第60話帝国と皇帝23

  そして共和国に帰る日となる。

 帝都の玉座の間にレンとティアは最後の挨拶をするためその場にいた。

「見慣れない人もいますね」

「そうだな。あれは隠居した前皇帝とその妃だな」

 今まで城で生活をしていたがあまり関わってこなかった人もレンたちの別れの会に来ている。

(てっきり親しい者だけ集めると思ったが)

 前皇帝夫婦だけでなく、どこかの貴族のような者も並んでいる。

 まるで何かの儀式をするようだった。

 そんなことを考えていると二人の前にシャルロットがやってくる。

 侍女姿ではなく礼服を着て髪を後ろで纏めていた。

「皇帝陛下御入場」

 ドアが開き、頭の上に王冠を被り、裾が長い真っ赤なドレスを着て、後ろに何人か裾を持たせたイングリットが入ってくる。

 驚いて声を出しそうになるのを手で押さえるティア。

(わかる。こんなしっかりした格好で来るなんて聞いていなかった)

 レンだって驚きを顔に出したかったが我慢して真っ直ぐイングリットを見る。

「楽にしてもらって構わないわ」

 そう言われても周囲にいる貴族たちは楽にせず神妙な空気を出している。

「普通に話してもいいわよ。そんな物凄く言いたいことがある顔されたら笑っちゃうから」

「わかりました。グリットちゃん」

「それで、俺たちは見送りの代わりに何かするとしか聞いていないんだが。なんでこんな厳格な感じになっているんだ?」

 レンが直接聞くとイングリットは目線を外す。

「おい。目を逸らすな」

「こほん。レン、それにティア。二人には今回のことを称えて竜騎士の勲章を贈るわ。この称号は功労者に送る名誉のような勲章なのよ。だから別に制約もないから安心して」

「そうなのですか。やりましたね」

「そうだな」

 騎士にするのを諦めていなかったのかとも思ったのだが、今回の依頼の帝国側からの礼なのかと考える。

「ティア、それの副賞だけどこの間言っていた物でいい?」

「はい」

「持ってきて」

 シャルロッテに声をかけてティアに渡す物を持ってこさせる。

「じゃあ、ティアにはレンと同じタイプの拳銃を」

 レンの買った新しい拳銃と色違いの緑かかった銀色の拳銃を受け取る。

「ありがとうございます」

「いいのよ」

 次はレンというようにイングリットは視線を向ける。

 スッと身体を傾けレンに向けて飛ぶように近寄る。

 柔らかな感触がレンの唇に触れる。

 驚くレンにイングリットは目を閉じたまま首に腕を回す。

 長いまつ毛に綺麗な白い肌が見え、ふんわりと甘い香りが香る。

 イングリットとの初めてのキス。

 離れるとイングリットは何かに気がついたように頷く。

「わかったわ」

 瞳が黄昏色に変わるともう一度キスをしてくる。

 離れると一度ウィンクしてイングリットからディアナが抜ける。

「大好きよ。ダーリン」

「そういうことよ。レン。わたくしたちはレンに惚れたわ」

 二人にそう言われるがレンは頭が痛いというように頭を抱える。

「だから。俺はティアが」

「ティアにはちゃんと許可取ってあるわ」

 イングリットの言葉にレンはどういうことなんだと隣にいるティアを見る。

「その。数日前にですが女の子だけでお茶会をしまして。その時にこれからもレンくんを好きになる子は沢山出てくるからちゃんとハーレムを作って管理した方がいいって説明を受けまして」

 ティアがイングリットから色々説明を受けて口車に乗せられ納得してしまうのが思い浮かぶ。

 ティアは頭がいいだろうが皇帝をしているイングリットには口で勝てるはずもない。

 頭を抱えたくなるレンだったがイングリットは勝ち誇ったように宣言する。

「帝国にはこんな言葉があるわ。門を開けるよりも外堀を埋めて壁を攻めろって。わたくし、ヴァイスハイト皇帝であるイングリット・ヴァイスハイトはレンに婚約を申し込むわ」

「……」

「レン。わたくしは言ったわね。好きにできるから皇帝になったって。わたくしは帝国の全てを使ってあなたを夫にするわ」

 帝国を離れる直前にとんだ問題を残してくれたなと思うレンだった。

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