第54話 帝国と皇帝17
天幕の儀当日。
レンとティアは<バベル>の制服の完全防備をしており、ティアは追加で多少の戦闘ができるような装備を持っていた。
「ティア。大丈夫か?」
「あはは。あまり大丈夫じゃないです。もしかしたら殺し合いになるかもしれないんですよね」
「もしかしたらじゃなく確実に殺し合いになる」
レンがはっきり言うとティアは俯く。
「だけど、俺は誰も殺させない。今回のことで誰かが死んだら意味がない。全員で天幕の儀を超える」
「そうですね!! 私も頑張ります!!」
「ああ。頼りにしている」
二人が準備し終えたところでノックをしてシャルロッテが入ってくる。
シャルロッテもどこかで戦闘するようでいつものエプロンドレス姿ではなく出会った時と同じスーツ姿だった。
「シャルロッテもどこかで戦うのか?」
「はい。南部方面の警備に向かいます」
「そうか。気をつけて」
「シャルロッテさん。終わったらみんなでお祭りを見に行きましょう!!」
「はい。かしこまりました」
シャルロッテは二人に優しげな笑顔を見せると本題に入る。
「イングリット様がエレベーター前に来るようにと仰っていました」
「わかった。伝えてきてくれてありがとう。ティア、行こう」
レンはティアを連れて廊下を歩きエレベーター前に辿り着く。
「来たわね。レン、ティア」
「ああ。そっちはクラウスがいるんだな」
「エレベーター前を守る奴がいるって聞かないから」
もう面倒ごとを増やさないでほしいとイングリットは言う。それに対して隣にいるクラウスは軽い様子で笑っていた。
「まあ、先生がいればいいだろうけど、大船に乗った気持ちで頼ってくれ」
「いるだろうと思ったから別に俺たちは構わない」
「グリットちゃん。今日は任せてください」
「わかったわ。頼むわね。二人とも」
四人はエレベーターに乗り地下に向かった。
無駄話のない時間が続き、重い空気の中で地下に辿り着く。
「ふむ。時間通りか」
カイもすでに地下におり前回会った時と違って力が身体に集まっていた。
「ええ。じゃあ、三人で中心の水晶まで行くわ」
「了解した」
クラウスとカイをエレベーター前に待機させ三人は地下空洞の中心に向かう。
あと十メートルというところでイングリットは立ち止まる。
「ここでいいわ。後はわたくしだけで行くわ」
「そうか」
「じゃあ、セイブザクインを出してくれる」
「わかった」
レンはブルーローズからセイブザクインを取り出しイングリットに渡す。
イングリットはセイブザクインを握り水晶の元に歩く。
「まあ、この辺りでいいか。イングリット」
数歩歩いたところでレンはイングリットを呼び止める。
「……」
イングリットは振り返ることなく足を止める。
「いや、こう呼んだ方がいいか? 初代皇帝ディアナ」
レンがそう声をかけるとイングリットは振り返る。
「よくわかったね」
イングリットの瞳は黄昏色をしており、雰囲気も一変して、どこか冷たい表情をしていた。
「よく言う。わざわざ俺たちにわかるようにしていたくせに」
レンがそう言うとディアナは認めるように一度小さく笑う。
実際、探偵の真似事をした程度ですぐに証拠が多く出て来て初代皇帝が関わっているとわかった。
わざと残している物や気づいて欲しいというように物を持ってくるなど隠す気がないようだった。
「帝国だってあんたがそこにいるって知っているようだ」
帝国軍もこれからどんなことが起きてもいいように動いている。
知らなかったのは帝国の一般人とレンたちだけだった。
「まんまと俺たちはあんたの手の上で踊らされていたってわけだ」
「不快だったなら謝るよ。どうしてもあなたの力が必要だったから動いてもらったの」
「俺の力か」
「うん。わたしはこの水晶とセイブザクインを破壊して中に捕らわれた騎士の魂を解放する。それで結界が壊れて魔獣が大量に帝国に攻め込んでくるから倒して欲しいの。あなたは帝国を救った英雄となり、わたしは騎士の魂を解放できる。どちらも悪くなく利益しかないよ?」
ディアナはレンに手を差しだしてくる。
それで犠牲が出なければレンたちにもメリットしかなく協力する価値はある。
だがレンは迷うことなく首を横に振り手を取らない。
「なぜ?」
「それじゃあ、あんたの心は救われない。失った人は帰ってこないし、起こったことは変えられない」
「わたしの心を救うためにやるんじゃない」
「……そう思うなら、こう言ってやる。この計画で誰かが死んだらどうするつもりだ。死者のあんたが責任を取れるのか?」
「……そうだね。わたしは取ることできない。だけどそれでもわたしはやるの」
「そうか。だったら俺はお前を止める」
「そう。我が騎士よ。力を貸しなさい!!」
交渉決裂とブルーローズを抜くとディアナはセイブザクインを掲げ白銀の騎士が五人現れる。
「わたしがこれを使えないと思っていたからセイブザクインを渡したのでしょ」
「使えるとは思っていた。わざわざ使えないふりまでしていたからな。ただできて二、三人だと思っていたが。まあ、誤差か」
青い炎を散らして周囲を照らす。
次の瞬間、金属がぶつかる音が空洞内に響く。
ブルーローズで騎士の剣を弾く。
全ての騎士が離れた瞬間、剣を一度退く。
「二の型 風舞」
迫る騎士に合わせ一閃。
一陣の風が吹き騎士の身体を両断する。
「ティア!!」
「はいっ!!」
ティアに声をかけ一気に勝負をしかける。
「させない」
ティアの足元から檻のような結界が出現し捕らえられる。
レン一人でもとディアナの元に駆ける。
「ッ!?」
地中からの気配を感じ後方に飛ぶ。
レンの進行方向だった場所に岩の壁が出現し隔たれる。
「言ったはずだろう。皇帝の血とこの場所を守ると」
カイが自身の身長ほどの長さの斧槍を持ち歩いてくる。
「まあ、兄弟ならやると思っていたけどな」
へらへらしたクラウスまでもフェイルノートを展開しカイの隣に立つ。
「立ちはだかるか」
「言っただろ? 俺は妹の味方だって。兄弟恨むなよ」
冷ややかな表情で矢を放つ。
一撃目を弾くとレンは移動し的を絞らせない。
一撃の重さは知っている。当たれば足を止められる。
「岩柱」
行き先を塞ぐように無数の柱が地中より出現する。
「くっ」
柱を躱す瞬間、矢がレンの太ももをかすり血が流れる。
「動き、落ちてるぞっ!!」
剣状にしたクラウスが迫る。
ブルーローズで防ぎ切り返す。
だが軽やかに躱される。
「逃がすか!!」
下がろうとするクラウスを追いかける。
「先生」
「ああ」
岩がレンの腕を拘束する。
一瞬で岩を破壊する。だがその一瞬が命取りだった。
クラウスがレンの腹部に手の平を打ち付ける。
「くっ」
鈍い痛みが広がり、血を噴き出す。
(こんなものっ!!)
地面に着いてしまった膝を立てようとするのだが視界が揺れ立てない。
「効いただろ? 魔力を込めた一撃だ。いくら回復しようが痛みは続く」
クラウスの言う通り治っているはずなのに痛みは引かない。
だったら回復など必要ない。
レンは回復用の魔力をブルーローズに集め、痛みを堪え立ち上がる。
「三の型 疾風!!」
高速の移動と共に放たれる一閃。
だが響くのは鈍い音だった。
「いくら速い技だろうと知られていたら対処のしようがある」
岩の壁に頭からぶつかり崩れ落ちる
「帝国式剣術。いい剣術だが使い手は多く見てきた。習いたてのお前よりも詳しい」
岩の柱で動かなくなったレンのことを空に浮かせる。
「地縛球」
槍状の岩が集まりレンを包み込み球体となり宙に浮く。
岩の隙間から血がぽたぽた地面に垂れ落ちる。
「ふむ。内部でまだ生きているか。全身を岩に貫かれても死ぬことできないとは哀れだ。そこまでしてなぜ戦う」
「終わったようね。お疲れさま」
「約束は果たした。やるなら早くやるように」
「わかった」
ディアナは水晶に手をかざす。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます