第46話 帝国と皇帝9
複数の店で買い物をし終えて、城に戻った二人。
「荷物はどうする? すぐ必要ない物は俺が使っている部屋に置いておけるが」
「お願いします」
「わかった」
レンは持っていた荷物を部屋に運んでいるとレンたちが戻ってきたと聞いてシャルロッテがやってくる。
「お帰りなさいませ。紅茶を淹れましょうか?」
「ああ。頼む」
シャルロッテが準備している間にレンは荷物を置き終わり、鞄から本を数冊取り出す。
「本を購入なされたのですか?」
「ああ。調べたいことがあったから」
「初代皇帝関連の本ですか?」
「セイブザクインの最初の所有者だって話だから調べようと思って」
「左様でございますか。紅茶が入りました」
「ありがとう」
レンは本を置くと紅茶を一口。
「落ち着く。ティア、遅いな」
「様子を見てまいります」
シャルロッテが部屋を出てティアの様子を確認しに向かう。
だが少し待ってもシャルロッテも戻ってこない。
レンは紅茶を飲み干すとティアとシャルロッテの様子を見るため隣の部屋に向かう。
ノックをして声をかける。
「大丈夫か?」
「れんくん」
なんだか弱ったようなティアの声がドアの向こうから聞こえた。
あまり良くない状況なのではないかと思いレンはドアを開ける。
「……え?」
部屋の中を見てレンは一瞬意味が分からず固まる。
イングリットがティアの使っている部屋の中でティアに抱きついていた。
後から見に行ったシャルロッテはどうしたらいいのかわからないと困っていた。
「たすけて。れんくん」
生気が吸われたようにヘロヘロになっているティアをイングリットから奪うと抱きしめる。
「で、なんで皇帝のイングリットがティアに抱きついていた?」
「部屋にいたんです」
「しょうがないじゃない。レンの部屋は入れないからこっちで待つしかなかったんだから。それでだいぶ待ったからティアに甘えたわけ」
「はあ。それで何の用だ?」
「現状確認と報告ね」
イングリットは椅子に座ると話す。
「一応、仕事だから聞いておかないと。街に出たんでしょ? 何かわかったことは?」
「街の人と話してお前の話を聞いた。どの店もあんたが来なくなって寂しいと言っていた」
レンがそう言うとイングリットはかなり気まずいなというように目線を逸らして苦笑いしていた。
「半年前、お前に何があったんだ?」
「簡単に言うなら、先祖の墓参りに行ったらそこで過労で倒れて二週間くらい意識不明になったのよ。それで皇帝なら無駄な外出はするなって言われたの」
「そうか」
街で聞いた話と大体同じだとレンは思った。
「わたくしのことだけを聞いてきたということはないんでしょ?」
「まだ推測の域だが考えたことがある」
「へえ? 何?」
「その前に、聞きたいことがある。俺たちが帝都に来ることを国民に話したのはいつだ?」
「あなた達が来た日の夜よ。人によっては次の日の朝に知ったかもしれないけど」
「そうか。ならいい。俺の推測だが、俺たちがあったお前に似た少女だがあれは実在しない」
「どうして? 見たんじゃないの?」
「ああ。見たし、ぶつかった。だが、街の人に話を聞いた時にそんな話題は出てこなかった。お前の変装だとも言っていなかった。初対面である俺たちがお前に似ていると思うくらい似ているのに変装だと誰も思わないなんておかしいだろ。だから誰もあいつを見てないんだろうなと」
「だから実在しない?」
「ああ」
突然目の前に現れたことと話し終えたら元々いなかったように消えたこと。
魔獣の動きを追うことができるレンの目と直感を掻い潜って姿を消したことを考えれば、あれは存在する人間ではないと結論づけた。
イングリットはレンの話を聞き、何をすべきなのか考えているようだった。
「わかったわ。こっちからの報告だけど明日の午前中、天幕の儀を行う場所を視察するわ。勿論護衛をする二人は来てもらうわ」
「わかった」
「さて、わたくしの要件は終わったわ。ティア、おいで。可愛がってあげるから」
両手を広げてティアを招こうとするイングリットにティアはレンの背後に隠れる。
レンが見ていない時にされたことが恐怖になっているのだろう。
「何したんだ。というか、ティアは俺の恋人だ。可愛がるとか止めてくれ」
「嫉妬?」
「そうだ」
「ふーん。じゃあレンを可愛がってあげるから」
予想外の相手を標的にされたのでティアは口を開けて固まっていた。
「年上に可愛がるなんて言うもんじゃない」
「じゃあ可愛がってくれる」
「親にでも頼んでおけ」
「冷たいわね」
レンは軽くあしらうと椅子に座る。
「だがまあ。茶なら付き合う」
「それは嬉しい提案ね。シャルロッテ、お願い」
「かしこまりました」
シャルロッテが用意をし始めたのでレン達はそれから少しの間のお茶会をして過ごした。
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