第11話 タワー
転移した先はなんかよくわからなかったが、空の上だった。
――は?
「わ、すごっ」
「いい眺めねぇ~。こういうのを絶景かな、絶景かな♪ ていうのかしら?」
「二人とも、あまりはしゃぎすぎないようにお願いしますよ?」
貧乳ツンデレ幼女の赤髪アマリア。
エロ巨乳女の紫巻き髪のユメル。
ヤンデレ水色髪のクリスティーナの順番で脳天気なことを言い始めた。
俺は顔をしかめながら、改めて周囲を見渡した。
床を除いてはすべて空。三百六十度見渡す限りの澄み切った青空。
上を見上げても空。
時々吹く強風に身体を持って行かれそうになったが、踏ん張って耐えた。
そういったロケーションだった。
「これは、もしかしなくても、やはり塔か何かの最上層ってことなのか?」
「そのようですね。天空城の転移門と同じような魔方陣が床に描かれていますし、もしかしたら、城とこの塔が繋がっていたのかもしれませんね」
「なるほど。つまり、ここはロスト・アイランドにあるアグリエスタワーということか」
『ロストアグリエス』の世界には三つの巨大な大陸が存在する。
ワールドマップを上から見た状態で、北東に一つ。北西に一つ。南に一つ。
そんな感じの配置になっている。
そして、それぞれの大陸を複数の国家で構成された一つの連合国が支配し、その三つの大陸の中央に、いわゆる中立地帯となっている失われた王国という島国があるらしいのだ。
俺はオープンβをプレイしていなかったから詳しいことはわかっていないが、そこに天空世界に繋がっているかもしれないアグリエスタワーと呼ばれる塔があるらしい。
その情報からするに、おそらく、俺が支配しているラスボスの城、浮遊大陸アグリエスへはこの塔から行くということなのだろう。
オープンβではどこかのダンジョンにある古の飛行艇の部品とかっていうのを集めて飛行艇を建造し、それを用いてラスボスの城へと行く手筈になっていたはずだが……。
「ふむ。正式サービスではその辺が変更になっているということか?」
それとも、現実世界へと召喚された影響で色んなものが変化しているということか?
転移門でここへと下りてくる前に、実況配信システムとやらで、世界中の映像を改めて監視して情報収集しておいたが、やはり、わからないことは多いということだろう。
それに、配信者どもの攻略情報とかっていうのもあるらしいからな。
この世界がこんな状態になってから既に五年が経過している。
その間に、世界中のダンジョンに挑んでは攻略方法を研究し、その攻略映像を世界に配信してきた連中がいるらしい。
そういった奴らの配信映像も一度見ておいた方がいいのかもしれないな。
事前に手に入れた情報が事実であれば、おそらく、下界の街まで行けば見られるはずだ。
冒険者ギルドとかに映像モニターが設置されていて、そこで見られるらしいから。
「ならば急ぐか――おい、お前ら、下へ下りるぞ」
物珍しそうに塔の淵まで歩いて下をキョロキョロ覗き見ていたアマリアとユメル。
「えっ。もう行くの?」
不服そうに頬を膨らませる幼女。
「あらら~? 下ってことは、もしかして、人間たちを八つ裂きしに行くのですか?」
とんでもなく恐ろしいことをあっけらかんとした口調で言う紫髪。
俺は頭が痛くなって額を抑えたあと、しばらくしてから階下へと続いているであろう隅っこにあった階段へと歩いて行ったのだが――
「あ、ご主人様。こちらにもう一つ転移門がありますよ?」
「あ?」
クリスティーナが指さす場所には確かにもう一つ、小さな魔方陣が描かれていた。
俺たちが最初に立っていた場所が赤色なのに対して、そちらは青だった。
「そうか。ひょっとしたら、一階へと繋がっているのかもしれないな」
このアグリエスタワーが何層なのかはわからない。
青い魔方陣へと移動するために、それが描かれていた塔の縁から眼下を一瞥したが、あいにく、雲海のような状態になっていてどれほどの高さか確認できなかった。
――まぁいい。とにかく、下界とやらに行ってこの世界がどんな世界になっているのか調べるだけだ。
俺たちは頷き合ってから、青い転移門の上に乗った。そして――
次の瞬間、無重力感を味わって全身がふわっとして、どこかへと飛ばされた。
気が付いたとき、俺たちは青く光り輝く場所にいた。
巨大な円形フロアの中央から奥へと向かって大階段が伸びていて、そこから左右へと上階に続く階段が伸びている、そんな場所だった。
俺たちが立っているのはそのフロアの入口と思われる巨大な扉のすぐ側。
「なるほど。本当に階下に飛ばされたみたいだな」
「そうですね。周辺にはモンスターらしき気配もありませんし、人間もどうやらいないようです」
クリスティーナが言うように、目の届く範囲には確かに誰もいなかった。
壁には窓が付いており、そこから見る外の景色からは樹木の葉っぱと思われるものが垣間見える。
「やはり、ここは一階のようだな」
俺は呟き、スタスタと出口へと向かう。
アマリアやクリスティーナ、ユメルもすぐさま追いかけてくる。
俺の背丈の三倍はありそうなほどの巨大で重そうな扉には、丁度目の前にスイッチのような円形の突起物があり、謎の文様が描かれていた。
そこに手をあてがうと、俺の魔力――神である以上、おそらく魔力だと思われるが、それに反応してガガガと、扉が左右へスライドして行った。
どうやら魔法で勝手に開閉する仕組みになっていたらしい。
便利な世の中になったものだ。
「ふむ……」
俺は開け放たれた外の風景を見て、一人、感慨深い思いに駆られた。
見渡す限りの森。そこに、背丈の低い草の生えた、道のようなものが左右へとうねりながらどこまでも続いていた。
塔の中と同じように人の気配はない。
おそらく、五年経った今でも、ここへ辿り着くことができていないのだろう。
俺は背後に控える女たちに目配せし、外へと一歩を踏み出した。
――こうして俺は、死に戻ってから初めて、かつて地球と呼ばれていた大地へと降り立つのだった。
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