第17話 そしてときは戻る




 長い回想シーンだったが、ともかくも、そんな感じで俺たちは渋谷ダンジョン近くの街ラーダで冒険者登録を済ませたのだ。

 そして、色々とゴタゴタに巻き込まれはしたが、必要な物資などを買い漁り、こうして、やっとの事でダンジョンデビューを果たしたというわけだ。


「ですが、ご主人様? そんななまくらで本当によろしいのですか?」


 ダンジョンに入るためのゲートでチェック待ちをしている冒険者たちの列に並んでいた俺たち。

 そんな俺の背後にいたクリスティーナがそう声をかけてくる。


 まぁ、このお姉さんが言いたいことはよくわかる。何しろ、ゲーム内でのラスボスが持っていた武器というのはこんな、なんの変哲もないロングソードではないからだ。


 確か事前情報で見たことがあったが、もっと金ぴかの剣だった気がする。しかも、そのくっそでかい光り輝く武器は、なんというか、手に握って使ってなかったんだよな。


 空中に浮遊してて、それがバンバン冒険者どもに飛んで行くとかっていう卑怯な技。しかも、それだけじゃなく、形態変化するとアホみたいな究極魔法まで使うらしいからな。


 残念ながら、武器も魔法も名前もよくわからんのだが、多分、クリスティーナはそのことを言ってるんだろう。

 だが、当然、そんなものを使うことなんかできない。

 いくら俺がラスボスとは言え、実際に扱えるかわからんし、ゲームのこと知ってる奴に見られた一巻のおしまいだからだ。


 だから、今はこの安っぽい武器でいい。


 ――それに、俺はなんかステータスオールFらしいしな。


 何かの間違いだとは思うのだが、正直、そうはっきりと言い切る自信もない。何しろ、俺は転生者だからな。


「では次!」


 そんな感じでぺっちゃくっていたら、ようやく俺たちの番が来た。

 そう思って、ゲートで番をしていたギルド職員の前に姿を現したのだが、なぜか変な顔をされた。


「い、いやぁ。ごきげんよう」

「は?」


 身の丈より長い槍を持っていた完全武装のおっさんは愛想笑いを浮かべて、どうぞどうぞと、ろくすっぽ俺たちのことをチェックもせずに、ゲート内へと通そうとする。まるで厄介払いでもするかのように。


 ――なんだぁ?


 そう言えば、周りにいる冒険者どもの様子もなんかおかしかった。

 遠巻きだが、じろじろと俺たちを見てはひそひそ話をしている。


「もしかして、あのフィガロって奴の配信映像でも見てたんじゃないのっ?」


 アマリアが不機嫌そうに周囲へ睨みを利かせた。


「そういうことか」


 合点がいき、溜息を吐く。

 冒険者登録が終わったあと、ギルドからはなんかタブレット端末のような魔道具を手渡されたのだが、どうやらそのタブレット端末で最近流行のダンジョン配信映像が見られるようなのだ。

 本来の使い方はもちろん違うけどな。


 本当は冒険の心得とか、世界地図とか、現在までに調査が完了しているダンジョン内のマップやトラップ情報、危険情報、マップ内での現在位置とか、あとはステータスカードより詳しいステータス情報とか、そういったものが確認できる便利アイテムらしいのだ。


 そこへ、つい最近、なんか知らんがギルドが運営している映像配信サイトを閲覧したり、端末とカメラを魔法で接続してサーバーへ映像をリアルタイムで送ったりできる機能が追加されたのだそうだ。


 まったく、本当に余計なことをしてくれる。

 おかげで俺たちがギルドで起こした騒動が、リアルタイムで全冒険者どもに知れ渡ってしまったかもしれないではないか。


「ちっ。行くぞ、お前ら」


 ラスボスらしく威厳たっぷりに厳命する俺。


「何よ、偉そうに! だ、だけどまぁ? どうしてもって言うなら、ついて行ってあげなくもないんだけど?」

「うっふふ。どうせならエスコートして欲しいものだわぁ」

「どこへなりともお供しますわ。たとえ地獄であろうともお墓の中であろうとも」


 赤、紫、水色の順番で本当にしょうもないことばかり言い始める。

 特に水色!

 ていうか、クリスティーナ!

 なんだよ、お墓って!

 心中でもしようってことか!?


 俺は背筋が薄ら寒くなって、一人早歩きでドカドカ歩き始めた。

 向かうはダンジョン。

 人生初のダンジョン攻略へ。

 ゲートを潜った先に展開されていた十メートル四方の草原の先に、巨大な岩山が待ち構えていた。そこに、岩山同様、ぽっかりと口を開けた深淵の闇が顔を覗かせていた。



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