第49話 帝国と皇帝12

 ティアと合流し朝食を取った後、イングリットの案内で天幕の儀の儀式を行う場所に向かう。

 城内にあるエレベーターに乗り地下へ降りていく。

 そのエレベーターの中にクラウスがいて、ティアはレンの後ろに隠れてレンはどういうことなのかとイングリットを見ていた。

「兄さんがどうしても行きたいって」

「そうか。問題ないならいい」

「そういうわけだ。邪魔にならないようにしているから頼むぜ。兄弟」

 長いエレベーターを降り辿り着いた場所は城が一つ丸ごと入りそうなほどの大空洞だった。

 そしてエレベーターの横に立つ謎の茶髪の長身の美形な男。

 誰だと警戒するレン。だがイングリットが問題ないとその男に寄っていく。

「この人はわたくしたちの歴史の先生よ」

「だがこいつ、人じゃないぞ」

「そうですよね。私にもわかるくらいの魔力の量です」

 人間を超えた魔力に圧倒的な威圧感、人間ではない超常的な存在であると二人に感じさせた。

「この人は土の大精霊なのよ」

「大精霊ですか!? この世に四人しかいない精霊の王ですよ。なんでこんな帝国の城の地下にいるのですか!?」

 ティアがあり得ないと驚いていると土の大精霊が答える。

「かつての盟友との約束でこの場所と皇帝の血を持つ者を守っている。普段は帝都でカイという名前で過ごしている」

「そうなんですか」

「お前たちの話は聞いている。ここは俺が作った地下空間だ。よほどのことがなければ崩落することはないから安心してほしい」

「へぇ。凄いですね」

 カイの優しげな声の説明にティアは目を輝かせて聞いていた。

 もしかしたらティアは落ち着いたような美形な年上が好きなのかもしれない。

 そんなことを感じたレンだったが仕事なのでそれは話さず空間を調べる。

「大地のマナが中心に集まって、あの水晶に集まっているのか」

「ええ。そうよ。ここは龍脈の中心で、あの水晶が大地のマナを使って魔獣除けの結界を張っているのよ」

「なるほどな」

「ただ、天幕の儀まであの場所に近づいたら駄目だから気をつけてね。それと皇帝の血に対して刃を向けない方がいいわ」

「どうして?」

「あの人と戦うことになるから」

「さっきの約束はそういうことか。わかった。憶えておこう」

 レンはそう言うと地下の空間について調べる。

「確かにあいつが作った空間だから全体にあいつの魔力を含んでいる。ほとんどあいつの陣地か。この状況であいつと戦うとなると大変そうだ。心強い味方だな」

「ええ。そうね」

 イングリットは何か思うことがあるようでじっと水晶のことを眺めていた。

「何か思うことがあるのか?」

「少しね」

「そうか。儀式って大変なのか?」

 レンが聞くとイングリットは首を横に振る。

「そんなに大変じゃないわ」

「そうか。意外に疲れるんじゃないかと思ったがそうならいい」

「心配してくれるなんて、優しいじゃないの。惚れた?」

「依頼者だからな」

「またまた」

「で、いつまで下見するつもりなんだ?」

 イングリットのからかいを躱すとレンは聞く。

「大丈夫だとわかったからもういいのだけど、ティアがカイと楽しそうに話しているからまだいてもいいわよ」

「そう」

「そんな興味がないとカイにティア取られるわよ」

「……」

 レンはイングリットの言葉に固まり考える。それに悪いことをしてしまったという表情をするイングリット。

「あー。冗談だから本気にしないで」

「別に」

「ティア。ちょっと来て」

 イングリットが呼ぶとティアは会話を終えて歩いてくる。

「どうしましたか?」

「彼氏が嫉妬しているのよ」

 イングリットが直接的に言うのでレンはどういう表情をしたらいいのかと思い、ティアは目を丸くしてレンを見ていた。

「レンくんが嫉妬?」

「カイと仲良く話しているからティアが取られるって」

「えっ」

「ティアがカイのことを好印象みたいだし」

「確かに凄い方だとは思いますが、レンくん以外は好きになりませんよ」

 そんなこと当たり前というような様子で言うのでレンの表情が嬉しいというように和らぐ。

「レンくん。えへへ」

 ティアはレンに嬉しそうに寄りレンの腕に自分の腕を絡ませる。

「大好きです」

「ああ。俺も大好きだ」

 自分たちの世界に入る二人にイングリットは一度咳をして注意を引く。

「こんな場所じゃなくて城の中に戻ってからしたら?」

「そうですね」

 イングリットの言葉に従い地下から城に戻るエレベーターに乗りこむ。

「あれ? クラウスさんは?」

 話している間にクラウスの姿が消えていた。

 遮蔽物のような物もなく隠れる場所がないのだから地下にはいないのだろうか。

「飽きて帰ったんじゃないかしら」

「そんなんでいいのか?」

「帰り方も知っているから問題ないわ」

「そうか」

 イングリットが一番クラウスのことを知っているのだからそのイングリットが問題ないと言ったのだから問題ないのだろう。

「ティア、戻ろう」

「はい」

 ティアと共にエレベーターに乗るとイングリットがエレベーターを起動し地上に戻った。

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