第19話 考古学者と冒険者
「そういうあんたは誰だ?」
眼鏡をかけた中年親父と、その連れと思われる他のおっさん計四人パーティーを胡散臭く感じて、俺は目を細めて問いかけた。
「――いや、これは失礼した。私どもは主にこのダンジョンの調査をしているパーティーでして、私は元考古学者のソウイチロウと申します」
探検隊が被っているようなヘルメットを脱いで丁寧に頭を下げるソウイチロウと名乗ったおっさん。
他の三人もそれぞれ名乗りを上げる。
どうやらこの人たちは、世界が異世界化する前は東京の大学で考古学を教える教員をやっていたそうだ。
そのため、失業したあとはかつての知識を活かしてダンジョンがなぜ出現したのかとか、どういう仕組みになっているのかなどを研究しているようだった。
「なるほど。ということは冒険者登録はしているが、非戦闘員ということか」
「えぇ。一応、クラスはクラフト職の学者ということになっていますね。ですので、モンスターが出てこないと言われている階層の第二層までは自力で調査を推し進めることができるのですが、そこから先は他の冒険者を雇って深層へと下りて行くことになります」
「ほう。ならば、今日も冒険者を雇っているというわけか」
「えぇ。あちらに――」
そう言って指さした岩壁辺りには、五人組の冒険者がいた。彼らは多分、二十代ぐらいだと思われるが、全員が男で、手には剣や槍、杖などを携えていた。
「ふむ」
どうやらバランスの取れた組み合わせとなっているようだ。
ぱっと見、タンク、アタッカー、支援と役割分担ができる職業になっている。
まぁ、ステータスカード見たわけではないからなんとも言えないが。
そんな彼らが、俺たちの方へと近寄ってきた。
「それではソウイチロウさん、行きましょうか」
リーダー格らしき男が元考古学者のおっさんにそう声をかけた。
「ええ――それでは失礼しますね。お互い頑張りましょう」
おっさんは護衛の冒険者に返事をしたあとで、俺へとにっこり笑ってくれる。
こんな時代にも、こういった感じのいい、人のよさそうなおっさんが残ってるんだな。
そう、一人感心していたのだが、いきなりその俺の思いをすべて台無しにしてくれるような出来事が起こった。
「――おらっ! おっさん、そこどけやぁっ。クソ邪魔なんだよ!」
「ひゃはは! おい、リュウ、あんまいじんなや。おっさん、ちびっちまうぞ?」
「うはっ、だっせ! おい! じじぃ! てめぇみてぇなよわっちぃクラフト職がダンジョン内に入ってくんなや! 護衛つけなきゃ何もできねぇ雑魚のくせによっ」
俺たちから離れて下層へと下りて行こうとしていたソウイチロウが、チンピラのような連中に突き飛ばされていた。
金髪、茶髪、刈り上げといった髪型で、俺とそう年が変わらないような感じだった。
奴らは地面に唾を吐きながら、下へと下りて行く。
「おい、カツ! さっきのおっさんの顔、ちゃんとカメラに取ってあったんだろうな?」
「おうよっ。
姿を消した三人組の内、茶髪と刈り上げがゲラゲラ笑い合う声だけがその場に残った。
そんなクズ連中を見ていた周囲の冒険者から、舌打ちやら溜息やらが漏れ出ていた。
「まったく、相変わらずだな、あいつら」
俺たちのすぐ側にいた銀ピカ鎧を身につけた騎士風の女性がぼそっと呟いた。
俺は妙に気になって、その女性に声をかけてみた。
「失礼、そこの美しい人」
「――え? ……あの、美しいって、あたしのこと……?」
すぐ真正面に立つようにして、彼女を見つめる。
髪の色は青く、端整な顔立ちをしていた。
日本人のような容姿をしていないから、外国人だとか異世界人かとも思ったが、街で仕入れた情報によると、顕現位相の力の影響を受けて見た目が変化した者たちもいるようだ。
もしかしたら、そういうケースの女性かもしれない。
俺はニコッと微笑んだ。
「えぇ。あなたのことです。少しお聞きしたいことがありまして」
俺は歯が浮きそうなほどのキザな台詞を続けた。
が、その瞬間、俺の両サイドにいた赤髪と紫髪が脇腹やら尻やらを殴って来やがった。
幸い、今の俺は全身、黒のレザーメイルを着用していたからそれほど痛くはなかったが、どうも、鬱陶しくて叶わない。
「えっと……あたしでよければ……」
彼女はそんな俺たちに戸惑った様子でそう答える。
「実は先程の連中のことが気になってましてね。奴らが何者なのか、お聞かせ願いませんか?」
「あぁ、そのことね。いいわよ」
そう言って、彼女は彼らについての情報を教えてくれた。
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