第47話 帝国と皇帝10

 温かなお湯が並々と入った浴槽でレンは一人考え事をしながら入浴していた。

 ここは客人用の帝国の城内にある浴室。

 大理石でできた竜の口からお湯が流れ落ち、天井には星空をモチーフにした天井、三十人以上入っても余裕があるような大理石の浴槽。

「はあ……」

 温かさと考え事の所為でため息が出てしまう。

「初代皇帝。問題と謎が多い」

 買ってきた本を読んで初代皇帝であるセイブザクインの起動者の生涯を知った。

 天真爛漫だった村娘だったディアナ、彼女は十歳の時に遺跡で神の声を聞きセイブザクインの原型である装備を授かる。その装備を使い、魔獣を倒して人を救った。その力に人が集まり、町ができた。街を守るために騎士隊ができ、さらに町は大きくなり国となった。総てが順調のように見えた。そこでセイブザクインの原型が壊れ魔獣を倒す方法が無くなった。国を守るために五十人の騎士を連れて唯一神がいると噂されている霊峰バルムまで向かった。バルムでは噂通り神がおり、原型から新たにセイブザクインを作り、天幕の儀に使われる水晶も授ける。だが四十二人の騎士が犠牲となり、国に戻ったディアナはより一層魔獣を倒す様になる。しかし、魔獣の数は減ることなく騎士の犠牲ばかり増えた。ディアナは帝国を守るため巣の破壊に向かう。だが帰ってきたのは血に塗れたセイブザクインだけだった。その後、セイブザクインは次の起動者が来るまで安置し、皇帝の座は妹が引き継いだ。

 どの書物も似たようなことが書かれていて、初代皇帝は巣の破壊に失敗して死んだとされている。

 巣の破壊はできず死ぬのは今までの歴史上何度もあったこと。

 では、何が謎なのか。

 死んだとされている騎士がなぜセイブザクインの中にいるのか。

「霊峰で死んだ四十二人の魂でセイブザクインを作ったとしか」

 そう考えると神が作ったなんて詭弁で魔獣を殺すために恐ろしい手段を使ったとしか思えない。

 だがその武器を作って戦う事を選んだ者、犠牲になった者の想いも理解できた。

(何を犠牲にしようとも大切な人の生きる場所を守りたい。俺だってティアが安心して生きていけるのならどんなことでもやる)

 だからレンはいろいろなことが頭を巡るのだった。

 すると脱衣所から繋がるドアが開く音が聞こえる。

 客人用の浴場なのだからレン以外も使う。

 だけど今帝国の城にいる客はレンたちしかいない。

 つまり入ってくるのは一人しかいない。

「「……」」

 生まれたままの姿のティアと目が合ったレンは固まりティアのことを見てしまう。

 ティアもどうしてレンがいるのかと固まっていた。

 かなり長いように感じた一瞬の後、レンは顔を勢いよく背け、ティアは身体を隠す様にしゃがむ。

(しっかり見てしまった)

 ティアの裸がくっきりと脳内に残ってしまった。

「す、すまない。俺は出る」

 レンは慌てて浴槽から出て浴場の外に向かう。

 だが逃がさないとレンの腕を掴むティア。

「「……」」

 仕方がないのでレンは浴槽の中に戻る。

 ティアは身体を洗うとレンから少し離れた場所に入る。

 何か話があるのではないのかと思いつつレンはどうするべきなのかと頭を抱えていた。

「レンくん。見ました?」

「……ああ。悪い」

 ティアの感情を抑えたような声にレンは事故だが悪いことをしてしまったと思う。

 ティアは恥ずかしいというようにお湯で顔の半分を隠す。

「悪いな。気分を害したのなら思いっきり殴ってくれ」

 レンの言葉にティアは首を横に振りお湯から顔を出す。

「ど、どうでしたか?」

「聞くのか!?」

「だ、だって見られただけじゃあ損じゃないですか」

「だからってな。今にも恥ずかしくて死にそうな人が感想聞くか? 聞いたらさらに恥ずかしくなるぞ」

「だとしてもです」

「そうか。女性の裸は他に見たことがなかったからどうなのかわからないが、綺麗だと思った足の先も指の先も、他の場所も」

 レンの感想を聞いてティアは我慢できずお湯の中に潜る。

「ぷはぁ」

 それほど息が長く続かなかったようですぐに顔を出す。

 今度は手で顔を隠す。

 だが顔を隠しても耳まで真っ赤なため物凄く恥ずかしがっているのが分かった。

(可愛いな)

 レンは優しげにティアに向かって微笑んだ。

「あ、あの。元気になりましたか?」

「……。まあ、悩みは無くなった」

「それじゃあ、聞いていいですか?」

「ああ。答えられる範囲なら」

「その。グリットちゃんについてです。なんで最初に会った時はわかったのですか?」

「魔力が人の数倍多くて感じ取れたからわかった。だけど、今日は多いは多いんだけどそこまでの多さでわからなかった」

「魔力の変動なんて起こるものなのでしょうか?」

「半減から倍増くらいはするけどそれ以上の変化は流石にこんな短時間で起きるはずがない」

「じゃあ特殊体質ということですか?」

「どうだろうな? だがそれだけ魔力が変化すると身体に不調が出るはず」

「でも元気そうでしたよ」

「変だな」

 レンはイングリットの身体の状況を考え一つ思い浮かんだことに苦い物を食べたような顔をする。

「どうしたのですか?」

「いや。少し考えたことがあって」

「話してみてください」

「ああ」

 レンはティアに考えたことを話してみる。

 ティアはそんなことあり得るのかと考えているようだったがレンの言葉は信じるつもりでいるというような反応を見せた。

「そうなるとそのようなことが書いてある本が必要ですね。あと、大聖堂行きませんか?」

「大聖堂?」

「城から西に大通りを進んでいくと大きな教会がありまして、大聖堂と呼ばれています。そこには帝国ができてから魔獣との戦いで死んだ人の名前を刻む石碑があります」

「帝国建国以来の石碑か。わかった見に行こう」

「はいっ!!」

 ティアは思わず立ち上がりそうになるがすぐに湯の中に戻り身体を隠す。

 長く湯に入り過ぎたな思い顔をタオルで隠すレンだった。

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