾に俺の頭がめり込むとかおかしな現象が起こっていたのである。


「ぎゃ~はっはっはっ。意味わかんねっ。まったく避けれもせず、一発でくたばりやがった! わろう!」


 盾をぶつけてきたカツがゲラゲラ笑っているが、こいつは気付いているのだろうか?

 俺がノーダメージで、即死などしていないということを。


 奴は俺を力一杯後方へと弾き飛ばそうと盾を押してきた。

 俺は仕方がないからそれに乗っかってやることにした。


 軽く宙へと飛ばされた俺は、後方宙返りして地面に着地する。

 数メートル先の茶髪は自身の視線を塞ぐようにしている、でかくて凹んだ盾を右へとずらし、歪みきった気色悪い笑顔を浮かべたまま俺を凝視した。


 視線が絡み合う。

 そして、奴は硬直した。

 ま、そりゃそうだわな。

 腕組みして突っ立っていた俺が平然としていたんだから。


「な……ば、ばかなっ。なんで死んでない!」

「なぜと言われてもな。なんか知らんが、蚊が止まったようにしか感じなかったぞ?」

「ふ、ふざけるな貴様っ」


 叫び様、奴は役に立たなくなったラウンドシールドを地面に捨てると、長剣を両手に構えて飛びかかってくる。


「これでも喰らいやがれっ――ウィングブレード!」


 叫んだ瞬間、袈裟切りに繰り出してきた奴の長剣から強烈な風圧が飛んできた。おそらく、ディメンジョンスラッシュと似たような攻撃なのだろう。しかし――


「効かんな? 団扇で煽られたような気分だぞ?」

「はぁ!? てめ、何言ってやが――」

「ランクAと聞いていたからどんなものかと思って期待していたんだが、こんなものか? 久しぶりにゲームがやれると思って楽しみにしていたんだがなぁ」


「おま……いったいなんなんだ!? ゲームだと!? てめぇ、何言ってやがる! つーか、お前本当にFランクかっ? 俺の攻撃受けて死なねぇとか、ありえねぇぞ!」

「だったら、そのあり得ないことでも起こっているんじゃないのか?」


 なんだろう。

 俺の顔見て、みるみる内に青ざめて行くカツ――上島勝夫うえしまかつおに、俺は急に興味がなくなった。


 この世界に転生してきて初めての対人戦だし、自分の能力も未だにちんぷんかんぷんだったから色々試そうかと思っていたのだが、もうこれ以上、こんな奴に付き合う気にもならなかった。


 前世ではさんざかボコってきてた奴が、今やその相手を見て顔面蒼白とか。

 本当ならここでニヤニヤするところなのだろうが、弱すぎて白けてしまった。


 腰の鞘からなんの変哲もないロングソードを抜き去り近寄って行く。


「お、おい! お前! 何する気だ!?」

「何……? 決まっているだろう? これは決闘だ。だったら、どちらかが倒れるまで、攻撃するだけだろう」

「う、うわ、よせっ、こっちくんなっ」


 じりじり後退る残念な男。こんな奴に虐められていたとか、ホント、自分で自分を殴り倒してやりたい。


「え~っと? 確かこうだったかな? 聖騎士の武器スキル――テンパレンス・エッジ!」


 俺は叫び様に十文字を描くように高速で剣を振り抜いたあとで、更にクロスさせた。

 瞬間、強烈な光が迸り、十文字とクロス字が混ざり合ったような斬撃が正面の茶髪野郎に炸裂し、そのまま奴を数十メートル先の壁へと叩き付けていた。


 轟音と共に発動した俺の一撃により、血飛沫上げてその場にくずおれる哀れな男。

 壁も一部が崩落し、会場すべてが静寂に包まれた。



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