第2節 地上(渋谷ダンジョン)編

第12話 渋谷ダンジョン




 ――某時刻。


 ロストアイランドより北西にある大陸であり、かつて日本と呼ばれていた島国が所属する聖王国連合エウレリア。

 その大陸の東端に位置する中立地域に、渋谷ダンジョンと呼ばれる大穴が存在していた。


 そこにはかつて、渋谷と呼ばれる街があったが、今は跡形もなく消え去っている。

 その代わりに存在するのが大草原であり、かつての文明の廃墟であり、そして、ダンジョンだった。


 凶悪なモンスターが徘徊する世界有数の洞窟型ダンジョン。

 この地域にはもう一つ、京都ダンジョンと呼ばれるタワー型のダンジョンも存在するが、どちらかといえば、そちらの方が難易度が低いと言われている。


 理由は諸説あるが、渋谷ダンジョンの方がロストアイランドに近いからと言うのが一番の有力説だった。


 そんな場所を、俺たちは早速訪れていたのだ。


 周辺にはでかい岩がゴロゴロしていたり、背の高い草が生えていたり、あるいは、瓦礫の山があった。


 おそらく、前世の俺が生きていた頃に建っていたであろう商業ビルなどが崩壊したものなのだろう。

 瓦礫は既に苔や草が生えていて、完全に風景の一部として溶け込んでいた。


「諸行無常の響きあり、って奴だな」


 一人ぼそっと呟くと、耳聡くアマリアが反応する。


「ん? なんか言った? ていうか、もしあれなら、その、あたしのことをおんぶさせてあげてもいいんだけどっ?」

「は?」


 なんだか、頬を赤く染めた赤髪ちびっ子が、腕組んでチラチラと俺の方を見てくるのだが?


「あら? それはいい案ね♪ だったら私は、お姫様抱っこでもしてもらおうかしら?」


 アマリアがおかしなことを言ったものだから、ユメルまで変なことを言い出した。それだけではなく、身体をぴったりとくっつけてきて、しきりにでかくて柔らかい肉の塊を押しつけてくる。


「……じ~」


 右にツンデレ幼女、左にエロ女という形で挟まれていた俺の背後から、とてつもなく強烈な殺気が飛んできた。

 言わずもがなクリスティーナだ。


 あいつがどんな顔をしているかなど想像したくもない。

 俺は思い切り溜息を吐いたあとで、べったり張り付いている左右のうるさい女たちを振り解いた。


「お前らいい加減にしろ」


 ドスの利いた声で宣言してやると、三人はさも残念そうに、しかし、甘ったるい吐息を吐き出して、普通の冒険者然となる。


 ――そう。

 俺たちは今、冒険者なのだ。

 周囲には俺たち以外にも大勢の人間や獣人どもがうろちょろしていた。


 ここは渋谷ダンジョン近くの、いわば冒険者待機場所のような場所だった。

 ダンジョンには勝手に入れないようにゲートが設けられており、現在このダンジョンの支配権を確立している聖王国の冒険者ギルドによって管理されていたのだ。


 そのため、入るためには冒険者証と入場料を入口で提示しなければならない。

 そのために行列ができていたのである。


 俺たちがいる場所はそういう場所だった。

 そして当然、俺たちも既に冒険者登録は済ませてあった。


 俺は改めて自分の両脇と背後を固める配下の女たちを見渡した。

 彼女たちには一応、身バレしないようにと相応の変装をさせていた。


 三人とも近接戦闘も魔法も得意らしかったが、とりあえず、魔術師のようなローブ姿をさせていた。


 赤ローブのアマリア。

 水色ローブのクリスティーナ。

 紫ローブのユメル。


 といったところだ。

 そして、その顔には半分だけ顔の隠れる魔道具の一種、ビシュアの仮面を装着し、いわゆるつば広のとんがり帽子も被っている。


 ここまでやれば、ぱっと見、こいつらがラスボスの仲間だとは気付かないはずだ。


 そして、一番の問題は俺だったが――


 特に変装らしきものは何もしていない。なぜなら、見た目がラスボスではなく、ただの黒髪イケメン聖騎士テンプルナイトだったからだ。



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