第8話 霊獣の女たち




 本来、崇拝の対象であり、畏敬の対象でもある神グウァイデンバルト。

 しかし、その正体は魔王である。


 神と称して世界を天秤にかけ、自分の娯楽のために下界の人間たちを戦わせて楽しむ。

 ラスボスらしく、凶悪な力を持っていたようで、オープンβテストでそこまで辿り着いたものは何人もいたらしいが、誰一人倒せなかったという。


 今の俺は、そんな存在になっていたのだ。


 俺は全身から冷や汗が出て来た。

 世界改変が起こってから五年も経っているんだ。さすがに気付く奴もいるだろう。


 この世界があの『ロストアグリエス』にそっくりになっていると。

 完全一致になっているわけではないだろうから、部分部分で色々ゲームとは違うとは思うのだが、正直――


 ――マジ、やばくね?


 早急になんとかして手を打たないと、勇者というか冒険者どもが俺を倒そうと、飛行艇を開発してこの浮遊大陸へ乗り込んでくるだろう。

 何しろ、オープンβではそうやって実際、ボスバトルへと移行したらしいからな。


 一応『絶対支配の神錫』の力があるから、俺を倒すことなどできはしないが、万が一ということもある。それに、この力を使いすぎると現れるらしいからな。

 神の永遠の天敵である『不死者の女王』アリアンロッドの率いる軍勢が。


 俺は脳裏にその光景を思い浮かべ、だらだらと冷や汗を流すのだった。

 



 ――翌日早朝。


 こうしてはいられないと思い、さくっと朝食を済ませた俺はすぐに謁見の間にメルリルを呼び寄せた。


「お呼びでしょうか、グウァイデンバルト様」

「あぁ――て、名前長いから、バルトでいい」

「はい、バルト様」


 いつも美しくて礼儀正しい赤毛の巨乳美女。多分、この人も俺がその気になれば喜んでその身を差し出すことだろう。だけど、もちろんそんなことはしない。不死者の女王のこともあったが、それ以前に、童貞の俺には荷が重すぎるからだ。


 俺は床に片膝突く彼女が無意識に見せてくる胸の谷間が視界に入らないようにすると、玉座のある謁見の間中央辺りで軽く咳払いした。


 今現在の俺は、神であり魔王でありラスボスでもある。だからこそ、今後はそのキャラクタイメージに合った威厳に満ちた言動――神プレイをすることにした。


 でなければ、俺を頂として崇める彼女――この宮殿の管理者であり、女帝でもあるらしいメルリルに足下を見られかねない。

 だから俺はそういうキャラを演じることにした。まぁ、元々そういうキャラだったとも言うがな。


「メルリルよ、今から霊獣召喚を行おうと思う」

「霊獣召喚、ですか?」

「そうだ。アリアンロッドや下界の人間たちへの対抗策としてな」


 事前情報によれば、『ロストアグリエス』には神に仕える三人の人型霊獣が存在したそうだ。


『炎のアマリア』

『水のクリスティーナ』

『雷のユメル』


 いずれもそれぞれが司る属性に応じたオーラをまとっている美姫だ。

 普段は人の姿をしているが、真の力を発揮するとき、本来の姿になると言われている。それがどんな姿なのかは誰にもわかっていない。何しろ、βテストでは実装されていなかったらしいからな。


 まぁ、単純にそういう噂がまことしやかに囁かれていただけなのかもしれないが。

 とにかく、そういった存在が霊獣だった。


 そして、そんな彼女たちだからこそ、もし俺の異能力『顕現位相』があのゲーム世界に作用するのであれば、きっと呼び出せるはずだ。何しろ、俺の手下なのだから。


「わかりました。ご随意に」

「もしかしたら失敗する可能性もある。そのときには頼むぞ」


 この宮殿に住んでいる宮女たちは一人一人がかなり高レベルの難敵だったと言われている。当然、それを束ねる立場のメルリルは最強格だろう。


 ひょっとしたら俺よりも強いかもしれないな。

 何しろ、俺は自分が神として君臨したと言われているだけで、自分の力がどれほどのものなのか、まったくわかってないからな。


 ゲームみたいにステータスが見れるわけでもないようだし、現時点では確認のしようもない。

 だから、防衛体制を整えたら、一度人間界に下りてダンジョン攻略でもしてみようかと思っている。


 せっかくゲームみたいな世界になったのだ。俺だって楽しみたい。

 密かにわくわくしながらも、俺は異能力発動の準備に取りかかった。


 やり方はなんとなくわかっている。

 理屈とかそんなことはどうでもいい。ただ、感覚だけで召喚すればいいだけだ。


「アマリア、クリスティーナ、ユメル! 我が命に応じ、今、この場に顕現せよ!」


 叫んだ瞬間、辺り一面が眩く光った。



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