第4話 ロストアグリエス・オンライン



 ――かれこれもう、五年ほども経つらしい。俺が死んでから。

 つまり、別人となって生まれ変わってくるまでに五年のタイムラグがあったということだ。


 その間、実に様々なことがあったそうだ。


 俺が死んで異能力を手に入れた直後、自動発動されたその能力によってすぐさま、世界に異変が起こった。


 そこら中で大地震が起こり、大地が割れ、忽然こつぜんと何もない空に沢山の浮遊大陸が出現した。

 地割れからはモンスターが現れ、世界を蹂躙して行った。

 地震の影響で大地も隆起したり、海の底へと沈んだりして、元の世界とはかけ離れた地形となってしまった。


 更には、どこから現れたのか。

 瞬きもしない内にいきなり、世界中にダンジョンが出現した。

 見たこともない街や獣人まで世界に溢れかえって行った。


 そうしてできあがったのが、今現在の地球――VR-MMORPG『ロストアグリエス・オンライン』の世界と地球とが融合した姿だった。


「――なるほど。しかし、本当にそんなことがあり得るのか? 一夜にして、異世界みたいになってしまうとか。しかも、そんな世界になったすべての原因が、俺が手に入れた顕現位相のせいだとか。いまいち信じられないんだがな。これじゃまるで、俺が世界を破壊したみたいじゃないか」


 ほとんど破壊神とか破壊者のそれだった。

 これが事実であれば、俺はとんでもなく、罪深い人間になってしまう。

 妙に心がざわついた。


「マスターがお疑いになるのも無理はありません。ですが、現実がすべてを物語っています」


 彼女はそう前置きし、コンソールパネルをいじると、実況配信映像を次から次へと切り替えて行った。


 そこには、猫耳を生やした戦士みたいな人間や、日本人みたいな見た目の男が長剣片手に何やら談笑している姿が映っていた。

 俺の隣にいる赤毛の美女――メルリルと名乗った彼女が補足説明してくれる。


 この五年の間に人々の生活は百八十度、変化したそうだ。

 元々あった文明が破壊されてしまったせいで、会社勤めをしていた人間たちは職を失い、仕方なく生活の糧を得るために皆、冒険者となった。


 彼らは街の外に現れるモンスターを狩ったり、ダンジョン攻略などしたりして生計を立てるようになった。


 いわゆる、魔石みたいなものや素材アイテムをモンスターが持っているらしく、そこら中に出現した異世界の街で、そういったドロップアイテムを金に換えられるそうだ。


 しかも、それ以外にもダンジョンには宝箱があるらしく、それを見つけて売ることでも金を手に入れられるそうだ。


「じゃぁ、皆そうやって、日々の糧を得ているわけか」

「えぇ。それに、人間というのは環境適応能力も高いものですから、今の暮らしには比較的すぐに慣れてしまったようですよ。何しろ、魔法やスキルなどを使えるようになった人間もいるぐらいですから」


「マジで?」

「はい」


 彼女が言うには、『ロストアグリエス』で使われていた魔法やアクティブスキル、パッシブスキルがゲーム内から現れた人間たちだけでなく、地球に住んでいた人間たちにも顕現したらしい。

 まさしく、VRがリアルになったような感じだった。


 しかも、奴らの逞しさはそれだけではなく、どうやら、今の状況を楽しんでいる連中もいるようだった。


 なんでも、壊れてしまったネット通信網の代わりに発達した魔導通信を使って、ダンジョン実況配信などして「ひゃっは~!」しているそうだ。

 今見ている実況映像も魔導通信の一種らしい。


「マジか……」

「はい。ですが、マイマスター。一つだけ、勘違いなされませぬように」

「うん?」

「このような世界になった要因のほとんどは、当然、マスターが手に入れた異能力のお力によるものですが、それだけがすべてではないということです」


「――は? どういうことだ? 意味がわからんぞ? 俺が異能力を手に入れたから、世界が異世界化したんじゃないのか?」


 顔をしかめる俺に、メルリルは妖しげに微笑んだ。


「――あなた様が神の世界へと誘われたとき、実はもう一人、同じようにあの世界へと旅立たれた方がいらしたのです。それが、彼女です」


 そう言って、赤毛美女が後ろを振り返った。


「うん?」


 俺は促されるままに振り返って――そして、愕然とした。

 玉座のすぐ側に、見覚えのある女性が立っていたからだ。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る