第26話 コロシアム
――渋谷ダンジョン最下層『渋谷シティ』。
最下層にはなぜか最初からモンスターが一匹も湧いていなかったらしく、しかもなんかしらんが、下りてすぐのところから一面、巨大な円形ホールのようなフロアとなっていた。
このフロアの壁は何やらクリスタルのような摩訶不思議で純度の低い石によって作られており、そこを攻撃すると同等の威力の攻撃が跳ね返ってくるらしい。
だから、「素材になるんじゃね?」とか思って採取しようとした愚か者が、自身が繰り出したツルハシの攻撃によって命を失ったという話は冒険者の間では有名だった。
そういったフロア。
そこが第二十層だった。
そんな場所に、なぜか最初から街のようなものがあったという。
一見すると廃墟のようだが、東京に住んでいた者たちであればよく見知っている光景。
そう。
東京ドームのような巨大な物体がホール中央に築かれていたのである。
そして、その周辺には廃ビルが所狭しと乱立していた。
ゆえに、冒険者たちはかつての渋谷跡地となぞらせ、ここを渋谷シティと名付けたらしい。
「ちっ。本当に鬱陶しいな。なぜギャラリーが集まっている」
俺たちが今いる場所は、当然、東京ドームのような場所。そこがいわゆるコロシアムらしかった。
天井に当たるドーム部分は、ほとんどが瓦解して地上部分に散乱していたから厳密に言うと東京ドームとは似ても似つかなかったが、円形のコロシアムには三百六十度にわたって観客席が設けられていた。
そこに、暇を持て余した冒険者どもが大量に集まって、カメラ片手に賭博観戦していたのである。
「くそっ。てめぇら、俺を映すんじゃねぇ!」
許可もなしに勝手に実況配信し始める冒険者どもに向かって罵声を浴びせたが、それを聞いた奴らは全員ブーイング。
そして、冷やかしの歓声を上げるのみだった。
「ちっ」
俺は思いっきり舌打ちした。
そんな俺の十数メートル先には、対戦相手の茶髪野郎のカツがいた。
本来であれば、誓いのギアスとやらを結んだ金髪野郎のリュウと、ヤンデレ巨乳女のクリスティーナが対戦するはずだったのだが、どうも、この決闘には裏があるようだった。
このコロシアムの管理をしているギルド職員にあとで教えてもらったのだが、なんか知らんがあの誓いのギアスとかっていう魔道具。どうやら本当に制約が発動するらしく、もし誓いを破った場合、装着者の心臓目がけて電気が流れショック死するというとても危険な代物だった。
まぁ、ある意味呪いの腕輪みたいなものだな。
だからあのときの誓い、『勝敗の結果、すべてを受け入れる』という約束事を破った場合に、約束した人間が死んでしまうということだった。
当然のことながら、俺もクリスティーナもそんなことは知らんかったから金髪野郎に合わせて復唱したのだが、ここに落とし穴がある。
つまり、『勝敗の結果』としかしゃべっておらず、どんな汚い真似をしても構わないということだ。
だったら、多対多でも、多対一でも問題ないということだ。
だからこそ、なんか知らんが、決闘するとは一言も言っていない俺が出る羽目になってしまったのである。
しかも、あのとき、ギアスの発動は仮の状態だったらしく、決闘直前の最終確認時にあの金髪野郎、
「もう一度確認しておきたいんだが、いいか?」
「何かしら?」
「試合に誰が出るか最終確認しておきたい」
「あら? そのようなこと、決まっているではありませんか」
そう言ってクリスティーナは俺を見て、
「ご主人様ですわ」
「この兄ちゃんが出る、でいいんだな?」
「えぇ。それで結構ですわ」
「わかった。ならば、最後のギアスを結ぼう」
「いいでしょう」
「お前らはそっちの兄ちゃんだけが試合に出る。俺たちが勝ったらお前ら女三人は俺たちのもの。こっちが負けたら、まぁ、そんなことは万に一つもないが、なんでも一つだけ言うことを聞いてやろうじゃないか。それでいいな?」
「ええ」
「ならば、ここにギアスは結ばれた! 試合開始だ!」
「結びましたわ! いつでも来なさい!」
そうして、腕輪が光り輝き、仮で発動していた魔道具が実発動したのである。
嫌らしくニヤニヤ笑いを浮かべながら、金髪野郎はすぐにどこかへ行ってしまったが、そこへギルド職員がやって来て、ギアスにまつわる情報を今更ながらに教えてくれたというわけだ。
――つーか、おせぇよっ。
思わず突っ込みを入れそうになったが止めにした。今更何を言っても遅いからだ。
まぁ、とにかく、要は勝てばいいのである勝てば。
おそらく、奴らは誰がどれだけの人数出るかなど一言も言っていないから、三人全員ぶちのめす必要があるだろう。そうしなければ、永久に勝負が付かないからだ。
負けを認めさせなければ、ギアスの呪いは解けない。
対して、こちらは俺一人。
分が悪いと言えば悪いが、まぁ仕方がない。もはやどうにもならん。
「たくっ、本当に何も変わらんな、あのクズ野郎どもは」
俺は回想シーンから意識を現実へと戻し、大地が剥き出しの地面へ唾を吐いた。
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