第48話 帝国と皇帝11
翌朝。
まだ陽が昇り始めた頃、レンは一人城内の訓練所で木剣を振り訓練していた。
技を刻まれたばかりで身に着けるため型の練度を上げる。
一通りの型を終えたところでレンは木剣を下ろすと振り返り、唯一の観客を見る。
「見ていても面白くないだろ?」
「そんなことないわ。わたくしにとって珍しい物だもの」
「そうか」
レンはタオルで汗を拭き、息を整える。
「ねぇ。聞いていい?」
「答えられることなら」
「じゃあ、剣の訓練ってむなしくならない?」
「ならないな。逆になんでそう思う?」
「どれだけ強くなっても魔獣に殺されたら同じでしょ?」
「俺という存在はそうかもしれない。だけどいつか人類が滅びるとしても俺は笑って欲しいやつが年を取って安らかに眠れるのなら努力はむなしくない」
「そんなものなの?」
「送り出すばかりのお前にはそう思うかもな。死んだらそこで終わり、頑張ったって無駄。だったらもっと楽に生きた方がいいって。だけど、それは違う。死んだって魔獣を倒したことは残るし、魔獣が倒されて助かる人間だっている。初代皇帝だった少女の元に集まった騎士だってそうだ。騎士たちが守ったからこそ帝国がある。帝国の国民がいま生活を送れる。だから、魔獣を一匹でも多く倒せるようにと鍛えることは無駄じゃないだろ?」
「わたしは……」
「……お前が自分は何をできたのかわからないのだったらやってきたこと俺に話してみろ。俺が死ぬまで憶えてやるから。それで褒めてやる。それでお前のしてきたことは無駄にならないだろ?」
そんなこと言われると思っていなかったようでイングリットは目を丸くして驚き、小さく笑う。
「レンって意外とたらしよね」
「……たらし。褒め言葉って思っていいんだよな?」
「ええ。とっても褒めているわ。ねぇ、もう一度技見せてくれない?」
「練習だからな。いくらでもやるから勝手に見ていってくれ」
レンはタオルを置くと木剣を握り帝国剣術の技の練習を続ける。
その間イングリットは静かにレンの動きを見ていた。
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