第5話 復讐の女神




 俺の目の前に立っていた女性。

 それはあの、電気屋で強盗に襲われそうになっていた女性だった。


 そう。

 つまりは俺が自己犠牲の末に格好よく助けたはずのあの美人さんだった。


 それが目の前にいた。

 しかも、白いレース地の豪華なドレスを着て。

 頭には金のティアラまでつけて。

 その出で立ちは、まるでどこかの姫や女神のようだった。


「どうも、お久しぶりです」


 彼女はニコッと笑いながら、俺へと近寄って来て、すぐ目の前で立ち止まった。


「あ? あぁ」


 俺はなんて答えていいかわからず、生返事を返すだけだった。それをどう解釈したのか知らないが、彼女は口元に手を当てクスッと笑う。


「その節は大変お世話になりました。あなたのお陰で、あのときは命拾いをしました」


 目の前の女性はそう言って、軽くお辞儀をした。


「え……っと。命拾いってことは、助かった……のか?」

「はい。あのとき……その、あなたが刺されたあとで、すぐに警察が来ましたので彼らは現行犯で逮捕されたんです」


「そ、そっか。それはよかった。だけど、じゃぁ、なんでここに? メルリルが言うには、あなたも俺と一緒で死後の世界に飛ばされたって聞いたけど」


「そうですね。あのあと、あなたが亡くなられたと知って、あまりのショックに気が動転してしまって。気が付いたら車道に飛び出していたんです」


 そう淡々と語る彼女。


「ちょっと待って。それじゃまさか……」

「はい。せっかく助けていただいた命でしたが、本当に申し訳ありません」


 ほとんど心中みたいなものだった。ていうか、それじゃ、俺ってやっぱりアホなんじゃ?

 我が身を挺してせっかく助けてあげたっていうのに、そのあとすぐに死んじゃうとか。

 これじゃ、ただの犬死にだよ。


 ――ホント、アホすぎる……だけどまぁ……。


 今更そんなことを言っても始まらない。

 文句言ったって生き返るわけじゃないからな。

 なので、それはこの際どうでもいい。

 それより問題なのは、なぜ彼女がここにいるかだ。


「とりあえず、事情はなんとなくわかったけど、それとこれとどう関係してるんだ? 今回のこの地球の異世界化の原因がすべて俺にあるわけではないとかメルリルが言ってたけど」


「そうですね。えぇ、そうです。私にすべて原因があります」

「どういうこと?」

「私もあなたと同じで異能力を手に入れたんです。異能力『ジャッジメント・オブ・ワールド』――つまり、世界が背負った業を世界に対して払わせる力」


 要するに、全人類が背負っていた業すべてを力に変え、世界中の人間どもにつけを払わせるってことか。


「ていうことはもしかして……」

「はい。ご想像通りです」


 そう前置きすると、彼女は複雑な顔色を浮かべた。


「私は死んであの場所に飛ばされた。あなたとは違う場所だったみたいだけれど、時間軸も違っていたみたいで。でも、それがよかったんでしょうね。私はあなたや自分がこんな目に遭ってしまったことが納得できなかった。私たちを死に追いやったあの犯人が許せなかった。そんなところに来て、あんなおかしな力を手に入れてしまったのです」


「――だから死に戻ったあとで、あの犯人もろとも世界に対して復讐するために力を使ったってことか」


「えぇ。そうですね。でも、使ってから後悔した。だって、せっかく別の人間として生き返ったというのに、自分が使った能力でまた死んでしまったのだから。何しろ、天変地異が起こって世界が滅茶苦茶になってしまいましたから」


 彼女がそこまで言ったときだった。急に、彼女の身体が透け始めた。



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