第10話 転移門
――宮殿の最下層にある一室。
俺は今そこにいた。
つい先刻終わったばかりの大改造によって生まれ変わった浮遊大陸アグリエスの全容を、魔導通信の実況映像で再確認していた。
自分の仕事の上出来ぶりに満足して頷く。
宣言通り、俺は顕現位相を連発して浮遊大陸すべてをダンジョン化してやった。
要所要所に考え得る限りの罠も仕掛けてやった。
サービスとばかりに宝箱も設置してやった。
当然、ラスボスクラスの中ボスなんかも大量に配置してやった。
これで下界の冒険者どもが俺の城に殴り込んできたとしても、早々、最深部にいる俺のところまで辿り着くことなんかできないだろう。
たとえそれが、不死者の女王アリアンロッドであろうともな。
「まぁ、彼女に関しては情報がまったくないから、どれだけやばいのかわからんけど」
「そうですね。私も存在を知っているだけですので。本当にお役に立てず申し訳ありません」
そう言って、律儀に俺の目の前で頭を垂れる美人で色っぽい巨乳お姉さん。
面積の少ないビキニみたいなの着ているものだから、もろに胸の谷間が俺の視界に飛び込んでくる。
思わず見入ってしまいそうになったが、慌てて視線を逸らした。
前世では色々あったけど、一応俺、純粋な男の子だし。
「まぁいい。絶対支配の神錫さえ使わなければ、そいつは襲ってこないんだろうしな」
「そうですね。多用すると襲撃してくると聞いていますから」
「だったら、当分は安心だな」
そうメルリルに告げ、俺はこの部屋に作られていた転移門へと近寄った。
このゲートは地上世界へと繋がっている唯一の出入口らしい。
神であり魔王でもあるグウァイデンバルトはここから度々地上へと出向いては、世界を影から操る黒衣の魔道士としてそこら中で暗躍していたそうだ。
「では行ってくる。留守を頼んだ」
「はい、行ってらっしゃいませ」
俺は別にゲーム通りに魔王プレイをしようなどとは思っていない。魔王として世界中で暗躍しに行くために、地上に下りるわけではないからだ。
単純に、今から冒険者となってゲーム世界を楽しみたいだけだ。
「ねぇ、まだなの?」
赤毛の幼女アマリアがぶそ~っとする。
「ダメですよ? リア。ご主人様を困らせては。もしそんなことしたら……わかっていますよね?」
そう彼女に言う水色髪のクリスティーナの目が笑っていなかった。
「わ、わかってるわよっ。だから、そんな顔しないでよっ――もう、クリスって、ホント怖い!」
「うっふふ。二人とも、喧嘩をしてはダメよぉ? もし私の前でそんなことしたら、うふふ。今すぐマスターとイチャイチャしちゃうから❤」
終始妖しげな笑いを浮かべるユメルに他の二人が苛立ったように頬をピクッとさせた。
なんだかよくわからないが、ゲームでの設定なのか、それとも俺が呼び出したことによって弊害でも起こったのか。
どうやら、この三人は俺を取り合うという立ち位置にいるらしい。そして同時に、休戦協定も結んでいるようだ。
「はぁ」
溜息しか出なかった。
本当は俺、一人で遊びに行きたかったのにな。それなのにそのことを話したら、こいつら一緒に行くって、それしか言わなくなった。
『お前たちはこの城の守りを固めろ』
と命じたにもかかわらず、俺の身辺警護をすると聞かず。
まぁ、俺自身、おかしな能力を手にはしたが、どのくらいの強さなのかわからないからな。
見た目に関しては鏡で確認したからわかっているけど。
なんだか、前世の俺とはまったくの別人――ていうか人族黒髪イケメンだったし。
ゲーム内の神様とも似ても似つかない容姿だったから、地上の連中に見つかっても身バレすることはないだろうけど、この女ども三人は大丈夫か?
何しろ、βテスターどもに外見見られてるからな。
「はぁ……」
バレたときのことを考えて、非常に憂鬱になる俺だった。
「まぁいい。とにかく行くぞ、お前ら」
第二の人生。その先にはいったい何が待ち受けているのか。
ラスボスとしての破滅エンドか?
それとも、自由気ままな神様プレイを満喫して、人生を謳歌できるのか?
俺は期待と不安を胸に抱きつつ、従者の女たちを連れて転移門――部屋中央の床に描かれた魔方陣の上に乗った。
「お気をつけて」
「あぁ」
斜め四十五度に腰を曲げてお辞儀して見送ってくれるメルリルの美しい赤毛と胸の谷間を眺めながら、俺たちはそこから空間転移して行った。
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