第52話 帝国と皇帝15

 観光を終えて二人は城に戻り自室に戻った。

「あの。何か食べたい物とかありますか?」

「食べたい物か。ティアのカップケーキかな。何だかんだであれが一番好きだから。まあ折角帝国の食材を使うなら帝国料理っていうのもありだが」

「なるほど。わかりました。折角だからレシピを借りていっぱい作ってみんなでお茶会をしましょう」

 気合いの入っているティアにレンは笑いかける。

 だが一瞬表情を固くする。

「善は急げです。シャルロッテさんにレシピを貸してもらいに行ってきますね」

「ああ。気をつけてな」

 ティアがシャルロッテの待機している部屋に向かったことを確認した後、レンは自分が使っている部屋へ足早に戻る。

 扉を音が鳴らないように開け中を覗く。

 人影がレンたちの調査資料を手に取り眺めているところだった。

 レンは音を立てず素早く背後を取るとナイフを取り出し背中に当てる。

「資料を机に置いて、両手を上げ、膝を地面につけろ」

 抵抗されることも考えていたレンだったが侵入者は大人しくレンの指示に従って両手を上げて膝をつく。

「まさか兄弟がこんなに気配を消すことが上手いとは」

 兄弟という言葉に侵入者が誰なのかわかった。だがナイフを降ろすことはしない。

 イングリットの兄のクラウスだ。

「あんた、何のつもりだ。入るなって言ってあっただろ」

「わかっている。ただ兄弟たちがどれだけ調べられたか見たくてな」

「あんたの行動は敵として見られても仕方がないことだ。」

「俺は妹の味方だ。兄弟が妹の味方であるなら俺は兄弟の味方だ」

「……。今回は見逃す。だが一つ話せ。俺たちの資料を見てどうだった」

 レンの問いかけにクラウスは一度小さく笑う。

「ああ。かなりいい線行っている。数日でここまで調べたのは流石だ」

「その様子だと。何か情報を持っているんだな」

「そうだ。ほら。こいつをやる」

 クラウスは大きな封筒一枚を渡してくる。

 レンは封を開けて中身を見る。中には二つの物が入っていた。

「一つは天幕の儀当日の帝国軍の配置。もう一つは、古い本か」

「王族しか見ることができないものだ。どうだ役に立つだろ?」

 自慢げにするクラウスに対しレンは本を開きめくっていく。

「これは日記か」

「初代皇帝がつけていた日記だ」

「そうか」

 レンはざっと読み渋い顔をする。

 正直読んでいて苦しくなるような内容だった。

 最初の方は集った仲間和気あいあいとした内容が続いたが、人が集まり魔獣との戦闘が多くなるにつれて人が死に自分のことを責める内容が増えていった。そして神の元に向かうと書かれた日から暫く日が空いた後、マイルドに表現するなら行かなければ良かったという事に近いことが書かれていた。それから後悔するような言葉と魔獣を倒した数が淡々と書かれていた。

「兄弟。一つ聞いていいか? どうするつもりなんだ?」

「俺やティアが納得するような結果にする」

「そうか。なら頼むぜ。兄弟」

 軽やかに立ち上がりレンのナイフを躱し部屋の外に出ていった。

 やはりクラウスはただ者ではないと思うのだった。

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